第389話~ヴィクトリアのお父さん、不機嫌になる~

 盗賊団をせん滅してからしばらく後。


 なぜかヴィクトリアのお父さんの機嫌がとても悪かった。


「ふむ、この位では食べ足りないな。ヴィクトリア、すまないけどもうちょっと食べ物の用意をしてくれないか」

「は~い。ただ今」


 不機嫌を紛らわすためだろう。お父さんは朝から晩まで何かしら食べていて、足りなくなるとヴィクトリアに何か食べ物を用意してもらっていた。

 何でそんなに機嫌が悪いのだろうと思い、ヴィクトリアに聞いてみると。


「ワタクシとホルストさんが抱き合ってイチャイチャしているところを見ちゃったそうですよ」

「あちゃー、そんな場面を見られちゃったのか。それはお父さん不機嫌になるな」


 ヴィクトリアに事情を聞いた俺は頭を抱える。


 俺は三人の嫁をちゃんと平等にかわいがっている。

 俺はそれを当然のことだと思っているし、嫁たちも「私たちのことは平等にかわいがってくださいね」と、そうなることを望んでいるので望み通りにしている。

 ヴィクトリアのお父さんやお兄さんがこうやって近くにいる時もそれは変わらない。


 ただ二人にそれを見せるのはどうかと思ったので、最近ヴィクトリアとはこそこそとやっていたのだが、それがお父さんにばれたらしい。

 それでお父さんの機嫌が悪いという訳だ。


「別にそんなわがままなお父様何か放っておいてもいいのですよ」


 と、ヴィクトリアは言うのだが、それでは俺の気が済まなかった。


「そういう訳にも行かないだろう。お父さんがここへ来ているのは俺たちに協力するためなんだぞ。だから俺としてはここにいる間は精いっぱいのことをしてあげたいと思うんだ」

「ふーん。そうですか。ホルストさんの気持ちはわかりました。そこまでお父様に気を使ってくれるだなんて、ホルストさんって本当にお優しい人ですね。そういう事なら、何かお父様の機嫌を取る方法を考えましょうか」


 ということで、二人で何かお父さんにしてあげられることがないか相談するのだった。


★★★


 その翌日。

 俺とヴィクトリアはヴァレンシュタイン王国の王都ベラ・エレオノへと来ていた。


 なぜここへ来たのかって?

 それは……。


「ホルストさん、ここのレストランなんかいいのではないですか」

「そうだな。ここの料理って前にも食べたけど、結構おいしかったからな。お父さんに食べさせてあげるにはちょうどいいんじゃないか」

「それと、お父様に買い物をさせてあげるのならあのお店がいいと思うのですが」

「うん、いいんじゃないか。このお店って確か品ぞろえがよかったしな。きっとお父さんが気に入る物があるはずさ」


 お父さんを遊びに連れて行ってあげるための下見だった。


 昨日あれから俺たちは考えたのだった。

 どうすればお父さんに喜んでもらえて機嫌を直してもらえるかを。

 そうして色々と考えた結果、お父さんを遊びに連れて行ってあげようという話になったのだった。


 で、今こうやって王都に下見に来ているという訳なのであった。


「これで大体コースも決まりましたね」

「ああ、これならお父さんも満足してくれるんじゃないかな」


 さて、十分に下見をしてコースも決まった。

 後はお父さんを誘うだけである。


★★★


 それから数日後。


「ヴィクトリア様、お客様が見えられていますよ」


 ヴィクトリアにお客さんが来た。

 お客さんといっても向こうから訪ねてきたのではなく、こっちが招待したんだけどね。


 え?誰を招待したのかって?それは会えばわかる。

 ということで早速出迎えに行く。


 俺が商館の人にあらかじめ言っておいたので、その人は客間で待っていた。

 俺とヴィクトリアの二人で会いに行く。

 客間に行くとその人は俺たちの存在に気がついたのか、俺たちのことを見てニコッと笑う。


「あら、二人とも久しぶりね」

「ええ、お久しぶりです。ヴィクトリアのお母さん」

「お母様、お元気でしたか?」


 そう。お客様とはヴィクトリアのお母さんの魔法を司る女神ソルセルリだった。

 折角の機会なのでお父さんだけでなくお母さんも一緒に遊びに連れて行ってあげれば良い親孝行になるのではないかと思って誘ったのだった。


 え?どうやって連絡を取ったのかって?

 実は月の遺跡へ行って、ヴィクトリアのおばあさんの神獣である白ネコのミーに頼んでおばあさんに連絡を取ってもらって、さらにおばあさんからお母さんに連絡を取ってもらったのだった。


「もちろん行くわ」


 連絡を取るなりお母さんからそう返事が来たので、今日こうしてお母さんが来たという訳なのだ。


★★★


「ヴィクトリア様のお母様がいらしているというのは本当ですか」


 俺とヴィクトリがの客間でお母さんの相手をしているとネイアさんが慌てた様子で駆け込んできた。


「ええ、来てますよ。あ、そういえば今度ワタクシのお母様が来たら改めて紹介するって話でしたよね。では、改めて紹介させてもらいますね。ワタクシの母のソルセルリです」

「こんにちは。ネイアちゃん。ソルセルリです。よろしくね」


 そうやってヴィクトリアのお母さんがニコリと笑いながら挨拶すると、ネイアさんはいきなり地面にひざまずき頭を下げる。

 そして、恐る恐るといった感じで挨拶をする。


「ソルセルリ様。この前は申し訳ありませんでした。私、ルーナ様とソルセルリ様の神殿の神官長をしていたのに、お二人のことに全然気がつかずに軽々しく口を聞いてしまって、元神官長としてあるまじきことをしてしまいました。どうかお許しください」

「まあ、そんなことを気にしていたの?別にいいのよ。ネイアちゃんは私たちのことを知らなかったのだから」

「ご無礼をお許しくださり、ありがとうございます。ソルセルリ様」

「それに私も母もそんなに畏まれたりするのって苦手なのよね。だから、ネイアちゃんもこれまでと変わらず私たちと接してくれて構わないわ。だから神だの人だのとそういうのは気にせずに、今までと同じように接してね」

「わかりました。ソルセルリ様がそうお望みならそうさせてもらいます」

「それよりもネイアちゃんも一緒にお茶しましょう。折角下界に遊びに来たのに、うちの旦那のボケがまだ準備できてないとかほざいているのよ。だからそれまで退屈なのよ。だから、ね!」

「はい!」


 とこんな感じでネイアさんはヴィクトリアのお母さんに許すてもらえ、時間までお茶を飲みながら一緒にお茶を飲むのであった。


★★★


 そうこうしているうちにお父さんの支度ができたので出発することにする。


「行ってらっしゃいませ」


 エリカたちに見送られながら、俺とヴィクトリア、お父さんとお母さんの四人で出発する。

 計画としては、俺とヴィクトリアの二人で王都の案内をして色々な場所を観光させてあげる予定だ。

 お父さんの機嫌を取るのが主な目的なのだが、お母さんも招待したのは折角の機会だから両親に旅行をプレゼントして親孝行したいというヴィクトリアの意向でもあった。


「うん、いいんじゃないか」


 それはいい考えだなと俺も思ったので、ヴィクトリアに賛成し、こうしてお父さんとお母さんを旅行に連れて行くことにしたのだった。

 そこまでは良かったのだが、出発に際してお父さんが何か文句を言っている。


「私はヴィクトリアがデートに行きましょうというから喜んで行くと言ったのに、何であの男とソルセルリまでついてくるんだ」


 本人はこっそりと聞こえないように言ったつもりみたいだが、お父さん、その発言丸聞こえですよ。

 案の定お母さんがお父さんに近づいて行き、その耳をギュッと掴んでこう話しかける。


「あら、旦那様。もしかしてこの私と出かけるのが嫌だとおっしゃるので?」


 お母さんにきつい視線で睨まれたお父さんが慌てて否定する。


「な、何の話だ。私はそんなことなどこれっぽっちも思っていないぞ。お前やヴィクトリアと一緒に出掛けるのをずっと楽しみに待っていたのだぞ。ただ」

「ただ?」

「何であの男までついてくるのだ。折角の家族でのお出かけに」


 そのお父さんの言い草を聞いてお母さんが呆れた顔になる。


「あんたは何を言っているの?今日はホルスト君とヴィクトリアの二人が招待してくれたのよ。だから二人が一緒になって心を尽くして私たちを案内してくれる予定なの。それなのに文句を言うとか。一体何様のつもりなのですか!」

「いや、これは違うんだ!」

「何が違うのですか!下手な言い訳をしようとするな!それよりもさっさとホルスト君やヴィクトリアに失礼な発言をしたことを謝りなさい!」

「ホルスト君にヴィクトリア。失礼な発言をして悪かった」


 お母さんに怒られたお父さんはそうやって渋々謝ってきたのだった。


「いや、お父さん。俺もビクトリアも別に気にしていませんから。それよりも今日の観光、楽しんでください」

「そうですよ。今日はワタクシとホルストさんでしっかりと準備しましたので、お父様もお母様もケンカなどせずに楽しんでください」

「そうね。ホルスト君たちが折角準備してくれたのだから楽しまなくちゃね。あんたもわかった?」

「はい」


 最後はこうやって話もうまく?まとまったことだし、お父さんたちとの旅行を楽しむことにしようと思う。

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