第378話~ロッキード山脈の窃盗団のアジトを調査せよ!~

「それでは我が眷属たちよ。このロッキード山脈に拠点を構えている窃盗団共のアジトの情報を掴んで来るのだ」

「はい、オルトロス様」

「私たち狐族も狼たちに負けないように有益な情報を掴んで来るのですよ」

「はい、白狐様」


 打ち合わせのあった翌日。


 オルトロスと白狐がそれぞれの眷属である狼と狐を呼び出し、一斉に調査を命令する。

 その命令に応えて狼と狐たちが一斉に動き出す。

 その数、両者を合わせるとおよそ千匹を超える数だった。

 これだけの数の狼と狐が動けば窃盗団のアジトの実態が暴かれる日もそう遠くないだろう。


 ということで、後は報告が入るのを待つだけである。


★★★


 狼隊と狐隊が帰ってくるまでのんびりと過ごすことにする。

 のんびりと言っても仕事はしている。

 狼隊や狐隊が帰ってきた時に休憩できるように炊き出しを作っているのだった。


「アタシとネイアちゃんでドラゴンの肉を切るから、エリカちゃんとヴィクトリアちゃんは稲荷寿司を作ってね」

「了解です」

「ラジャーです」


 作業の分担としては、リネットとネイアさんが狼たち用にドラゴンの肉を切り分けるつもりのようだ。


 オルトロスに狼たちに何を出したら喜ぶかと聞いたところ。


「それは肉がいいですね」


 とのことだったので、最近手に入れた地竜の肉を一匹分用意することにしたのだった。


 一方でエリカとヴィクトリアは二人で稲荷寿司を作っている。

 大量にご飯を炊き、お寿司を作って、それを俺がさっき買ってきた大量のお揚げで包んで稲荷寿司を作るつもりなのだった。


 ただ大量のご飯を作るには少し時間がかかるので、その間はお寿司の具を用意したり、俺やお父さん、神獣たちと雑談したりして過ごしていた。


「ところで、ちょっと気になったのですが、オルトロスってもしかして地獄の番犬として有名なケルベロスの弟さんですか?」

「ええ、そうですよ。というかヴィクトリア様は兄のことをご存じなのですか?」

「まあ、噂くらいは。でも、確かあなたはお兄さんと一緒に冥界にいるとか聞いていましたが、いつの間にかお父様の神獣になっていたのですね」

「ええ、そうなのですよ。ちょっとしたことで兄と喧嘩して冥界に居ずらくなったところをマールス様に拾っていただきまして、以来マールス様の神獣をやらせてもらっています」

「まあ、そういう事情があったのですね」

「はい。ですから冥界に居た頃は黒色だったのに今では神獣らしく毛が真っ白になってしまいましたよ」

「へえ、そうなんですね」


 と、こんな感じで楽しそうにヴィクトリアは会話するのだった。

 それを見ていて、俺はヴィクトリアの奴妙に食いつきがいいなと思っていたのだがこれには理由があった。


 というのも、俺たちと暮らし始める前の自堕落な生活を送っていたヴィクトリアは、テレビゲームというものにはまっていたらしく、それにケルベロスやオルトロスが出てきて活躍していたのだそうだ。

 それで興味が沸いてこうやって色々とオルトロスに聞いていたわけである。


 ただ、話はまだ続く。


「もう一つ気になったことがあるのですけど、聞いてもいいですか?」

「どうぞ」

「オルトロスって狼なんですか?お兄さんが地獄の番犬って言われているくらいですから、オルトロスも犬だとワタクシはてっきり思っていたのですが」


 その言葉を聞いてオルトロスの表情が曇り、場の雰囲気が一気に重くなった気がした。

 どうやら聞いてはいけない質問の様だった。

 聞いたヴィクトリアでさえ、空気の変化に気がついたのか、しまったという顔をしているくらいだしね。


 このバカ!どうしてくれるんだ!


 俺はヴィクトリアの奴を叱り飛ばしたくなったが、ここはオルトロスが大人な対応をしてくれる。


「まあ、犬も狼も同じ種族ですからね。大した違いはありませんよ。狼と犬の中にはお互いに狼は野生を残しているから狼の方が上だとか、犬の方がいい暮らしができるから犬の方が上だとか下らない言い合いをするのもいますが、私はそういう事をするつもりはありません。気分で狼と名乗っているだけの話です。それだけのことなのです」

「ああ、そうなんですね。まあ、そんなの個人の自由ですもんね。それでいいと思いますよ」


 オルトロスがそううまく言ってくれたので場の雰囲気はそれ以上重くならず、助かったのだった。

 本当ヴィクトリアのせいで雰囲気最悪になるところだった。

 後で、ヴィクトリアにはきっちり釘をさしておくことにしよう。


★★★


 そうやって雑談をしながら炊き出しをしているうちに、夜のとばりが降り、外に出ていた狼や狐たちが調査結果を報告しに帰って来た。


「お疲れ様です。疲れているでしょうから報告は後でも大丈夫なので、まずはご飯でも食べて疲れを癒してください」


 報告を受ける前に狼と狐たちに炊き出しで作ったご飯を提供してお腹を満たしてあげることにする。


 皆、一日中走り回ってお腹が空いていたのか、コクリとお礼に頭を下げると、食べ物を受け取りバクバクと食べるのだった。

 そして食い終わるとオルトロスと白狐にそれぞれ報告するのだった。


 その結果。


「お、アジトの入り口が大分判明してきたな」


 用意した地図に次々とアジトの入り口が記載されて行く。

 その数はすでに十以上になっている。

 多分まだ増えると思う。


 さて、狼や狐たちによる調査も順調に進んでいるようなので次の手を考えるとする。


「まずは王都の警備隊の隊長さんに連絡して援軍を派遣してもらわないとな。これだけ入り口の数が多いとさすがに俺たちだけで全て押さえるのは無理があるからな。まあ、これは王都を立つ前にすでに頼んでいてもう準備万端整っている頃だから頼めばすぐに来てくれると思う。そのためにヒッグス商会製の魔道通信機も持ってきたわけだし」


 まず俺はそうやって予定通りに応援を頼むことを考えた。


 さすがに俺たちだけで対処するには入り口の数が多すぎた。

 俺たちが突撃して窃盗団の大部分を撃破したとしても、逃げられる可能性は高い。

 だから、警備隊の人たちに入り口を押さえてもらって連中の逃亡を阻止する必要があった。


「それと、この際だからアジトの中の様子も知りたいところだな」


 後、できれば中の様子も知りたいところだった。

 あらかじめ中の様子を敷いておけば効率よく攻略できるだろうし。


「でもどうやったら中の様子を知ることができるだろうか。さすがに狼や狐たちでは中の様子を探るのまでは無理だろうし」


 ただ狼や狐たちでは体が大きすぎてアジトの中の様子を探るのまでは無理そうだった。

 俺がどうしようかなと悩んでいると、エリカがこう提案してきた。


「旦那様、そういう事ならまたネズ吉さんにお願いしてみてはいかがでしょうか」

「それだ!」


 エリカの提案を聞いてそれが一番だと思った俺は、早速ネズ吉の所へと魔法で瞬間移動するのだった。


★★★


 結論から言うと、ネズ吉は俺の頼みを快諾してくれた。

 すぐにロッキード山脈について来てくれると。


「我が眷属たちよ。窃盗団のアジトに潜入し、情報を手に入れてくるのだ!」


 ネズ吉が一言そう命令すると、千を越えるネズミたちが一斉に動き出しアジトに潜入して行くのだった。

 これで何とかアジトの中の情報も手に入りそうだ。


 警備隊の方へも連絡したところ。


「すでに準備は整っているので数日以内に向かいます」


 とのことだったので、こっちの方も問題なさそうだ。


 このようにしてアジトへ突入する準備は着々と整いつつあるので、後は中へ突撃するだけである。

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