第383話~デリックとルッツの裁判~

「こんにちは。約束通り、例の二人を引き取りに来ました」


 王様への報告が終わった後、俺はうきうき顔でブレイブの町の警備隊の本部へと来ていた。

 ここへ来た目的は一つ。

 デリックとルッツを引き渡してもらうためだ。


「ああ、これはホルスト様。隊長からお話は伺っております。例の二人の件ですね。すぐに連れて参りますので、少しお待ちください」


 係の人にも話はちゃんと伝わっていたみたいで、すぐにデリックとルッツの二人を牢屋から連れて来てくれたのだった。


「ほう、お前ら大分やつれたな」


 牢屋から出されてきた二人は、憔悴しきっていて大分やつれているように見えた。

 疲れ切って一言もしゃべる元気もなさそうだった。

 実際、さっきから一言も口を聞いていないし。


 まあ、ここの牢屋、食べ物も碌に出してもらえないようだからな。

 こうなるのも当然だった。


「まあ、お前らがどんな状態であろうと関係ないけれどな。それよりもヒッグスタウンのエリカの実家へ行くぞ!皆、お前たちのことを待ちわびているからな」


 ともあれ、二人がどんな状態であろうと二人をヒッグスタウンへと連れて行く必要がある。

 ということで、俺は二人をそのままの足でヒッグスタウンへと連行したのだった。


★★★


 五分後。


 俺は二人を連れてエリカの実家にいた。

 ブレイブの町とヒッグスタウンの間には千キロ以上の距離があるが、俺の魔法ならこの程度の距離を一瞬で移動するなんて造作もないことだ。


 それで屋敷に着くと、執事さんと万が一二人が暴れた時用にとお父さんが用意してくれていた警備用の魔法使いたちが待機していて、二人を屋敷のホールへと引っ立てて行った。


 屋敷のホールにはたくさんの人たちが待ち構えていた。

 エリカの御両親やお兄さん夫婦。うちの嫁たちにネイアさん。銀のお母さんの白狐。ヒッグス家の重臣たち。それにデリックとルッツの親戚一同まで集まっていた。

 皆一様にデリックとルッツに対して厳しい視線を向けている。


 当たり前だ。

 身内が重犯罪を犯してこうして目の前に連行されてきたのだ。

 全員心の中では苦虫をかみつぶしたような腹立たしい思いをしているに違いなかった。


 それはともかく、デリックとルッツは一同の前に座らされ、そこから一斉に糾弾会が始まる。

 まず、口を開いたのはヒッグス家の中でも犯罪を取り締まる役割の重臣の人だった。


「デリック・アップ並びにルッツ・ダウンに対する尋問を今から始める」


 その尋問開始の宣言とともに二人の裁きが始まった。

 重臣の人はまず俺が獣人の国からもらって来た二人の調査書から読み上げる。


「この調査書によると、お前たち二人は犯罪を犯して鉱山で労働に送り込まれて罪を償っている最中にもかかわらず、そこを抜け出したあげく、窃盗団に加わったとあるが、まことか」

「「いえ、それは少し違いますね。抜け出したのではなく、鉱山に窃盗団の一味が侵入してきて無理矢理仲間に加えられたのです」」

「ふむ、それがお前たちの言い分か?確かにお前たちの言い分が正しいのなら多少は罪が軽くなるかもしれないが、獣人の国の資料にはこういうのもある」


 そう言いながら重臣の人が出してきたのは、『参加希望者リスト』と書かれた資料だった。


「この資料は、窃盗団が鉱山の囚人の中から使えそうな者を金を払って仲間に引き入れた者の一覧である。この中にはお前たちの名前もあるのだが、これにはどう言い訳するのかね」


 何とか少しでも罪を軽くしようと画策していたデリックとルッツだったが、動かぬ証拠を突きつけられて焦り始める。


「「いや、それは何かの間違いです。俺たちは無理矢理仲間にされたので違いないです。そのリストは窃盗団の奴らが、俺たちが窃盗団から逃げられないようにでっち上げたものに違いないです」」


 そうやって下手な言い訳をして誤魔化そうとするが、そんな言い訳が通用するわけがない。

 すぐに重臣の人に反論される。


「まあ、そこまで言うのならその件は一旦置いておくとしよう。しかし、調書によれば、お前たちは窃盗団の中でかなりご活躍だったらしいではないか。何でも、いくつもの商家に侵入して積極的に盗みを働いたとか、その際に十名以上も人を殺めたそうではないか。その上、人さらい団ではリーダー的な役割も果たしていたという話ではないか。そう窃盗団の団員を始め、幹部たちも証言しておる。果たして無理矢理加入させられた人間がそこまで主導的な役割をするものなのかね」

「「え~と。それは……」」


 重臣の的確な反論に二人は即答できず、口ごもるのだった。

 そんな二人に重臣の人はさらに追撃をする。


「さらに今回エリカ様が預かっている獣人の子を攫って行った張本人はお前たち二人だという話ではないか。しかも、お前たち二人はその子を殴った上、ナイフでその子の耳を切り落とそうとしたそうだな。さらにその子を助けに入ったホルスター様にも危害を加えようとしたとか。これはホルスト様他複数の者が目撃していらっしゃる。無理矢理仲間に引き込まれたというお前らがそこまで子供相手に鬼畜なことをするものなのか。それを考えると、私はお前たちが積極的に加担したとしか思えないのだが、そこのところはどうなのだ」

「「……」」


 重臣の正論爆撃を受けた二人はもう何もしゃべることができなくなった。

 それを見るだけで二人が本当はどういう経緯で犯罪を犯してきたのかは明らかだった。


 そんな二人に周囲から罵声が飛んでくる。


「ヒッグス家の一族ともあろう者が、そこまでの重犯罪を犯しても責任を取ることなくあまつさえ罪を軽くしようとして嘘までつく。その上、そんな状態でおめおめと我々の前に姿を現すとは……恥を知れ!」


 ヒッグス家の重臣たちは二人の態度と犯罪歴を見てそう口を揃えて怒っている。

 二人の親兄弟をはじめとする親類共に至っては。


「こんな子、もう私たちの子供じゃないわ。煮るなり焼くなり好きにしてください」

「こんな犯罪者が身内だなんて!世間に顔向けができないよ!」

「いっそのこと、捕まる時に徹底抗戦して官憲に殺されてしまえばよかったのに!」


 と、二人とも完全に見捨てられている感じだった。


 血の繋がった身内にここまで言われて二人とも完全に抵抗する気力を失ったらしく、顔色を真っ青にして力なくうなだれていた。

 ここまで来て、ようやく二人にも自分がどれだけのことをしてきたのかが理解できたようだった。


 そんな二人に重臣がとどめを刺しに行く。


「さて、ここまでの情報を整理するとお前たちが積極的に犯罪組織に加担して銃犯罪を犯したので間違いないと思うが、それをお前たちは認めるか?言っておくがこれ以上お前たちが嘘をつくと罪が重くなるだけだぞ。どうだ?」

「「……、はい。認めます」」


 ここまで罪状を晒されて言い逃れのできなくなった二人はようやくおのれの罪を認めたのだった。

 これで二人の有罪は確定だ。


 さて、これから二人にはきっちりと罰を受けてもらうとしよう。


★★★


「それでは、後のことは俺に任せてください」

「ああ、頼むよ」


 お父さんに頼まれた俺は二人を二度と逃げ出せない場所へ連れて行くことになった。


 あの後二人は親戚一同にボコボコにされた。

 全身にあざができるほど激しく殴られ、顔は形が歪むほどボロボロになり、服の下も多分真っ赤に腫れていて動かすだけで痛いはずだった。


 こんな状態になっても二人は命乞いしてきた。


「「どうか死刑だけは勘弁してください!!」」


 ここまでのことをしてまだ自分の命が大事とか、本当自分勝手な奴らだと思った。


「そうかあ。死にたくないのか。いいだろう。死ぬのは無しにしてやろう」


 しかし、俺はその願いを聞き入れてやった。

 なぜかって?

 死んで楽になるなんてこの二人に許されることではないと思ったからだ。


 ということで、こいつらには死ぬ以上の酷い目に遭ってもらうことにする。


★★★


「それではヴィクトリアのお兄さん。後はお願いします」

「うむ、任せるのである」


 二人を連れてブレイブの町のヒッグス家の商館に戻った俺は、そこで待機していたヴィクトリアのお兄さんに二人の事を引き渡した。

 何せこれから二人が連れて行かれるところは普通なら生者では行けない場所なので、神であるヴィクトリアのお兄さんに任せるしかないのだ。


 ということで、これで俺の仕事は終わりだ。

 二人の様子については後でいろいろと教えてもらえることになっているので、今から結果が楽しみである。


「さて、これで二人の件も片付いたことだし、後は遺跡の封印のための準備でも始めるとするか」


 ということで、俺はもう一度エリカの実家に飛び、嫁たちを迎えに行ってから準備を進めることにしたのだった。


 ふと空を見上げると、冬だというのに空は雲一つない晴天だった。

 まるで俺の今の気持ちを代弁してくれているようで、清々しい天気だった。

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