第374話~エリカのお父さんへの報告~

 ヴィクトリアのお父さんと会った翌日、俺はエリカと二人でエリカの実家に来ていた。

 他のメンバーはブレイブの町のヒッグス家の商館で留守番だ。


 え?あんなことがあったばかりなのに留守にして大丈夫なのかって?


 それは問題ないと思う。

 商館にはリネットもヴィクトリアもいるし、何よりヴィクトリアのお父さんとお兄さんもいる。

 ジャスティスは中身はシスコンでも能力はピカ一なので、万が一にでも商館に怪しいやつが近づいてきたら容赦なく捕まえてくれるだろう。


「任せるのである。私の能力ならばこの町中の悪党どもの所在が丸わかりなのである。もしそいつらがここへ近づいてきたら、全員とっ捕まえてやるのである!」


 と、太鼓判を押していたので任せておけば安心だと思う。

 後、ヴィクトリアのお父さんのマールスも商館の警備を引き受けてくれた。


「そういうことなら、どうにでもしてやろう」


 と、自信満々に言っていたので間違いないと思う。


 ヴィクトリアのお父さん、ヴィクトリアのことが無ければ、ああ見えて誰に対しても鷹揚で優しい人なのだ。

 護衛の他にも子供たちと遊んでくれたり、商館の仕事を手伝ってくれたりしていたしね。


 というか、昨日はお父さんとはヴィクトリアのことで話しただけで終わったが、二人の来訪目的はヴィクトリアのおばあさんの女神アリスタに言われて護衛に来たということだったから、そっちの方が本命なのである。


 ちなみにヴィクトリアのおばあさんには白狐から報告が行っていて、それで二人を送り込んでくれたみたいだった。

 ということで、二人には頑張って護衛をしてもらおうと思う。


 そんなわけで、俺は気兼ねなくエリカのお父さんの所へ報告に行ったのであった。


★★★


「え?銀ちゃんが攫われた?それで銀ちゃんは大丈夫なのかい?」


 エリカの実家に着いた俺たちは、エリカのお父さんとお母さんに銀が攫われた件について報告した。

 すると、それを聞いた二人は蒼ざめた顔になり、根掘り葉掘り俺に事の次第を聞いてきた。


「はい。攫われてすぐに助けに行ったので、何とか助けることができました」

「そうか、無事に助けられたのか。それは良かった。それで、銀ちゃんに怪我とかはなかったのかい?」

「ええ、悪党どもに顔を殴られたりされたようですが、それ以外には怪我はなかったようです。その傷もヴィクトリアがすぐに治したので、もう元気ですね」

「そうか、怪我がなくて何よりだ。でも、怪我は治っても精神的にまいったりしていないのかい?」

「ええ、最初は怯えて震えていましたが、ホルスターにくっついて甘えているうちに元気を取り戻したようで、今では二人で庭で遊んでいます」

「ホルスターに甘えていた?」

「ええ、銀にとってホルスターは自分を助けてくれたヒーローですからね」

「そうなのかい?」

「ええ、詳しく話しましょうか?」


 俺はお父さんにホルスターが銀を助けた件について話した。

 それを聞いたお父さんはちょっと渋い顔をしつつも嬉しそうに笑いながらこう言うのだった。


「そうかホルスターがそんなことを……自分から危険なことに首を突っ込むというのはおじいちゃんとしてはあまりやってほしくはないのだが、ホルスターは度胸があって責任感が強い子のようだ。そういう点は僕としては好ましく思うよ」


 ホルスターの活躍をうれしく思う反面、あまり孫に危険なことをしてほしくないという複雑な感情を抱いているようだった。


 その気持ちはよくわかる。

 以前にも話したと思うが、俺も全く同じ感想を持ったからだ。


 そうやってお父さんには今回の件について報告したわけだが、まだ話には続きがある。


「それで、ホルスト君。そういうことがあったのならホルスターと銀はどうするんだい?事件が解決するまでうちで預かろうか?」

「いえ、その点は大丈夫です。最強の護衛が来ましたので、商館にそのまま置いておくつもりです。下手に移動させるよりそちらの方が安全ですので」


 お父さんの問いかけに俺は力強く答えるのだった。


★★★


「最強の護衛?誰のことだい?」

「ヴィクトリアのお兄さんですね。あの人がいれば商館の守りは鉄壁ですね」

「ヴィクトリアさんのお兄さん?確か前に会ったことがあったよね。ホルスト君たちに剣の修業をしてくれていたんだっけ?」

「はい。ですから、お兄さんの実力は良く知っています。俺とリネットの二人がかりでも勝てませんね。多分、安物の剣が一本あれば、千匹くらいのドラゴンの群れなら瞬殺してしまえますね」

「ほう。ヴィクトリアさんのお兄さん、そこまで強いのか。ならばここにいるよりも確かに安全かもしれないな。わかった。ホルスターたちの件はお兄さんに任せようか」


 俺の説明を聞いてお父さんは子供たちの件については納得してくれたようだったので、ジャスティスに任せることになったのだった。


★★★


「それとお父さんに後一つ報告しておくことがあります」

「報告?なんだい?」

「実はとらえた賊の中にヒッグス一族の者がいたのです」

「ヒッグス一族の者?それは本当かい?」


 ヒッグス家の一族の者が今回の一件にかかわっていると聞き、お父さんが驚いた顔になる。


 当然の反応だ。

 一族の者が窃盗団に加わって悪事を働いていた。

 お父さんからしてみれば、このことが世間に知られて良いことなど一つもないのだから。


「デリックとルッツという二人なのですが、お父さんはこの名前に聞き覚えは無いですか?」

「デリック?とルッツ?」


 その名前を聞いた時、お父さんは一瞬誰だかわからないという顔をしたが、すぐに思い出したらしく、顔を真っ赤にして怒り出した。


「そいつらは、確かうちの娘を攫った愚か者の名前ではなかったかな?確か鉱山に奴隷として送り込んだはずだと思うが」

「それが鉱山を抜け出して窃盗団の一味に加わっていたようです。そして、盗みに殺し、人さらいと悪事の限りを尽くしていたようです」

「盗みに殺しに人さらい?何ということだ!誇り高きヒッグス一族の者がそんな悪事を働いていただなんて、被害に遭われた方にとても顔向けができないではないか」

「はい、俺もそう思います。それに二人がやったのはそれだけではありません。今回、商館から銀を攫って行った張本人はそいつらなのです。二人は攫うだけでは飽き足らず、銀を殴ったり、あげくには銀の耳を切り落とそうとしたりと、随分銀をいじめてくれましたね」

「何と!銀ちゃんにまでそんなことをしてくれたのかい?もうその二人のことを許すことはできないね。ホルスト君、何としてもその二人をここへ連れて来てくれないか。この場で厳罰を加えてやるから」


 二人の悪事の限りを聞いたお父さんはかんかんに怒って、俺にそう頼んで来るのだった。

 それに対して俺はこう答えた。


「安心してください。すでに手は打ってあります。獣人の国の国王陛下にお願いして事件が解決し次第、その二人の身柄を引き渡してもらえる手筈となっております」

「そうか。もう手は打ってあるのか。さすがはホルスト君だ。では、事件が解決したら、その二人は必ずここへ連れて来てくれよ」

「はい、お任せください」


 と、こんな感じで二人の処遇は決まったのだった。


 さてあの二人がここへ連れてこられて泣きながら許しを乞うであろう姿が見られるかと思うと、本当今から楽しみである。


★★★


 その後はお父さんたちと世間話や近況報告などの雑談をして過ごし、

そろそろ帰ろうかなという頃になって、エリカがこんなことをお父さんに頼みだした。


「ところで、お父様。一つお願いがあるのですが聞いていただけませんか」

「何だい?エリカ」

「実は今度窃盗団の本部へ乗り込むにあたってネイアさんを同道させたいのですが構わないでしょうか」

「ネイア君を?」

「はい。こういう事件のあった後ですから、ブレイブの町のヒッグス商会は開店休業状態でしょうし、ネイアさんはああ見えて拳法の達人ですから戦力になると思うので、是非ついて来てもらいたいのです。ですから、ついて来てもらっても構わないでしょうか」

「そうだな。こういう騒がしい状態だと商売にならないだろうから暇だろうし、それは構わないよ。お前の好きなようにしなさい。あ、それとコッセルには普段より警備を厳重にして万が一に備えるように言っておいてくれ」

「はい、わかりました。それではネイアさんはお借りしますね」


 そんなわけで、何だかわからないうちにネイアさんも窃盗団の本部へ乗り込むことになっていたのだった。

 まあ、急な話だけどネイアさんは強いし別にいいかと俺は思った。


 その裏に嫁たちの計画があることも知らずに。

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