第386話~ワイトさんに子供ができたのでお祝いに行く~

 ワイトさんの所に子供が生まれた。

 エリカのお父さんからの連絡でそのことを知った俺は、嫁たちを引き連れて王都のリッテンハイム公爵邸へと向かった。


「ホルスト様、ようこそおいでくださいました」


 事前に連絡していたので、屋敷の門の所ではいつもの執事さんが俺たちを出迎えてくれ、俺たちを奥へと案内してくれた。


「やあ、よく来てくれたね」


 奥へ行くとワイト様が俺たちを待ってくれていて、顔を会わせるるなり歓迎の意を示してくれた。


「こっちだよ」


 そして、そのまま子供のいる部屋へと案内してくれた。

 子供の部屋には奥さんのヘラさんがいて、子供の世話をしていた。

 とはいっても、子供は今寝ているので、横に座って子供の顔をずっと眺めているだけだったけどね。


「あら、皆様。よくぞいらしてくれました」


 それで俺たちが入って来たのに気がついたヘラさんが挨拶してくれたので。


「「「「この度は、ご子息の御誕生おめでとうございます」」」」


 と、型通りの挨拶をしておく。

 そうやって挨拶が終わると、いよいよワイトさんの子供さんとの対面が始まる。


★★★


「紹介しよう。僕の息子のヨハンだ」


 ワイトさんが子供の顔を見せる前に子供の紹介をしてくれる。

 男の子でヨハン君という名前らしかった。


 それで、紹介を受けてうちの嫁たちが早速子供の顔を覗き込んでいる。

 嫁たちの顔がパッと明るくなる。


「あら。お父様に似て男前ですね」

「かわいいですねえ」

「こうやって眠っている姿を見ると天使のようだね」


 と、口々に赤ん坊のことを褒めそやしている。


 それで、赤ん坊のことを見つつもチラチラと俺の方を見てくる。

 間違いなく子供が欲しいという俺へのアピールだ。

 何と言うか、もうすぐ解禁だという意識が最近強くなってきたのか、嫁たちのアピールが激しい気がする。

 まあそれは俺のことを愛してくれているということだから別に構わないのだけれど、家の中でやる分にはいいのだがよそではやらないで欲しい。

 ただ、ここで完全に無視すると後が怖い。


 ということで、うまく誤魔化すことにする。

 俺も嫁たち同様にヨハン君に近づき、顔を覗き見て。


「おお、賢くて強くなりそうな顔をしているな。お父さんみたいに素晴らしい人になるんだぞ」


 そうヨハン君に声をかけ嫁たちの視線を避けておいて、おもむろにワイトさんに話しかける。


「そうそう。忘れていました。実はヨハン君の誕生祝いを持ってきているんですよ」


★★★


「ヴィクトリア、持ってきたお祝いを出せ」

「ラジャーです」


 俺はヴィクトリアに言って持ってきたお祝いの品を出させて、それを一個ずつワイトさんに渡していく。


「まずこれがヨハン君へのお祝いです」

「これはありがとうございます。早速開けてみてもよろしいですか」

「どうぞ」


 俺の言葉を受けてワイトさんが中身を取り出す。


「ホルスト君、これは?」

「『レジェンドドラゴンの牙』で作ったお守りですね。ノースフォートレスの方では、レジャンドラゴンの牙や骨で作られたお守りをもらった子供は健康に育つという伝承がありますね」

「その話は僕も北部砦にいた時に聞いたことがあるよ。ただ、レジェンドドラゴンは伝説級のドラゴンらしくて目撃数も少なくて、捕獲数に至ってはここ千年の間に捕獲されたのが二、三頭ほどだとか。だから、そのお守りは数が少なく、とても高値で取引されていると聞いています。特に牙のお守りともなると希少価値が高く、小さな貴族領が買えるほどの値段がするとか。そんな貴重な物をいただいてもよろしいのですか?」

「ご心配なく。それは俺が前に討伐したレジェンドドラゴンの牙で作った物ですから。実はうちの息子にも同じものを持たせたりしているんですよ。だから遠慮なく受け取ってください」

「ほう、ホルスト君が退治したのですか。それは素晴らしいですね。さすがはホルスト殿です。そういう事なら、ありがたくいただいておきます」

「それと、こっちはワイトさんの家族の皆さんへの贈り物です」


 『レジェンドドラゴンの牙のお守り』を受け取ってもらえたので、もう一つのお祝いも渡す。

 渡されたワイトさんが早速中身を出す。すると、そこから出てきたのは。


「これはワインですか」

「ええ、そうです。今は失われてしまった古代王国の時代に醸造された幻といわれるワインで、今では金を出しても手に入らないといわれている逸品ですね。ワイトさんやヘラさん、ワイトさんの御両親たちもワイン好きと聞きましたので、ヨハン君の誕生のお祝いに飲んでもらおうかと思って、もってきました」

「古代王国の幻のワイン!?話には聞いたことがありますが、ホルスト殿はそんなものまで持っているのですか?」

「ええ、昔ダンジョンで手に入れたのですよ。二本差し上げますので、一本はお祝いの席で、もう一本はヨハン君が大きくなってお酒が飲めるようになったら飲ませてあげてください」

「何とヨハンが大きくなった時の分までいただけるのですか。本当にありがとうございます」


 そう言うとワイトさんは何度も俺に頭を下げてくるのだった。


 そんなワイトさんを見て、俺はそんなに頭を下げなくてもいいのにと思った。

 ワイトさんにはバカ妹が吸血鬼にされて王都で暴れ回った時の後始末もしてもらったし、他にも色々世話を焼いてもらった。

 それに何と言ってもワイトさんとは同じ戦場で戦った戦友だからな。

 ワイトさんが喜んでくれるのなら俺としてもこうやってプレゼントを贈って良かったと思うのだった。


★★★


 さて、そうやってヨハン君の顔見せとお祝いの贈呈が終わった後は雑談をする。


 嫁たちは相変わらずヨハン君に釘付けなようで、ヨハン君を囲んでヘラさんと何やら話している。

 その間俺は獣人の国で起こった窃盗団の件について話す。

 何せあの件には神聖同盟の奴らがかかわっていたからな。

 話さないわけにはいかなかった。


「なるほど。そんなことがあったのか」


 俺の話を聞いたワイトさんが大きく頷く。


「神聖同盟、思ったよりも手広くやっているんだね。そんな大規模な資金稼ぎをしていると思わなかったよ」

「そうですね。連中、資金や人材もかなりいますから、どうやってそれらを集めていたのだろうとずっと思っていたのですが、そういう事情だったという訳です」

「うん、本当よくやると思うよ。そうそう、うちの方でも神聖同盟関係者と思われる人物を何人か捕まえたんだよ」

「それは本当ですか!それでどうなりましたか!」

「それがね。全員死んじゃったんだ」

「死んだ?」

「うん、服毒自殺でね。だから、今のところ有益な情報を得られていないんだ」

「そうなんですか」


 神聖同盟の奴が捕まったと思ってちょっとだけ期待した俺だったが、そいつらが何も話さずに死んだと聞いてがっかりするのだった。


「次からは捕まえた後はきっちり拘束して自殺なんかさせない様にと指示は出しているけど、ホルスト殿の話を聞く限りではそれもどうなるかわからないな。けど、やれるだけやってみるつもりだよ」

「その通りですね。こちらとしてはやることをやるしか手はないですからね。これからもお互いに情報交換は欠かさないようにしましょう」

「ああ、お願いするよ」


 こんな感じで俺たちの神聖同盟に関する話し合いは終わった。

 まあ、何の情報も得られなかったのは残念だが、関係者が確実に存在しているとわかっただけでも、神聖同盟が実際にあるんだなと実感できてよかったと思う。


 そうやって仕事の話が終わった後は、二人で雑談をして過ごし、夕方頃になって嫁たちもヨハン君を満喫できて満足したみたいなので、帰ることにした。


「また、来ます」

「ええ、いつでもお越しください」


 そうやって挨拶をした後、俺たちは帰路につくのだった。

 嫁たちも満足できたみたいだし、俺も多少は神聖同盟の存在を実感することができたので有意義な一日だったと思う。

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