第377話~狼の神獣との出会い~

 ブレイブの町を出てから一週間。

 ようやく目的地のロッキード山脈に到着した。

 途中魔物との戦闘もあったけど、概ね順調な旅だった。


「とりあえず拠点作りをするか」


 調査を始める前にとりあえず拠点を作っておく。


「ヴィクトリア、キャンプ道具を出してくれ」

「ラジャーです」


 ヴィクトリアに野営の道具を出させてみんなでテントを張って行く。

 テントを張る作業自体はそんなに時間がかからなかった。

 まあ、俺たちはこういう作業には慣れているからな。余裕でこなせる。


 そうやってテントを張ったらすぐに夕食の準備だ。


「今日はワタクシがおいしいスープを作ってあげますね」


 そう言いながらヴィクトリアが一生懸命肉と野菜がたっぷりと入ったスープを作っている。


 今日の夕食はヴィクトリアの当番ではなかったのだが、俺が頼んで作ってもらうことにした。

 というのも、ヴィクトリアが作った食事が出るとお父さんの機嫌がとても良いからだ。

 実際、今日だって。


「うん、ヴィクトリアがお父様のために作ってくれたスープはやっぱりおいしいなあ」


 と、非常に喜んでいたしね。

 まあ、お父さんにはこの後お世話になるのでここで喜ばせておいて損は無いから、これでいいと思う。


 ということで、その時間になるまで俺たちはのんびりと過ごしたのだった。


★★★


 夜になるとその待ちわびていた人物がやって来た。

 いや、正確に言うと人ではない。狼だ。


「こんにちは。こちらがマールス様がいらっしゃるテントでございますか」


 俺たちがテントの中で雑談をしていると、外からそんな声が聞こえてきたので俺が外を見てみると、全身が白い毛で覆われた金色の歯を持つオオカミがテントの外で待っていたのだった。


「ええと、あなたがフェンのひいおじいさんでマールス様の神獣である狼ですか?」

「はい、その通りです」

「おお、やっと来たか」


 俺がやって来た狼に対応しているとお父さんが横から顔を出してきた。


「あ、これはマールス様、お久しぶりでございます」

「うむ、久しぶりだな。元気にしていたか?」

「はい、おかげさまで元気にやらせてもらっております」

「そうかそれは結構なことだ。それではお前のことをみんなに紹介するから中に入りなさい」

「はい」


 そうやって狼を中へ入れて皆に紹介してくれるようだった。

 ということで、後はお父さんに任せようと思う。


★★★


「では、皆に紹介しよう。私の神獣であるオルトロスだ。ほら、挨拶しなさい」

「皆様、初めまして。私、マールス様の神獣をさせてもらっております。オルトロスと申します。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼むよ」


 そうやってお父さんにオルトロスのことを紹介してもらい、俺たちも挨拶したのでさてこれからいろいろ話そうかという雰囲気になったのだが、ここで横槍が入って来た。


「マールス様?に神獣?私はそちらの方はヴィクトリアさんのお父様だとしかお聞きしていないのですが」


 それは誰あろうネイアさんだった。


 それを見て、俺はそう言えばネイアさんにヴィクトリアの正体について話していなかったことを思い出した。

 ヴィクトリアの正体について話してしまうと、彼女を色々な事に巻き込んでしまうことになるので本当なら話したくなかったが、こうなっては仕方がない。


 「え~と、ですね」と、意を決した俺が事情を話そうとしたが。


「そういえば、まだネイアさんに話していなかったですね。ヴィクトリアさんって実は女神様なのですよ」


 その前にエリカが事情を話し始めた。


「え?女神様?ヴィクトリアさんが?」

「まあ、すぐに信じろといっても無理でしょうね。ですが、ヴィクトリアさんはマールス様のお嬢様で女神様で間違いないですよ。そうですね?ヴィクトリアさん?」

「そうで~す。ワタクシって実はこう見えても女神なのです。今まで黙っていてごめんなさいね。でも、本当のことを話したらネイアさんを厄介ごとに巻き込んでしまいそうで、それは嫌だなって思ったから黙っていたんです。そんな大事なことを内緒にされて気分を悪くされたかもしれませんが、許してもらえませんか?」


 そのヴィクトリアの問いかけに対して、ネイアさんは首を大きく横に振りこう答えるのだった。


「いえ、そんなこと気にしないでください。こんな大事な秘密、簡単に人に話せるわけがありませんからね。それよりも、私なんかに秘密を話してくれて、ありがとうございます」

「そうですか。許してくれるのですか。それはありがとうございます。それじゃあ、これからも仲良くしてくださいね」

「はい、もちろんです」


 そう言いながら、ヴィクトリアとネイアさんは仲良く握手するのだった。


 一瞬どうなることかと思ったが、どうやらヴィクトリアの誠実な対応によりうまく打ち解けることができたようだ。

 本当に良かったと思う。


 ただこの話にはまだ続きがある。ここまで話した以上、ヴィクトリアの家族についても話さなくてはならなかった。

 さてどう説明すべきかと俺が思っていると、幸いなことにネイアさんの方から聞いてきた。


「ところで、ヴィクトリアさんがマールス様のお嬢様だということは……まさかブレイブにいるお兄様というのは?」

「ええ、兄の武神ジャスティスですね」

「それでは、この前お会いしたお母様とおばあ様というのも?」

「母の魔法を司る女神ソルセルリと祖母の月の女神ルーナですよ」

「やはりそうだったのですか。お母様たちとはどこかでお会いしたことがあるような気がしてならなかったですし、お兄様もただ者ではない気がしていたんです」

「ネイアさんはお母様たちの神殿の神官長でしたからね。やはりお母様たちのことに感づいていたのですね。そういえば、お母様たちはネイアさんのことをこう褒めていましたよ。『あの子は神官長としてよく働いてくれました』って」

「本当ですか。そう言ってもらえると嬉しいです」

「それなのにあまりちゃんと紹介してあげられなくてすみませんでした。まあ、そのうちまた遊びに来るみたいなことを言っていたので、その時にまた紹介しますね」

「はい、お願いします」


 と、こんな感じで、ヴィクトリアの家族についての紹介も終わり、そのうちネイアさんにもヴィクトリアの家族を改めて紹介することになったのであった。


★★★


 さて、ヴィクトリアの事情をネイアさんに話した後は今後について話した。


「……ということで、ここロッキード山脈にあるという窃盗団のアジトの情報が知りたいんだ」


 俺がオルトロスにそうやって今までのいきさつを話すと。


「わかりました。そういう事でしたら我が眷属である狼族の力を結集して協力しましょう」


 と、快諾してくれたのだった。

 やった!これでうまい事情報が手に入りそうだと俺が喜んでいると、ここで白狐が話に割り込んできた。


「そういう事なら我が眷属である狐族も協力しましょう」


 そう申し出てくれたのだった。


 急にどうしたのだろうと思い白狐の方を見ると、その目はやる気に満ちていた。

 何というか、狼族が調査をすると聞いて自分たちもと対抗意識を燃やしている感じだった。


 そういえば狼も狐も種族的に近く、共に生物界では捕食者の位置にいる。

 だからお互いにライバル心を抱いている可能性は高そうだった。

 まあ娘の銀も被害に遭っていることだしやる気があるのはいいことだと思う。


 ともあれ、狼と狐、二つの種族が協力して情報を収集してくれるというのならこれほど心強いことはない。


「それじゃあ、二人ともよろしくお願いするよ」

「「はい、お任せください」」


 そうやって返事をする二人の目は自信にあふれていた。

 とても期待できそうだった。


 ということで、期待して待つことにしよう。


★★★


 そうやって窃盗団のアジトの情報収集に関する話し合いが終わった後は、オルトロスに神獣契約をしてもらった。

 神獣契約自体は簡単に終わった。


「汝ホルストよ。汝は我の力を正しきことにのみ使うと誓えるか?」

「はい、誓います」


 いつものように誓いの言葉を述べただけで終了だった。

 それで契約を完了した後はオルトロスの能力について聞いてみた。


「『狼族の王』。それが私の能力ですね」

「『狼族の王』?それはどういう能力なんだ?」

「実体を伴った狼の幻影を召喚して、それで敵を攻撃する能力ですね。一度の呼び出す数が多いほど狼の能力は下がりますが、ホルスト殿なら千体程度呼び出しても特に問題ないでしょう。ただし、一定時間で幻影は消えてしまいます。その代わり、幻影なので時間内であれば一定以下のレベルの相手の攻撃は一切通用しません」


 なるほど狼の群れを召喚する能力か。

 しかも幻影なので弱い相手は攻撃することができない、のか。

 それは強力そうな能力だ。

 数で押してくる魔物は多いから、雑魚の殲滅にはもってこいだと思う。


「それは貴重な能力を授けてくれて、ありがとうな」

「いえ、この力を使って是非神命を成し遂げてください」


 最後にオルトロスにそう言ってもらえて契約の儀式は終了だ。

 後はオルトロスと白狐の調査を待って窃盗団のアジトへ乗り込むだけだ。

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