第379話~盗賊団の首領と対峙する~
警備隊に連絡を入れてから数日後。
「ホルスト殿、我々も協力させてもらいますぞ」
王都の警備隊の隊長さんが部隊を引き連れて現地に到着した。
そういえばまだ言っていなかったと思うが、この隊長さん、ルーメンスさんという名前でイノシシの獣人だ。軍人らしくとても立派な体格の人で、しっかりした考え方の持ち主で、とても頼りになる人だ。
ルーメンスさんが今回率いてきた部隊の数は五千人。ものすごい数だ。
この人数を見るだけでも獣人の国が今回窃盗団のことを本気でどうにかしようとしているのが分かる。
それでこれからこの人数をアジトの入り口に配置して窃盗団の連中を逃がさないようにする。
今回の調査で発見した入り口は全部で二十か所。
狼や狐たちが発見した外から出もわかる入り口が十七か所で、ネズミたちが中の様子を探るついでに発見したアジトの中からしかわからない隠し通路的な入口が三か所だ。。
入り口の大きさや予想される重要度に応じてそれぞれの入り口に兵士を分けて配置し、盗賊共を一人も逃がさない予定だ。
こんな感じで準備を整えたので後は攻撃するだけだ。
★★★
夜になり、さらに時間が過ぎて明け方近くになった頃作戦を決行する。
この時間にしたのはこの時間こそが一番睡眠が深く、奇襲攻撃に適した時間だからだ。
俺は嫁たちとネイアさんの四人を連れてアジトの正面の入り口に向かう。
なぜここへ来たのかって?
それは、調査によるとここが一番盗賊団の首領の部屋に近いからだ。
まず敵の一番の急所を攻撃する。戦術の基本だ。
この戦術論に従い、まずは敵の首領を押さえるつもりだった。
入り口に行くと門番が二人立って警備をしていたが、特に警戒している様子はなかった。
五千人もの警備隊が動いているのだから、当然窃盗団にもその情報は伝わっているはずでもっと警戒していてもいいはずなのだが、そんな様子はみじんも感じられなかった。
多分堅牢な要塞に立てこもっているので、五千の警備隊など何とでもなるとでも思って油断しきっているのだと思う。
まあ、普通ならその考え方でいいと思うが、今は警備隊に俺たちがついている。
だから今からお前たちは地獄へ堕ちるのだ。
そのことを連中に教えてやるために早速行動開始だ。
まず入り口の門番から始末することにする。
「私に任せてください」
そう言うとネイアさんが一人入り口に音もたてずに近づいて行き。
トン、トン。と、背後から二人いた門番の首に手刀を軽く当てるだけで二人の意識を刈り取ってしまった。
さすがはネイアさんと言ったところである。
さて、邪魔な門番も片付けたし、いよいよアジトの中へ突入だ。
★★★
「『神獣召喚 オルトロス 『狼族の王』発動」
アジトに入るなり、俺は魔法を使って奇襲攻撃を仕掛ける。
魔法発動と同時に千近い狼が現れ、アジトの中へ突入して行く。
これだけでアジトの中は大混乱だ。
「ヒイイイイ、狼だ」
「お、お助けえええ!」
すぐにアジトのあちこちからそんな悲鳴が聞こえてくる。
物凄い混乱ぶりで、武具もつけずに下着同然の服を一枚着ただけで逃げ惑う盗賊共の姿が多数確認できた。
何せ寝ている時に千匹を超える実体を伴った狼の幻影に襲われたのだ。
こんなのに対処できるはずがなかった。
一応狼たちにはなるべく殺すなと命令しているので、行動不能になる程度の怪我だけで済む可能性が高いと思うがそれだけである。
数々の凶悪な犯罪を犯してきた以上タダで済むはずはないのだから、してきたことの罰はちゃんと受けてもらうとする。
中には狼たちの魔の手から逃げることに成功する奴もいるかもしれないが、外には多数の警備隊の人たちが待ち構えていて逃げ切ることなど不可能に近いから大人しく狼に行動不能にされた方が余計な体力を使わなくていいと思うけどな。
と、こんな感じでアジトの中が混乱している隙に俺たちは首領の部屋へと向かって行く。
★★★
入り口から五分も歩かないうちに首領の部屋に到着した。
「割と入り口の扉は立派ですね」
ヴィクトリアが入り口の扉を見てそんなことを呟く。
確かに入り口の扉は金細工で派手に装飾して立派だった。
ザ・盗賊の首領の部屋の扉!
そういった感じの扉であった。
よほどの悪事を働いて貯めた金で作ったのだと思う。
まあ、どうでもいいか。
それよりもさっさと首領を捕まえて、国宝の剣を取り戻して王様の依頼を達成しよう。
★★★
「おっ、結構広いじゃないか」
首領の部屋の中は結構広かった。ちょっとした闘技場くらいの広さがあった。
首領はこの広い空間をぜいたくに使っていて、部屋の中には机とベッドソファーくらいしかなかった。
人々から奪って来た莫大な財宝はどうしたんだろうと思ったが、この部屋の奥にはさらに宝物庫らしき部屋があって財宝はそっちへ隠しているみたいだった。
「おい、さっさと荷物を運び出せ!」
実際首領の部屋に入ると、首領がそうやって部下に命令して、宝物庫からめぼしいお宝を運び出して逃げ出そうとしていた。
首領は獣人ではなく普通の人間でとても狡猾そうな顔をした男だった。
首領に命令された部下たちはマジックバックに必死に荷物を詰めて逃げる準備をしている。
この期に及んでもお宝をあきらめないとか、本当に浅ましい奴らである。
もちろん、俺たちに逃がす気などないので。
「リネット、やれ!」
「おう!」
リネットに言って逃げようとして準備していた部下たちを全員気絶させてしまう。
それを見て首領が俺たちに吠えてくる。
「お前ら!何者だ!」
「俺たちはお前たちを捕まえに来た者だ。お前たち、獣人の国の人たちに大分迷惑をかけたようだな。その上、国宝の剣まで盗み出しやがって。俺たちはそいつの奪還の依頼も受けている。さあ、大人しく剣を返して、お縄について罪を償え!」
「くそー、お前らが国王から国宝の剣の奪還を依頼された連中か。一夜で王都の我が支部を壊滅させたという」
「その通りだ。だから、お前では絶対に俺たちに勝てないと思うぞ。ということで、大人しく降伏しろ!」
「ガハハハ、面白い冗談を言うな」
俺の降伏勧告に対してなぜか首領は高笑いで応えてきて、こう言うのだった。
「ワシは我が神であるプラトゥーン様のために尽くすと決めた身。ここから何としても脱出して再び我が神を復活させるために必要な資金を稼いでくれるわ」
プラトゥーン?今、こいつプラトゥーンって言わなかったか?
ということは、もしかしてこいつ神聖同盟の関係者なのか。
俺は恐る恐る聞く。
「プラトゥーンを我が神って……お前、もしかして神聖同盟の関係者か?」
「ほう。我が神の名を知っているのか?それに神聖同盟の名も。貴様ら、何者だ?」
「そりゃあ、よく知っているさ。お前らとは邪神の復活を阻止するためにあちこちで戦ってきたからな」
「戦って来た?そうか、お前らが我らの活動を妨害しているという新しい神々共の手下か。これは飛んで火にいる夏の虫よ!こうなったら、脱出は止めだ!盟主様から渡されたあれを使ってお前らを始末してやる!」
そう言うと首領は懐から何やら薬剤が入った注射器を一本取り出す。
そして、それを自分の体に躊躇なくブスッと刺すのだった。
★★★
「グオオオオオオ」
注射器を刺した瞬間、首領が雄たけびを上げる。
それと同時に首領の全身が徐々に大きくなっていき、何もない所から毛が生え、その上口から牙が生えてきたりした。
それを見てまずいと思った俺はヴィクトリアに命令する。
「ヴィクトリア!例のやつの出番だ!」
「ラジャーです」
俺の命令を受けたヴィクトリアは、俺に抱き着くと、俺の口にブチュッとキスをするのだった。
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