今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、なぜかおまけで女神を押し付けられる~
閑話休題59~その頃のオヤジ ご隠居様の機嫌を取るのも大変なのだ~
閑話休題59~その頃のオヤジ ご隠居様の機嫌を取るのも大変なのだ~
オットー・エレクトロンである。
息子には完全にシカトされているが、一応ホルストの父親である。
最近になって私の元にとある報告が舞い込んできた。
報告は良い報告と悪い報告の二つある。
こういう場合、どちらから話そうかと迷うものであるが、とりあえず悪い方を話して気を楽にしたいので、そちらから話すことにする。
悪い報告というのは娘のレイラのことである。
うちの娘は修道院を卒業した後、冒険者になるとか言い出して行方不明になっていたのだが、最近息子と同じノースフォートレスの町で冒険者をやっていることが判明したのだ。
そこまでは良かったのだが、うちの娘、冒険者の仕事にはあまり向いていないようだ。
仕事で失敗して二進にっちも三進さっちも行かないような状態になっていたらしい。
それでホルストに助けてもらって何とか生活できるようになったようだが、それにもかかわらず、ホルストに迷惑をかけ続けているようだ。
ホルストはそれをトーマスに報告したらしく。
「オットー。レイラちゃん、かなりヤンチャしてホルスト君やうちの娘に大分迷惑をかけているみたいだね。そろそろどうにかした方がいいんじゃないか?」
と、私までトーマスに苦情を入れられる羽目になってしまった。
ヒッグス家当主にそこまで言われてしまっては放置しておくわけにもいかず、今どうしようかと対応を考えるのに必死になっている最中なのであった。
こんな煩わしいことからは逃げ出したかったが、自分の娘のことなのでやるしかないのだった。
さて、悪い方の話は以上である。
それでは良い方の話を……と思ったが、時間だ。
今からご隠居様の所へ行かなければならないのだ。
どうせご隠居様の所で良い方の話について話すことになるので、続きはご隠居様の所で話すとしよう。
★★★
「オットー、よく来たな。元気そうで何よりだ」
ご隠居所にあるご隠居様の私室に赴くと、そうご隠居様が出迎えてくれた。
「はい、ご隠居様もお元気そうで何よりです」
「うむ、最近は寒かったこともありあまり部屋から出ないようにしていたが、慶事が立て続けに起こったのでのんびりともしていられなくなり、あれやこれやと動いておったら食欲もわいて来て、すっかり元気になってしまったわ」
屋敷の使用人が出してくれたお茶を飲みながら、そんな他愛もない会話をする。
そうやってしばらく雑談した後、本題に入る。
「それで、オットー。お前も知っていると思うが、ホルスターとミラの結婚についてお前はどう思う?」
「結構なことだと思いますよ。自分の孫だからという訳ではないですが、ホルスターならミラ様の旦那様にふさわしいと思います」
「うむ、ワシもそう思う。あれほどの才能と実力を備えた魔法使いはそうはおらぬ。ホルスターとミラが夫婦になれば、この先もヒッグス一族は繁栄して行くだろうとワシは考えている」
そう話すご隠居様の顔はとてもまじめなもので、一族の元惣領として、一族の繁栄を真剣に願っているように見えた。
まあ、ここまではよい。
ただ、ご隠居様はまだ何か言いたそうな感じだった。
多分、あれの件で私に何か言いたくて呼び出したのだろうから、当然といえば当然である。
ということで、それについて恐る恐る聞くことにする。
「まずお聞きしますが、ご隠居様はホルスターとミラ様の結婚については大賛成ということでよろしいですね」
「無論だ。ただ……」
「ただ、ホルスターが側室との結婚も決めてしまったことに不満がある。そういう事ですね」
私のその問いかけに対してご隠居様は大きく頷く。
やはり側室の件についての呼び出しだったのか。
私は自分の予想が当たったことをまったく喜べなかった。
というか、銀との結婚はご隠居様以外全員が賛成だ。
ホルスト夫婦はもちろん、ご隠居様の奥様にトーマスやユリウスも賛成なのだ。
ご隠居様がどう思おうが結果を覆すことは無理だ。そんなことをすれば、総スカンを食らう事は目に見えている。
実は私も別に良いのではないかと思っている。
あの銀という子のことは知っているが、良さそうな子だし、出しゃばってミラの地位を脅かすような子では決してないと思う。
多分、ミラと一緒にホルスターを支えてくれると思う。
だから気にしなくてよいと思うのだが、どうもご隠居様は気に入らないらしい。
一体何が気に入らないのだろうか。
まずはその辺から聞いてみることにする。
「それで、ご隠居様は何が気に入らないのでしょうか。銀はとても良い子だと思いますが」
「銀が良い子なのはワシも知っておる。ああいう子はワシがホルスターでも放っておかないだろう。だから銀に対して特にどうこう思っているわけではない」
「では、何が不満なので?」
「あの年で正室はともかく側室まで決めてしまうのはどうか。そう思ったのだよ。そんなことをすれば、ホルスターが女にだらしないと思われてしまうのでないか。ワシはそれが心配なのだ」
ああ、なるほどそういう事ね。
いや、別に気にするようなことではないと思うが。
身分の高い人だと、小さいうちから複数の妻をもらうことが決まっているとか珍しくないからだ。
まあ、ご隠居様が気に入らないというのならそれは別に構わないが、このまま放っておいて、トーマスたちにまでこのことが知られると私の立場まで悪くなってしまう。
ということで、ご隠居様をなだめて機嫌を取ることにする。
「ご隠居様、そのようなことはないと思います。ホルスターは、ヒッグス家正統の血を引く立派な子。一族の誰が女にだらしないなどという陰口を言うでしょうか」
「そ、そうか?」
「それにヒッグス一族の中では優秀な男性魔法使いという存在は非常にモテるものなのです。むしろ、モテればモテるほど皆がその人物を立派だと思うでしょう。現にご隠居様も若いころ非常にモテたと聞き及びます」
「そ、そういえばそうだったな。ワシのことは置いておくとしても、優秀な魔法使いはモテて敬われる存在である。我が一族のセオリーだったな」
「ですから、ご隠居様の血を引くホルスターも優秀で女が放っておかない存在なのです。そういう点、ご隠居様にそっくりでございます」
「そうかな?」
「ですから、このまま二人とも婚約させてれば、この年で二人も婚約者がいるということでホルスターの威厳が高まり、一族も安定して行くことと思います」
「そうだな。お前の言う通りだな」
私の話を聞いてご隠居様はとても機嫌がよくなり、以後銀の件については何も言わなくなったのだった。
一時は面倒くさいことになるかもと思っていたが、話がうまくまとまって良かったと思う。
★★★
その後、少し雑談をして私は帰路についた。
その帰り道、私は思うのだった。
本当にご隠居様はいつもわがままで困る、と。
ホルスターのことがかわいいのはわかるが、だからといってこんなくだらない用事で私を一々呼び出したりしないで欲しい。
いや、今回のことだけではない。
最近、ホルスターは修行で忙しいらしく私もご隠居様もあまり会えていないのだ。
前に会ってからすでに二か月くらいは会えていないと思う。
「お前の息子のホルストは何を考えているのだ」
と、そのことでもしょっちゅう呼び出されて愚痴を言われるのだ。
本当にたまったものではなかった。
私だって会えていないというのに。
それなのに今日みたいにくだらない話で突然呼び出されてご機嫌取りまでしなければならないなんて。
そろそろ精神的に限界が来そうだった。
だから私はこう必死に願うのだった。
ああ、誰か、この状況を何とかしてください。
本当、ご隠居様のご機嫌を取ってヒッグス一族の中で生きて行くのは大変なのだ。
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