今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、なぜかおまけで女神を押し付けられる~
閑話休題57~デリックとルッツ 生き地獄へと堕ちる~
閑話休題57~デリックとルッツ 生き地獄へと堕ちる~
デリックとルッツは気がついたら立派な裁判所らしき建物の中の法廷らしき場所に立たされていた。
ホルストからジャスティスに身柄を引き渡された後、二人は見知らぬ洞窟に連れて行かれ、
そこを奥へ向かって進んで行くと、いつの間にかジャスティスの姿が消えていて、二人の背後には全身が真っ赤な鬼と青色の鬼の二名が立っていた。
「「おら!罪人共!もうすぐお裁きの時間だ!さっさと歩け!」」
そして、その鬼たちに怒鳴られながら、二人は裁判所へと連れて行かれたのだった。
怖くなった二人は抵抗しようとしたが、すべて無駄な行為だった。
「「えい!!」」
二人同時に鬼に対してタックルをかましたが、鬼はとっても頑丈で二人のタックルを食らってもびくともせず、逆に。
「お?これから裁判が始まるというのにまだ抵抗する気か?ならば容赦はせぬぞ!」
と、持っていた金棒で思い切り殴られる始末だったからだ。
そうやって法廷へ連行されてきた二人だったが、二人の前に現れたのはとんでもない人物だった。
「冥王ジャッジメント様の御成~り~」
係の役人がそう叫んだ後出てきたのは、冥界を統治する神、冥王ジャッジメントだった。
冥王ジャッジメントは、女神アリスタのイトコにあたる身分の高い神で、死後の世界を統治する神として人々に恐れられていた。
「悪いことをすると、死んだらジャッジメント様に裁かれて地獄へ行くよ」と子供の教育にも使われたりしている。
その為に世間にはジャッジメントを描いた絵が大量に出回っているから、二人にも見ただけで本人であると確信できた。
善人にはとても優しく、悪人にはとても厳しい神としても知られている。
だから、すねに傷持つ二人には、ジャッジメントは恐怖の対象でしかなかった。
しかし、二人には解せないことが二点あった。
ジャッジメントは冥界の王だが、本人が裁判をすることはまずなく、本来なら部下が裁判をするはずなのである。
なのに本人が直接裁判に出て来るとはどういうことなのか。
それにジャッジメントがいるということはここは冥界。
二人には死んだ記憶がないのにどうして死者の国にいるのか。
そんな二人の思いをよそに裁判が始まる。
★★★
「ジャッジメント様の御前である。一同、平伏せよ!」
「ははー」
係の役人の声掛けで、その場にいた役人と鬼たちが一斉に平伏する。
そんな中、デリックとルッツの二人だけが訳もわからないまま突っ立ていたが。
「バカ野郎!罪人風情がジャッジメント様に平伏しないとは無礼にも程があるわ!」
と、二人の後ろで平伏していた赤鬼にぶん殴られて無理矢理平伏させられたのだった。
「それでは面を上げよ」
全員が平伏したのを見た係の役人が再び声をかけ、いよいよ二人の裁判が開始される。
まず口を開いたのは冥王ジャッジメントだった。
「お前たちがデリックにルッツか。かなりの悪相でここへやって来るのにふさわしい人間だのう」
「「えっ?俺たちって悪相なの?」」
いきなり冥王であるジャッジメントにそんな評価を下されて、二人は焦り始める。
しかし、ジャッジメントはそんな二人の焦りに構うことなく、話を続ける。
「……まあ、それは置いておくとして、ここでは嘘偽りは一切通用せぬぞ。嘘をつくと罪が重くなるだけだから、正直に話すように」
そうやって最初に注意事項を話した後、ジャッジメントは閻魔帳を見ながら二人の罪状を読み上げる。
「ふむ。盗みに人さらいに人殺しか。しかも二人で罪のない人を合わせて二十人も殺しているではないか。これだけでもかなりの極悪人だのう。地獄行きは間違いない」
「「いや、ジャッジメント様。これには深い訳が……」」
「シャラップ!!」
ジャッジメントの指摘に対してデリックとルッツが言い訳をしようとするが、それをジャッジメントが一喝して黙らせる。
「おい!例の物を持ってこい!」
「はは!」
そして、部下に命じて一枚の鏡を持ってこさせると、二人の目の前にドンと置かせる。
「これは『浄玻璃じょうはりの鏡』と申してのう。お前たちのような言い訳がましい罪人の悪行を映し出してくれる便利な鏡なのじゃ。ほれ、自分たちの行動を顧みてみるがよい」
ジャッジメントがそう言うと同時に鏡が光り出し、二人の過去の所業が映し出される。
そこには嬉々とした顔で盗みや人殺し、人さらいを行っている二人の姿が映し出されていた。
自分たちの罪を完全な形で暴露されて二人は震えあがった。
そんな二人にジャッジメントはさらに追い打ちをかける。
「しかもお前たちの罪はこれだけではない。お前たちは神を怒らせるという最悪の大罪をも犯しておる」
「「え?神を怒らせた?一体何の話ですか?」」
「お前たち、攫ってきた狐の子をいじめただろう?あの子はな、女神ヴィクトリア殿の眷属なのだ。その件でヴィクトリア殿は自分の眷属が傷つけられたと、カンカンに怒っておられる。神の眷属に手を出すとか、お前たちとんでもない罪を犯してしまったな」
「「え?ヴィクトリアって、ホルストの嫁じゃあ。……女神って何?」」
「いや、そのままだぞ。ヴィクトリア殿は主神クリント様とアリスタ様の血を引く女神で間違いないぞ。しかも、今回の件ではアリスタ様もとてもお怒りだ。実はあの狐の子、アリスタ様にお仕えする神獣の娘なのだ。だから、アリスタ様もお前たちの所業を聞いて大変お怒りだ。最終判断は私に任せるけれど、希望としては『お前たち二人を生きたまま地獄へ墜としてほしい』と、私に直接頼んできたぐらいだからな。ということで、部下ではなく私が直接お前たちの裁判をやっているという訳だ」
ここに来てなぜ自分たちの裁判にジャッジメントがわざわざ出てきたのかを理解した二人であったが、ここで新たな疑問がわいてきた。
「「俺たち、生きたまま地獄へ堕ちるのですか?」」
「その通りだ。お前たち、この期に及んでも死ぬのは嫌だとか申しておったそうではないか。だからアリスタ様はその望み通りに死ぬことなく地獄へ墜としてほしいと言ってきたのだぞ?どうだ?生きていたいという希望が叶って嬉しいであろう?うん?」
そう言うジャッジ面は楽しそうに笑っていた。
言いたいことを言ってスッキリしたという顔をしていた。
だが、生きたまま地獄へ墜とされると聞いた二人の顔は恐怖で蒼ざめていた。
「「え?生きたまま地獄へ堕ちるって……そんな事が可能なのですか?」」
「普通なら生者は冥界へ来ることはできないから無理だが、お前たちはヴィクトリア殿の兄上である武神ジャスティス殿が特別に連れて来てくれたから可能だぞ。どうだ?神に特別待遇をしてもらって嬉しいであろう?」
そんな特別待遇は嬉しくもなんともなかった。
むしろ、それを聞いて二人はますます蒼ざめた顔になっただけだった。
「「生きたまま地獄へ堕ちるとどうなるのですか」」
「普通の亡者と違って肉体がある分、味わう苦痛が数倍に跳ね上がるな。しかも、普通の亡者どもと同様に体を焼かれようが粉みじんにされようが何度でも蘇って同じ苦痛を何度でも味わうことになる。その上生きたまま地獄へ堕ちた奴は死ぬこともできず普通の亡者よりもひどい苦痛を未来永劫受け続けることになる」
「「そんなああ。それって最悪じゃないですか。それに俺たちはあの狐の子が神の眷属だなんて知りませんでした。だから、減刑を!」」
「うるさい!お前たちは人殺しをしても、それが犯罪だと知らなければ犯罪にならないとでも言いたいのか?反省の言葉すら言う事もなく、そんなクズな発言をよくもできるのう。この分なら私もお前たちを心置きなく地獄へ墜とすことができるわい。ということで、さっさと無間むげん地獄へ堕ちるがよい!」
ジャッジメントが最後にそう言うと同時に二人が座っていた床が消え、ぽっかりと真っ黒な穴が開く。
「「うわあああああ」」
そして、二人はそのまま無間地獄へと堕ちて行くのであった。
★★★
デリックとルッツの二人を地獄へ送り込んでから数日後、俺はジャスティスから二人のその後について聞いた。
「へえ、あいつら今頃地獄で苦しんでいるんですね」
「うむ。ジャッジメントおじに聞いた話だとそういう事のようである」
ジャスティスが聞いてきた話によると、二人は日々地獄で獄卒たちにお仕置きされているらしかった。
「石ころのように針山に向かって放り投げられたり、頭から血の池地獄に突っ込まれたり、油が煮えたぎる大釜でゆでられたり、ナタで体を切り刻まれているらしいのである。それで『ギャー』だとか『助けてくれ』だとか、情けなく許しを乞うているようであるな」
「まあ、地獄ですからね。よく知らないですけど、その程度の罰は受けるんでしょうね」
「しかも奴らは生きたまま地獄に墜とされたのであるから、苦痛は亡者の数倍にもなるのであるな」
「それも本人たちが死にたくないと言った結果ですからね。願いが叶って万々歳じゃないですか」
「で、あるな」
本当にその通りだ。
俺はあいつらとの約束はちゃんと守ってやった。それだけの話だ。
だから、その結果あいつらがどんな苦痛を味わおうと知ったことではない。
俺の大切なものに手を出した報いと、罪もない人たちを殺した罪をちゃんと償ってもらうだけの話だ。
未来永劫に渡って、ね。
ーーーーーーー
これにて第16章終了です。
ここまで読んでいただいて、気にっていただけた方、続きが気になる方は、フォロー、レビュー(★)、応援コメント(♥)など入れていただくと、作者のモチベーションが上がるので、よろしくお願いします。
それでは、これからも頑張って執筆してまいりますので、応援よろしくお願いします。
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