第373話~ヴィクトリアの父、来る!~
ヴィクトリアのお父さんが来た!
その報告を受けた俺は急いで応接室へ行く。
すると、応接室にはジャスティスともう一人見知らぬ男性が座っていた。
「やあ、弟子一号よ。久しぶりであるな」
「ええ、お久しぶりですね。お兄さん」
ジャスティスの方はそうやって気軽に挨拶してくれたが、お父さんの方は一言も発することなく黙っているままだ。
それを見て、これはかなり不機嫌だな、そう感じた俺は、お父さんの前に直立不動で立つと深々と頭を下げて挨拶する。
「初めまして、ヴィクトリアさんのお父さん。僕はホルストと申します。ヴィクトリアさんにはいつもお世話になっております」
そうやって自分ではなるべく丁寧に挨拶したつもりだったのだが、お父さんから返事はない。
俺がどうしようかと困っていると、ヴィクトリアが助け舟を出してくれる。
「お父様、お久しぶりですね。お元気でしたか?今、挨拶してくれた方はワタクシが非常にお世話になっているホルストさんですよ。そんな人が折角挨拶してくれたのに返事もしないのは失礼だと思いますよ」
ヴィクトリアに話しかけられたお父さんは不機嫌だった顔を急にニコヤカにして、俺のことは完全に無視して嬉しそうに娘に話しかける。
「おお、マイスィートエンジェル!元気そうで何よりだ!お父様はお前に会えてうれしいぞ!」
「まあ、スィートエンジェルって……。ワタクシもいい大人なんですから、そういう言い方は止めてください!」
「いいじゃないか。親にとっては子供はいつまでも子供なんだから」
そう言いながらお父さんはヴィクトリアのことを撫でるのだった。
うん、何なんだろうか。俺とのこの態度の違いは。
まあ、お父さん的には娘に久しぶりに会えてうれしいのだろうが、それにしてもお父さんの言葉の感じからしても娘に甘いお父さんという印象が拭えなかった。
とはいえ、今は待つしかないのでお父さんが落ち着くまで待つことにする。
★★★
ヴィクトリアを撫でて多少は気分が晴れたのか、ようやくヴィクトリアのお父さんが聞く姿勢に入った。
「改めさせて挨拶をさせていただきます。ホルストと申します。よろしくお願いします」
「お前がホルストか。妻から話は聞いている。何でも、私の娘を言葉巧みにたぶらかしてくれているようだな」
「いや、たぶらかすとか……そういうことはしていないと思いますが。それにお母さんはどちらかというと、俺たちのことを応援してくれていたみたいで、たぶらかしているだとかそういう風には思っていなかったみたいですが」
「だまらっしゃい!」
俺が言い訳しようとすると、お父さんはそうやって声を張り上げて威嚇してきた。
「確かに妻はお前たちのことに寛容なようだが、私は絶対に認めないからな!親に隠れて人の娘とイチャイチャするような奴は、他の誰が許そうとこの私は許さん!」
そんな風な様子で取り付く島もない感じだった。
正直なことを言うと、俺はどうしようかと困ってしまった。
俺がそうやって困惑していると、またヴィクトリアが口を挟んで来る。
「お父様!その言い方はないんじゃないですか!」
さっきと違ってちょっと怒っているようだ。
多分、お父さんがヴィクトリアの意志など一顧だにせず、自分の意見を押し通そうとしたからだと思う。
「ワタクシがどこの誰と何をしようがお父様には関係のない話ですし、お父様にそれをとやかく言う権利などありません!ワタクシたちはワタクシたちの意思でホルストさんと一緒にいるのです」
「いや、しかしな。ヴィクトリア。お父様は純粋でかわいいお前が悪い男に騙されているんじゃないかと心配で……」
「ホルストさんが悪い男、ですって?何ですか?お父様はワタクシに人を見る目が無いとおっしゃりたいのですか?!」
「いや、ヴィクトリア。お父様はそういう意味で言っているんじゃ……」
「それではどういう意味なのですか?ここではっきり言ってください!」
「……」
ヴィクトリアにずけずけと言われて、お父さん黙り込んでしまった。
というか、ここまで激しく怒るヴィクトリアは初めて見た気がする。
よほどお父さんが俺のことを悪く言うのが気に入らないらしかった。
「答えられないのですね。ということは、ワタクシの判断は正しかったということですね。それなのに、お父様はホルストさんのことをどうして悪く言うのですか?そんなお父様、ワタクシは大嫌いです!二度と顔を見たくないので、サッサと天界へ帰ってください!」
「大嫌い?」
娘に大嫌いと言われてお父さんがうつろな目になる。
明らかに動揺した顔だった。
それを見るに、その言葉は娘に一番言ってほしくなかった言葉のようで、すぐに娘に慈悲を乞う様に言い訳を始める。
「いや、違うんだ、ヴィクトリア!お父様はお前のことが心配なだけなんだ。だから、親である私に断りもなく、お前とくっつこうとしているその男のことをつい悪く言ってしまったんだ」
「それは余計なお世話ですね。ワタクシは自分の伴侶は自分で決めるつもりです。お父様に口出しされたくありません!」
「でもな。その男、本当にお前のことを幸せにできるのか?お父様にはそうは思えないのだが」
「何がワタクシにとって幸せなのかはワタクシが決めます。それにワタクシはもう少ししたら超絶的に幸せになる予定ですので」
「超絶幸せって、どうなるのだ」
「ワタクシ、もう少ししたらホルストさんの子供を産む予定ですので」
「え?」
「え?」
ヴィクトリアのその言葉を聞いて、俺とお父さん、同時に思わず声を上げてしまった。
というか、お前いきなり何を言い出すんだよ。
★★★
「貴様~!人の娘に何をしてくれているんだ!親に内緒で子供をつくるとか、絶対に許さんぞ!」
「ええと、僕も何の話か分からないのですが」
「なに!自分のしたこともわからないだと!貴様、白を切るつもりか!そんな無責任なやつに娘は任せておけん!というか、このままにしておくものか!この私が成敗してくれる!」
そう言うと、お父さんは俺につかみかかって来た。
顔を真っ赤にして、今にも俺を刺してきそうな勢いで迫って来る。
待って!本当に俺も何も知らないんです。
だって、ヴィクトリアとはずっと避妊していたし。
ヴィクトリア、何も言っていなかったし。
というか、お前、何してやったりという顔をしているんだ!
そんな暇があるんならこの事態をどうにかしてくれ!
と、俺がそんなことを思っていると。
「まあ、お父様、落ち着いてください」
「これが落ち着いてなどいられるか!私の了解も得ずにお前を身ごもらせたんだぞ。そんな男を成敗せずにいられぬものか」
「ふう、本当人の言う事を聞かないお父様ですね。いいですか?もう一度言いますよ。……ちっとは落ち着けや!このくそオヤジ!」
そう怒鳴りながら、ヴィクトリアはお父さんを捕まえると、お父さんのお腹をグーパンするのだった。
ヴィクトリアに殴られても大して痛くはないはずだが、それよりも娘に殴られた事実がお父さんにとっては堪えたらしく、たちまち俺を掴むのを止め、悲しそうな顔になる。
「ヴィクトリアちゃんがこの私を殴ってくるだなんて……うわー、ヴィクトリアちゃんが不良になっちゃった!」
あげくそんな風に大声でわめき始める始末だった。
だが、そうやって騒ぐお父さんに対して、ヴィクトリアは「落ち着いてください」と言いながら、お父さんの頬を優しく撫でる。
しばらく撫でているうちにお父さんも落ち着いたのか、大人しくなった。
それを見たヴィクトリアが優しく話しかける。
「やっと話を聞く気になりましたか。では、落ち着いて聞いてください。ワタクシのお腹にまだホルストさんの赤ちゃんはいませんよ」
「「え?そうなの?」」
「ですけれど、ワタクシの予定としてはもうすぐホルストさんの子供を産んで幸せになるつもりですからお父様が何を言おうと無駄ですよ、とそう言いたかったわけです」
★★★
その後、ヴィクトリアは自分の思いを熱くお父さんにしゃべり続けた。
「ホルストさんは強くてとても優しい人なんですよ。家族の為なら自分の身も顧みずに行動してくれますし。ワタクシも何度も命を助けてもらいましたし」
「そういう人と一緒になれて、子供を産んで、共に育てることができたらきっと幸せになることができると思うんです」
そんな感じで、お父さんに俺のことを語り続けるのだった。
聞いている俺としてはのろけ話を聞いているようでむず痒い気持ちだったが、ヴィクトリアが俺のことをそんなにも思ってくれているのかというのがよく分かって嬉しかったので、大人しく聞いていた。
お父さんは聞くのが嫌そうな顔をしていたが、先ほどの醜態もあるので、これ以上醜態を晒すと父親としての威厳が損なわれるとでも思っているのか、こちらも大人しく聞くだけだった。
そして、ヴィクトリアの話を聞き終わったお父さんはこう言うのだった。
「ヴィクトリア、お前の気持ちは大体理解した」
「本当ですか?それならばワタクシたちの仲を認めてくれるのですか?」
「いや、だからといってそう簡単に認めるわけには」
「まあ、まだそのようなことを言っていらっしゃるのですか。ならば、ワタクシの口から言うことはありませんね。ワタクシは例えお父様と親子の縁を切ってでもホルストさんと一緒になります」
「ま、待て!落ち着いて聞いてくれ!私は『簡単には認めん』と言っただけだ。条件次第では考えても良い」
「条件?それは何ですか?」
「その男には私が与えた試練を乗り越えてもらうとしよう。それができれば、お前たちの仲を認めるのもやぶさかではない」
どうやらお父さんは俺がその試練とやらを乗り越えれば、俺たちの仲を認めてくれるつもりの様だった。
「それで試練とは何なのですか?」
「実はな。ここの封印の遺跡に入るためには私が設けた試練を乗り越える必要があるのだ。この男がそれを乗り越えられれば、お前たちの仲を認めてやろう。どうだ。そこの男。私の試練を受けてみるか。できなければ、私は絶対にお前のことを認めないからな」
「わかりました。そう言う事なら、受けましょう」
俺はお父さんの問いかけに即答した。
遺跡へ行くための試練ということならば、どうせやらなければならないわけだし、このままだとお父さんは納得しそうにない。
お父さんが認めようが認めまいがヴィクトリアは俺と一緒になろうとするだろうが、できることならお父さんに認められてから一緒になりたかった。
と、こんな感じで俺はお父さんの試練を受けることにしたのであった。
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