第388話~ネイアさんと二人きりで買い物デート ~

 ジャスティスとの修行も佳境に入った頃。


「う~ん、ちょっと困りましたね」


 朝の修行が終わった後、ネイアさんが何やら悩んでいるのを見かけた。

 何を悩んでいるんだろうと思った俺は声をかけた。


「ネイアさん、何か困ったような顔をしていますけど、何かあったのですか」

「いえ、ちょっと買いたい物があるのですが、ちょっと量が多くて一人で持って帰ることができるか悩んでいるんですよ」

「何だ。そんなことですか。それだったら、皆で一緒に買い物へ出かけませんか?ヴィクトリアがいればいくらでも荷物なんか運べますし」

「そんなことをしてもらってもよろしいのですか?」

「いいですよ。嫁たちも最近あまり外へ出ていないので、みんなで出かけるのに反対しないと思いますよ」

「でも……」

「どうしても気になるのなら、嫁たちに聞きに行きましょう」


 そして、そのまま嫁たちの所に話をしに行くと。


「「「いいですよ」」」


 との返事をもらえたので、今日の夕方ネイアさんの仕事が終わった後、一緒に出掛けることになったのであった。


「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします」


 最後にそうお礼を言うと、ネイアさんは仕事のために商館の事務所の方へ去って行くのだった。


★★★


「え?エリカ様たち、今日来られないのですか?」

「うん、三人とも急に体調が悪くなって、外へ出かけるどころではなくなったらしいんだ」


 夕方になってネイアさんと合流した俺は、嫁たちが来られなくなったことをネイアさんに告げた。

 嫁たち三人は、昼間庭のテーブルを囲んで三人で談笑していたらしいのだが、その時に思ったより外が寒かったらしい。


「「「寒い所に長時間いたので体調がおかしくなってしまいました。ですから、出かけるのはちょっと……。でも約束ですから、旦那様がネイアさんと一緒に出掛けてあげて、荷物持ちをしてあげてください」」」


 と、俺にネイアさんと買い物へ行って来いと言ってきたのだった。

 普段から体を鍛えていて風邪なども滅多にひいたりしない嫁たちにしては珍しいことだな。

 そう思ったが、こうなっては仕方がない。


「みんながそう言うんだったら仕方がないな。わかった、俺一人で行ってくるよ」


 ということで、こうして一人でやって来たのだった。


「わかりました。みなさんの体調が悪いのなら仕方がないですね。二人で行きましょうか」


 事情を話すとネイアさんもわかってくれたようで、そう言ってくれたので、俺はネイアさんンと二人で買い物へ出かけたのだった。


★★★


 ネイアさん、何と言うか、いつもと雰囲気違うよな。

 ネイアさんと一緒に買い物をしながら、俺はそんなことを思った。

 今日のネイアさん、本当にいつものネイアさんと違うと思う。


「ホルストさん、あそこの高い所にある品物を見てみたいので取っていただけないでしょうか」

「ホルストさん、ちょっとこの品をレジまで運んでいただけないでしょうか」


 と、積極的に俺にお願いをしてくるのだった。

 いつものネイアさんなら頼みごとをしてくるにしてももっと遠慮がちに頼んで来るのに珍しいなあ、と俺は感じていたのだが、ネイアさんがいつもと違うのはそこだけではなかった。


 今日の買い物では複数の店へ買い物に行ったのだが。


「さあ、ホルストさん。次へ行きますよ」


 そのたびに俺の手を引っ張って先導するように移動するのだった。

 ネイアさんのような美人の女性の方から積極的に手を握ってくれるのは俺としては嬉しいのだが、これはどうなんだろうと思う。


 ネイアさんとこうやって手を繋いで歩いているのを誰か知り合いに見られたらまずい気もする。

 何せ俺には三人も嫁がいるからな。嫁たちにこのことがバレたら一大事な気がする。


 だけどネイアさんの手ってとても暖かくて気持ち良いんだよね。

 だからできればこのままでいたいんだけど、嫁が……。


 心の中でそんな風に悩みつつも結局決断できず、その後もネイアさんにずっと手を握られっぱなしになる俺なのであった。


★★★


 買い物が終わった後は近くの公園に行って少し休んだ。

 繁華街のすぐ側にある公園で、繁華街の活気ある光が差し込んできていて、夜の割にはとても明るい公園だった。

 大きな荷物を抱えて二人で公園のベンチに座る。


「結構たくさん買っちゃいましたね」

「そうですね。ホルストさんがいるからとつい買いすぎちゃいました」


 二人で座りながらそんな会話をしていると、ピューと一陣の冷たい風が吹いてくる。


「もうすぐ春だとはいえ、まだ寒いですね」

「ええ、その通りですね。寒いですね。ここは何か温かい飲み物を飲みたいですね。あ!あそこに屋台が出ていますね。私ちょっと飲み物を買ってきますので、少し待っていてください」


 それからネイアさんは屋台の方に走って行き、飲み物を買うとすぐに帰ってくるのだった。

 飲み物は暖かいミルクティーだった。

 そのミルクティーを飲みながら話を再開する。


「このミルクティー、甘くて美味しいですね。体が暖まって、生き返った気分になれますね」

「本当、温かくなりましたね。私も人心地付きました。でも、外の寒さに比べるとちょっと物足りない気もしますね。ホルストさんもそう思いませんか?」

「う~ん。そう言われると、そうかもしれませんね」

「だったら、私、もっと暖かくなる方法を知っていますので試してみますか?」

「へえ、そんな方法があるんですか?だったら、是非お願いします」

「それでは……えい!」


 俺の了解を取るなり、ネイアさんはいきなり俺の腕に抱き着いてきた。

 そして、そのまま俺の腕に力強くしがみつくと、頬を俺の顔に寄せ、ピタッとそのまま動かなくなる。

 ネイアさんのような妙齢の女性に突然そんな大胆なことをされた俺は慌ててふためく。


「ネイアさん……これは?」

「知っていましたか?こうやってお互いに抱き合ってお互いの体温で暖め合うのが一番体が暖かくなるんですよ」

「でも、こんなことをしているのを誰かに見られたら……」

「大丈夫です。私、そういうの気にしませんから」


 そう言うと、ネイアさんは俺に抱きしめる手にさらに力を込め、より俺に近づいてくるのだった。


 このネイアさんの態度に俺は正直戸惑った。

 確かにネイアさんの言うようにこうしているのは暖かくて気持ちが良いのだが、夫婦や恋人ではない男女がこんなことをするのはちょっと……。

 そう考えると腰が引けてくる。


 ただ、ネイアさんが折角気を使って俺のことを暖めようとしてくれているのに引き離すのも悪い気がして、それもできなかった。


 こうしてネイアさんの突然の攻撃に戸惑うばかりの俺は、しばらくの間、ネイアさんと抱き合ったまま過ごしたのだった。


★★★


 それからしばらくして公園を出た。


 公園を出た後は、何か食べて帰ろうということになって、繁華街に出ている屋台に入った。

 屋台はピザとウィンナーが売りの店らしく、屋台に入ると同時にチーズとウィンナーの焼ける良い匂いが鼻孔をくすぐって来た。


「え~と、この三種チーズのピザ2つとウィンナーの盛り合わせ。それとエールをください」

「はい!毎度」


 そうやって注文すると、すぐにエールが出てくる。


「「乾杯!」」


 二人でそれを飲み、料理が出てくるまで少し待つ。

 待っている間、二人とも黙りこくったまま顔を真っ赤にしていた。

 もちろん、それはお酒を飲んだせいではない。


「お待たせしました」


 そうこうしているうちに料理が出てきたので二人で食べ始める。

 ガツガツ、と二人でひたすら食べる。


「「ごちそうさまでした」」


 そして食べ終わったら、すぐにヒッグス家の商館へと帰り、そのままネイアさんの部屋へと荷物を運んであげる。


「今日はありがとうございました。助かりました」

「いえ、それほどでも」


 最後にそんなぎこちない感じの挨拶をして別れようとした時、ネイアさんが俺の手を取る。


「今日のお礼です」


 そう言いながら俺の手の甲にキスをすると、ネイアさんは顔を真っ赤にしながら、「それでは、また」と言いながら、自分の部屋の入り口の扉をそっと閉じた。


 最後の最後でこんなことをされた俺は、もうたまらなくなり、悶々とした気持ちを抱えたまま自分の部屋に帰るのだった。


★★★


 その後部屋に戻った俺は、一人ベッドの中で今日の出来事を思い出しながら中々寝ることができないでいた。


 今日のネイアさんは本当にいつもと違っていたと思う。

 妙に俺にお願いしてきたり、俺に接触してきたりといつものネイアさんではなかった。

 一体何だったんだろうか。


 今日の出来事を思い出しながらそう思っていると、ふと過去の出来事を思い出す。


 あれ?この状況って、ヴィクトリアとリネットの時とそっくりじゃね?

 確かあの時もエリカに言われた二人が、それまで大人しかったのに急に俺に積極的に迫って来たし、ネイアさんも急にこんなに積極的になったし。もしかして、今回も?


 そういえば、今日急に嫁たち全員の体調が悪くなったって言うのもおかしい話だしな。

 そう考えれば、ネイアさんは嫁たちにとっくに許可をもらっていてこうして俺に近づいて来ている可能性が高かった。

 もしかして、今日ネイアさんに手を出しても良かったのでは?


 ……いや、いや。俺がそう感じただけで実際の所はどうなのかはわからないな。

 油断して本当に手を出して、嫁たちの頭から角が生えて来たらこまるし、もうちょっと事態の推移を見守ろうと思う。


 ただ、今回のことで確実に分かったのは、俺はネイアさんのことが女性としてとても気になるし、ネイアさんも俺に対して同様だろうということだ。

 いくら女の子の気持ちに鈍い俺にだってそのくらいのことは理解できた。


 これから先どうなるかわからないけど、まあ、流れに身を任せるしかないのかなと思う。

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