第17章~獣人の国の封印遺跡~
第384話~神獣たちの宴~
獣人の国を脅かしていた窃盗団が壊滅して、ホルストたちが獣人の国の国王陛下に謁見してそのことを報告した数日後。
「ここも悪くない場所ですね。毎日、好物の稲荷寿司を食べられますし、何より娘の顔をずっと見ていられますし」
「白狐殿の言う通りですね。ホルスト殿が屋敷の人間に言いつけて、毎日血の滴る新鮮な肉を食べさせてもらっているので、最近はお腹がたるんできた気がしますよ。もっと運動せねばと思います」
「拙者も毎日いろいろな種類のチーズを食べさせてもらって大満足です。ここ獣人の国は畜産と酪農が盛んで、様々な種類のチーズが生産されているのです。屋敷の人たちも拙者に気を使って、チーズ店から様々なチーズを取り寄せて食べさせてくれるので、とてもうれしいですね」
白狐、オルトロス、ネズ吉の三匹の神獣たちはまだヒッグス家の商館に居残っていた。
白狐は娘の銀のことが心配だったし、他の二人は食べ物目当てだ。
「三人には今回のことで大分役に立ってもらったから、ここでしばらくのんびり過ごしてもらっていいぞ」
と、ホルストから許可をもらってヒッグス家の商館に滞在しているのだった。
彼らの上司であるマールスをはじめとする神々も。
「たまにはいいんじゃないか」
黙認してくれている。まあ、マールスもジャスティスも、毎日ヴィクトリアに作ってもらったお菓子を食べて嬉しそうにしているので、神獣たちのことをとやかく言う資格などそもそもないのではあるが。
ホルストたちなどその様子を見て、「ヴィクトリアの奴、お父さんたちの操縦、上手くなったな」と、感心しているくらいだ。
それに屋敷の人たちも三匹にとても親切だった。
「あの三人はああ見えても神獣で神の使いなんだ」
「だから丁重に扱ってくださいね」
「はい、畏まりました」
ホルストとエリカがここの商館の支配人であるコッセルさんにだけ、こっそりとそう言い含めてくれているので、コッセルさんが部下たちに指示をして色々手を回してくれているのだった。
それに三匹の世話をすることはここの人たちにとっても悪くないことだった。
「何か、最近商館の売り上げがすごいことになっているんですけど」
「最近、運が良くてね。この前も商店街のくじに当たって、お酒もらっちゃった」
何せ神獣が三匹もいるものだから、この商館の周囲に良い運気が集まって来て、商館の売り上げが上がったり、従業員たちにもちょっとした幸運が回ってきているのだった。
と、こんな感じで神獣たちはこの商館で歓迎され、のんびりと過ごせているのだった。
★★★
それで、今この三匹が集まって何をしているのかといえば、一言で言えば宴である。
白狐は人間の姿、他の二匹は動物の姿で参加しているのだが、テーブルを囲んでテーブルの上に置かれている料理やお酒、お菓子を食べながら雑談しているのである。
部屋も商館の中では広くて暖房もよく効いた良い部屋を使わせてもらっているので、三匹はゆっくりとできているのだった。
そんな三匹の今日のテーマは世界の今後についてだ。
「それにしても、最近世界が騒がしくなってきましたね」
「そうですね。拙者も地底湖ではドタバタしましたし。今回の事件も邪神プラトゥーンの配下が資金稼ぎのために起こしたという事でしたし」
「私は今回のことで世界が大変なことになりつつあることを初めて知りました。これは私ども神獣としても無視できない事態ですね」
「「その通りですね」」
今世界が大変なことになっているについて確認し合い、互いに頷き合う。
ただ無視できないとはいっても、彼らは神獣。
神の眷属であるとはいっても神ほどの力は持ち合わせてないし、自分の主人に与えられている以上の仕事はできない。
ということで。
「「「今後もホルスト殿たちの力になれるように、要請があったら協力するようにしましょう」」」
そういう結論に落ち着いたのであった。
★★★
その後、三匹は上司である神々の話をする。
「それにしても、ヴィクトリア様は最近急に大人びた女性の雰囲気を醸し出すようになりましたね」
「そうなのですか?」
「ええ、拙者や白狐殿が最初にお会いした時にはもっと子供っぽい感じだったのですが、本当に変わりましたね」
「そうですね。大分お変わりになったと思います。やはり下界で苦労した経験と、何よりホルスト殿を愛してしまったことの影響が大きいと思います」
「私はまだヴィクトリア様が小さい頃、マールス様の神殿の庭で遊んでいるのを見たことがあるのですが、あの小さい子がそんなに大人の女性になってしまったのですか」
「「うん」」
オルトロスのその意見に同意した二匹が大きく頷く。
「ヴィクトリア様に比べたら、セイレーン様などは苦労が少ない分、ちょっと甘えん坊な感じですね」
「私もマールス様の所に遊びに来たセイレーン様を何度か見たことがあります。私が見たセイレーン様は『お兄様~』と、いつも兄君であるマールス様に甘えていましたよ。マールスさもそれをとがめたりせず、妹可愛さにセイレーン様のいいようにされていたので、今も変わっていないのですね」
「そういえば、拙者もアリスタ様の神殿の庭でセイレーン様をお見かけしたことがあります」
「「ほう。どんな感じでした」」
ネズ吉の発言に対して他の二匹が質問する。
「セイレーン様はいつもクリント様がいらっしゃっている時に現れては、『お父様~』とクリント様に甘えていましたよ。で、それをアリスタ様がいつも苦々しく見ていましたね」
「ほう」
「それはマールス様の時とパターンが同じですね」
「同じですね。二人とも妹や娘にはとても甘いのです。そういえば、お二方ともヴィクトリア様にもお甘いですね」
「甘いですね」
「甘いね。ついでに言うと、ジャスティス様もヴィクトリア様に甘いね」
うん、うんと三度、三匹は頷き合う。
「ただセイレーン様と違って、ヴィクトリア様はお三方から上手く自立できたみたいだからそれは良かったと思うわ」
「本当にそうですね。ヴィクトリア様はこの世界を救うべく活動なさっているお方。成長したヴィクトリア様ならこの世界をどうにかできるかもしれません」
「まったくだ。この調子で頑張ってもらわないと、ね。そのために、私どももホルスト殿たちにどんどん協力して行こう」
「「うん」」
と、こんな感じでヴィクトリアの成長を三人で喜んだところで今日のメインテーマは終わりだ。
「オルトロス殿にネズ吉殿。よければもっとお酒をお注ぎしましょうか」
「「うん、頼みます」」
「その肉はネズ吉殿には大きかろう。私がお切りしよう」
「ありがとうございます」
「白狐殿。屋敷の使用人に追加の稲荷寿司を頼んできましたので、もうすぐ来ると思いますよ」
「ネズ吉殿、ありがとうございます」
残りの時間はそんな風に飲んだり食べたりしながら楽しく過ごすのであった。
さて、三匹の思惑通りこの世界に平和は訪れるのだろうか。
それはホルストたちの頑張り次第である。
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