第390話~ヴィクトリアの親孝行~

 お父さんたちを連れて王都ベラ・エレオノの観光に出かけた。


 最初は王都の中でも観光地として名高い『シュタイン・ガーデン』と呼ばれている庭園に向かった。

 ここは元々とある貴族の別荘だったのだが、それをどこかの商人が買い取り、庭園として整備し直して一般に有料公開しているのだ。


「うわー、きれいねえ」

「本当ですね」


 入場料を払って庭園に入るなりお母さんとヴィクトリアがうっとりとした顔になる。

 というのも、庭園の庭には色とりどりの花々が咲き乱れていたからだ。


 え?まだ春が来ていないのに何でそんなに花が咲いているのかって?

 簡単な話だ。

 ここには温室があって、冬の間そこで育てられた花が庭園に植えられて今こうして一般に公開されているのだった。


 ヴィクトリアとお母さんはよほど花が気に入ったのか、庭園中を巡っては花を愛でている。

 そのうちに二人は俺たちを呼び出して。


「「一緒に見て回りましょう」」


 お母さんはお父さんの手を、ヴィクトリアは俺の手を取って一緒に庭園を歩き回るのだった。

 その間中四人全員が良い笑顔をしていたので、ここに最初に来たのは正解だったのだと思った。


★★★


 庭園に行った後は食事に行った。


 行ったのはジビエ料理が売りのレストランである。

 山バトや熊などの肉料理を中心に山でとれた山菜や木の実などを使った料理を出してくれる店だった。

 普通なら野生動物の肉などの料理は癖があって食べにくいものなのだが、ここのは下処理をしっかりとしていて食べやすいと評判の店だった。


 ちなみに今日食べたのは野ウサギのステーキのコース料理だった。

 最初に前菜として栗を甘く煮た料理が出てきたので、まずそれを食べた。


「あら、これとてもおいしいわね」

「うむ、確かにうまいな」


 お父さんたちもそれをおいしそうに食べていたので、この分だとメイン料理も期待できそうだと思った。

 そのうちにどんどんとスープやサラダなどのコース料理が出てきた。

 もちろんそれらも期待通りにおいしかった。


「こちらが野ウサギの胸肉のステーキになります」


 そうこうしているうちにメイン料理が出てきた。

 早速みんなで食べる。


「このウサギとても脂がのっていておいしいわね。しかも脂がのっている割にはしつこくないし。これなら十分満足できるわ。そうでしょう?あなた」

「ああそうだな。これならいくらでも食べられそうだな」

「こんなにもおいしいものを食べさせてくれて、お母様もお父様もとてもうれしいわ。ありがとうね。ヴィクトリアにホルスト君」

「いえ、そんな大したことないです。お父さんにもお母さんにもお世話になりっぱなしだし、この程度で喜んでもらえて、とてもうれしいです」

「そうですよ、お母様。この後も楽しいイベントを用意してますので、是非楽しんでください」


 こうしてここでも四人で楽しく過ごすことができたのだった。

 うん、順調だ。この調子で残りも頑張ろう。


★★★


 昼ご飯を食べた後は、何か所か観光地を巡り、その後買い物に出かけた。


 やって来たのは王都でも有名な装飾品の店だ。

 値段は高いがデザインと商品の質が良いことで知られている店だった。

 ヴィクトリアが「お父様たちに何かプレゼントしてあげたいです」と言うので、連れてきたのだった。


「お父様、お母様。何でも買ってあげますので好きなものを選んでください」


 ヴィクトリアがそう言いながら、一緒になってお父さんたちに似合いそうなものを選んであげている。


「お父様にはこの渋いデザインの胸飾りが似合うのではないですか?天界の神々との会議の時にでもつけて行くとよいと思いますよ」

「そ、そうか。……うん、鏡で見てみる感じではよい感じだな。さすがはヴィクトリアだな。良いセンスをしているな」

「お母様にはこちらの首飾りが良いと思いますよ。デザイン的にそんなに派手ではないですので、これなら公的な会議などに着けて行っても大丈夫だと思いますよ」

「あら、ヴィクトリアも随分大人になったわね。こういう物を選べるようになって。ちょっと前までは子供っぽいと思っていたのに……お母さん、嬉しいわ」


 ヴィクトリアのセンスは二人のお眼鏡にかなっていたようで、ヴィクトリアが選んだ品を買ってあげると二人ともとても喜んでくれたのだった。


「へへへ。大人っぽいですか。お母様たちにそう言ってもらえると嬉しいです」


 ヴィクトリアも二人に褒められてとてもうれしそうだった。


 こうして親子で仲良くしているのを見るのは俺も嬉しい。

 何せ俺は親と不仲だったからな。

 だから嫁たちが自分たちの親と仲良くしている姿を見ると、どうしてもほほえましく思ってしまうのだった。


 俺もいつかはこんな家庭を築けたらいいな。

 今この光景を見ていると、自分の将来に対してそう期待を抱けて、ワクワクする気持ちが止まらないのだった。


★★★


 さて、そうやって買い物が終わった後は王都で一泊してから帰ることにする。

 それで、宿泊先に選んだホテルは……。


「お父様に、お母様。ここですよ、ここ!ここでディナーの最中に開かれる劇。とても面白いんですよ」


 前に俺とヴィクトリアが二人で行った食事中に演劇の上演をやっているホテルだった。


「うう、お姫様、とてもかわいそうです~」

「そうねえ。お母さんも見ていると悲しくなっちゃったわ。あんたはどう?」

「うむ。私も同じ意見だな。あの悪大臣め!とても許せない存在だな!あんな奴、ジャッジメントおじに頼んで地獄へ叩き墜としてやる!」


 今回の劇は悲劇のようで、仲の良かった王子夫妻が悪大臣の手によって引き裂かれて、最後は二人とも心中してしまうという内容だった。


「ああ、王子様。今生こんじょうで一緒になれないのならば、せめて生まれ変わって一緒になりましょう」

「ああ、わかった。姫よ。生まれ変わって一緒になろう」


 最後の場面でそうやって二人で心中して行ったのだが、そのシーンが迫真に迫っていてものすごく悲しくて俺としても良い作品だと思った。

 だから俺も、お父さん同様に、二人をこんな状況に追い込んだ大臣には地獄に落ちて欲しいとは思った。


 でも、お父さん。あくまでこれは劇ですからね。

 大臣役の役者さんは演技でやっているだけで、別に悪いことはしていないですからね。

 だから、デリックたちみたいに大臣役の役者さんを地獄へ墜としたりしないでくださいね。


 ……って、お父さんの目を見ていると、本当に役者さんを地獄へ墜としそうで怖くなってきた。

 それだけ役者さんの演技が迫真に迫っていたということだが、役者さんが本当に地獄に堕ちてしまっては俺的には申し訳なさすぎる。


 これは後でちゃんと釘を刺しておかなければな、そう思うのだった。


★★★


 さて、ディナーショーも終わったことだし後は寝るだけである。


「うわー、広い部屋ね。それに眺めも良いし」


 部屋に入るなり、お母さんがガラス張りになっている部屋のテラス席から外を見てはしゃいでいる。


 今日予約しておいた部屋はホテルで一番値段の張るスィートルームだった。

 部屋の壁の一か所がガラス張りになっていて、そこにはテーブルも置かれテラスになっていて外の風景も楽しむことができた。

 部屋についている風呂も豪華なもので、ゆったりと入ることができた。


 それで、とりあえずそのお風呂に各自入った後は、ガラス張りのテラスで皆でお酒を飲みながら夜の街の風景を楽しむことにする。


「ここから見える町の夜景、きれいですね」

「そうだな。この世界にもこのような美しい夜景を見ることができる場所があるんだな」

「本当、素敵ね。こんな場所に連れて来てくれたホルスト君たちには感謝だわ」


 今日は週末ということもあり、結構遅い時間だというのにまだ町で遊んでいる人が多いらしく、町の中は街頭や娯楽施設が放つ施設の光であふれていてとてもきれいだった。

 その景色にみんな感動し、お酒を飲む。

 理想的な夜の過ごし方だと思う。


 そうしているうちにお酒が回ってきて眠くなってきたので寝ることにする。


「それじゃあ、ヴィクトリア。お父さんたちと仲良く寝るんだぞ」

「は~い」


 お父さんとお母さんが「久しぶりにヴィクトリアと一緒に過ごしたいわ」と言うので、一番いい部屋で三人に寝てもらう事にして、俺たは一人奥の部屋で寝ることにした。


「おやすみなさい」

「「「おやすみなさい」」」


 別れ際、三人とも嬉しそうな顔をしていた。

 それを見ながら、俺は三人ともよい夢が見られるといいなと思うのであった。


★★★


 朝になり、帰る時間になった。

 ホテルを出るなり、お母さんが俺たちに挨拶してくる。


「昨日は楽しかったわ。こんな素敵な旅行をプレゼントしてくれてありがとうね」


 そう言いながら俺とヴィクトリアの頭をいとおしそうに撫でてくるのだった。


「それじゃあ、またね」


 最後にそう言い残すと、お母さんは去って行った。


「それでは、俺たちも帰るか」


 そしてお母さんと別れた俺たちもブレイブの町のヒッグス家の商館へと帰るのだった。


★★★


 なお、その後のことを話すとお父さんの機嫌が滅茶苦茶良くなった。


「お父様、もうお食事はよろしいのですか」

「ああ、もう充分食べたからいいよ」


 そうやって暴飲暴食をすることもなくなったし。


「ホルスト君、今日も元気そうだね」


 と、俺にも少しは声をかけてくれるようになった。

 まあ、この分なら俺とヴィクトリアの作戦は大成功と言ったところだと思う。


 その代わり、別の問題が生じた。


「あら旦那様。ヴィクトリアさんに聞きましたよ。親子水入らずで、王都でとっても楽しく過ごしてきたらしいですね」

「アタシも聞いたよ。おいしいものを食べて、あっちこっち行ってディナーショーにも行って来たそうじゃない?いいなあ、羨ましいな」


 ヴィクトリアに話を聞いたエリカとリネットが自分たちとその両親も連れて行けと、暗におねだりしてきたのだった。


 まあ、エリカやリネットの両親には十分にお世話になっているから、それは別に構わないのだけれど、すぐにという訳には行かない。

 素敵な旅行をプレゼントするためには色々と準備が必要だからな。


「わかった。今回の旅が終わったらエリカやリネットの御両親を誘って旅行へ行こう」


 そうやって一応エリカたちには言っておいて、後日検討することにする。


「「ありがとうございます」」


 俺の返事を受けてエリカとリネットがまぶしいで笑顔でお礼を言ってきたので、これはまた頑張ってプランを考えなきゃなと、俺は頭を悩ますのだった。

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