第392話~銀、決意を固める~

 銀です。


 今日エリカ様のご実家に行ってきました。

 エリカ様のお兄様の赤ちゃんのミラちゃんを見に行くためです。


 ミラちゃんはとてもかわいい女の子でした。

 可愛すぎて見ているだけでもとても楽しくて、ホルスターちゃんと一緒になってミラちゃんのことを楽しく見ていました。

 それは皆さまが帰るまで続き、銀はとても楽しい時間を過ごしました。


 そこまでは良かったのですが、帰る時に非常にショッキングな話を聞いてしまいました。


「今度ミラのお披露目をする時にホルスターとの婚約の件も発表するよ」


 そうホルスターちゃんのおじい様が話しているのを聞いてしまったのです。


 何とミラちゃん、生まれる前からホルスターちゃんのお嫁さんになることが決まっていたのです。

 銀は非常に驚くと同時に、何だか悲しい気持ちになりました。


 皆様も薄々気がついていたと思いますが、銀はホルスターちゃんのことが大好きです。

 好きで好きでたまらないのです。離れて暮らすなど想像できないくらいに!

 それなのにホルスターちゃんのお嫁さんは既に決まっていて、もう変更はきかないのです。


 それを理解した時、頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなり、自分でも信じられないくらい心が真っ黒になったのでした。


★★★


 ヴィクトリアです。


 エリカさんの実家から帰って以来銀ちゃんの様子がどこか変です。

 いつもならとても明るく笑って周囲を楽しませてくれる子なのに、帰ってからは部屋の隅にうずくまって動こうとしません。


 一体どうしたのでしょうか。

 ワタクシ、とても心配です。


 ただ、全く心当たりがない訳ではありません。

 ワタクシ、帰り際にエリカさんのお父さんがホルスター君の婚約の話をしている時に銀ちゃんが驚いた顔をしているのを見ましたので。


 多分、それが原因だと思います。

 となると、ここはワタクシが大人として、そして恋の先輩として相談に乗ってあげるべきだと思います。


 さあ、銀ちゃん。ワタクシが相談に乗りますので何でも話してくださいね。


★★★


「銀ちゃん、何か悩み事があるのですか?」


 銀が部屋の隅で鬱々とした気分に浸りながらうずくまっていると、ヴィクトリア様が銀に声をかけてくれました。


「いえ、別に大したことはりません。大丈夫ですから、放っておいてもらっても問題ないです」


 銀はヴィクトリア様に心配をかけたくなかったのでそう言ったのですが、そんな言い訳ではヴィクトリア様は許してくれませんでした。


「そうですか。銀ちゃんにとってホルスター君のことは大した問題では無いということですか」

「!!!」


 どうやらヴィクトリア様はすべてお見通しのようでした。


「ううううう、うわああああん」


 ヴィクトリア様にズバリ指摘されてしまった銀は、こらえきれなくなって涙を流して泣き始めました。


「よし、よし。いい子だから泣かないでください」


 そんな銀をヴィクトリア様は抱きしめて優しく頭を撫でてくれるのでした。

 銀は優しいヴィクトリア様に思い切り甘えました。


「うわあああ、このままだと、ホルスターちゃん、ミラちゃんにとられてしまいます」

「やはり銀ちゃんはそのことで悩んでいたのですね。それで、銀ちゃんはどうしたいのですか?銀ちゃんもホルスター君のお嫁さんになりたいのですか?」

「なりたいです。でも、無理だということもわかっています。ホルスターちゃんにはミラちゃんという決まった相手がすでにいて、変更ができないことは理解しています」

「そこまではわかっているのですね。それで、銀ちゃんはこのままでいいのですか?」

「よくはないです。銀もできる事ならホルスターちゃんの側にずっと居たいです。でも、そんなこと無理ですよね。銀は所詮狐で人間ではないのですから。人間でないのに人間の連れ合いになりたいだ何て、おこがましいですよね」


 そう言う銀に対して、ヴィクトリア様は優しく話しかけてくれます。


「種族なんて関係ないですよ。ワタクシも一応女神なのですが、人間であるホルストさんのことを好きになってこうやって一緒に暮らしているのですから。だから、種族がどうこう何て言ってはダメですよ」

「ヴィクトリア様……」

「それにホルスター君にはミラちゃんがいるから一緒になれないと思っているようですが、この世界、甲斐性さえあれば複数の女性を奥さんにしている人は多いのですよ。ホルストさんだって、エリカさんが本妻ですが、ワタクシやリネットさんを奥さんにしているでしょう。ですから、銀ちゃんがその気ならホルスター君の奥さんになることも不可能ではないのですよ。どうですか。銀ちゃんがホルスター君の奥さんになりたいというのなら、ワタクシが協力してあげますよ」


 そうでした。この世界では、力のある男性は複数の奥さんを持つのが普通でした。

 ならば銀にもホルスターちゃんの奥さんになるチャンスがあるのかもしれないです。

 それならば……!


 銀は泣くのを止めて、真剣な目でヴィクトリア様の顔を見ながらこう頼みました。


「銀はぜひともホルスターちゃんの側にいたいです。ですから、ヴィクトリア様、よろしくお願いします」

「わかりました。そういうことなら、早速エリカさんに相談してみましょうか」


 そう言うと、ヴィクトリア様は銀の手を取り、エリカ様の所へ連れて行ってくれるのでした。


★★★


「まあ、銀ちゃん。ホルスターのお嫁さんになりたいの?」

「はい、エリカ様。銀はホルスターちゃんのお嫁さんになりたいです」

「そうなのね。別に構わないわよ。私は銀ちゃんがホルスターのお嫁さんになってくれるというのなら大歓迎よ。旦那様もそれでいいでしょう?」

「ああ、俺も構わないよ。銀だったらホルスターにお似合いの嫁さんになると思うよ」


 銀がヴィクトリア様に連れられてホルスト様夫妻の所へ行き、銀がホルスターちゃんのお嫁さんになりたいことを話すと、二人はあっさりと同意してくれたのでした。


 ただ、二人が了承してくれたからと言って、ホルスターちゃんの意思を確認しないわけにはいかないので、エリカ様がホルスターちゃんを呼んできてこう聞きます。


「ホルスター、よく聞きなさい。今日、帰りの馬車の中で話した通り、あなたはユリウスおじさんの所のミラちゃんをお嫁さんにしなければならない。それはわかっていますね?」

「うん、わかっているよ」

「よろしい。それで今から話すのは、ミラちゃんに加えてもう一人お嫁さんにしなさいということです」

「もう一人?」

「そうです。ほら、銀ちゃん、おいで」


 エリカ様が銀を呼んだので、エリカ様に言われるがままに、銀はホルスターちゃんの前に立ちます。


「ほら、あなたのもう一人のお嫁さんになる予定の銀ちゃんよ」

「え?銀姉ちゃんも僕のお嫁さんになるの?」

「そうよ。銀ちゃんもホルスターのお嫁さんになるの。一応聞いておくけど、もしかして銀ちゃんをお嫁さんにするのが嫌だったりする?」

「そんなことあるわけないよ。だって、僕銀姉ちゃんのこと大好きだし。銀姉ちゃんがお嫁さんになってくれるのなら嬉しいな」

「そう。じゃあこれで決まりね。では、ホルスター、銀ちゃんと結婚したいのならそのことを本人にきちんと言いなさい」

「うん」


 エリカ様に言われたホルスターちゃんは、改めて銀の方へ向くと、こう言うのでした。


「銀姉ちゃん、大好きだよ。僕と結婚してくれないかな」

「うん、いいよ。銀もホルスターちゃんの事、大好きだから」


 銀はそうやってホルスターちゃんの告白を受け入れると、黙ってホルスターちゃんを抱きしめるのでした。


「さて、ホルスター。これであなたもミラちゃんと銀ちゃん、二人も奥さんになってくれることになったのだから、二人とも大切にするのよ」

「うん」


 最後にエリカ様にそう諭されたホルスターちゃんはそう頷き、銀はホルスターちゃんのお嫁さんになることが確定したのでした。


「銀ちゃん、ホルスター君との婚約、おめでとう。これからは、ホルスター君の奥さんにふさわしい女性になれるように頑張るのですよ」

「銀、おめでとう。銀がホルスターのお嫁さんになってくれるのは俺としても嬉しいよ。ホルスターの事、よろしく頼むな」

「はい」


 ホルスターちゃんとの婚約が決まると、ビクトリア様とホルスト様がそうやってお祝いの言葉をかけてくださいました。

 その言葉を聞いた銀は、これでホルスターちゃんと一緒になれるんだという実感がわいて来て、うれしくなりました。


 ああ、ホルスターちゃんのお嫁さんになることができるなんて……本当夢のようです。


★★★


 その後は銀とホルスターちゃんの婚約をみんなに報告に行きました。

 まず最初に行ったのは銀のお母様の所です。


「まあ、ホルスター様が銀の旦那様になってくれるのですか。それは光栄なことです。ホルスター様、銀のことをよろしくお願いします」


 お母様は銀の結婚に賛成の様で、そう言いながらホルスターちゃんに頭を下げていました。

 お母様といた他の神獣の方々も喜んでくださいまして。


「「銀殿、おめでとう」」


 と、お祝いの言葉をかけてくれました。

 次に行ったのは一緒に修行をしていたリネット様とネイア様の所です。


「銀ちゃん、ホルスター君と将来結婚するの?それはおめでとう」

「ご婚約、おめでとうございます」


 もちろん、二人ともそうやってお祝いの言葉をかけてくれました。

 その次は、お二人の修業を見学していたマールス様とジャスティス様に報告しました。


「銀はホル坊の嫁になるのであるか。それはおめでとうなのである」

「うむ、そうか、銀はホルスター君と夫婦になるのか。めでたいことであるな」


 ジャスティス様とマールス様もそうやってお祝いしてくれました。


 そうやって身近な人たちにお祝いしてもらった翌日。

 今度はエリカ様のご実家に行きました。

 もちろんホルスターちゃんのおじい様にホルスターちゃんと銀の婚約を報告するためです。


「まあ、銀ちゃんもホルスターちゃんのお嫁さんになってくれるの?おばあちゃん、嬉しいわ」

「そうか。銀ちゃんもホルスターの嫁になるのか。うん、銀は良い子だし、いいんじゃないか」


 おじい様とおばあ様はホルスターちゃんと銀の婚約をそう喜んでくださいました。

 ミラちゃんのお父様とお母様も。


「あら、銀ちゃんもホルスター君のお嫁さんになるの?いいわね。ミラと一緒にホルスター君のことを一緒に支えるのよ」

「銀ちゃんもホルスターの嫁になるんだ。うん、二人ならホルスターを支えてヒッグス一族を繁栄に導けるだろう。とてもいいことだね。それはともかく、銀ちゃんおめでとう」


 そうやって銀のことを歓迎してくれるのでした。


 こうして、銀はホルスターちゃんのお嫁さんになることが決まり、幸せいっぱいなのでした。

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