第372話~王都の窃盗団を壊滅させる~
窃盗団のアジトに乗り込む前にまずは王都の警備隊の本部に寄る。
もちろん、応援を要請するためだ。
敵を皆殺しにするのならともかく、生きて捕えて情報を聞き出すとなるとさすがに俺たちだけでは手が足りないからな。
それで警備隊の本部へ行って応援を要請したわけだ。
幸い交渉の方はうまく行った。
警備隊の隊長が夜勤で本部にいてくれたからだ。
この人とは顔見知りだ。昼間、国王の依頼を受けた後、窃盗団の件で色々と話した人だからだ。
それで。
「王都の窃盗団殲滅の好機です!ここで頑張って大手柄を立てれば、国王陛下も大喜びでしょう」
と、説得すると。
「是非協力させてください」
そうやって話に乗って来たので、急遽応援の兵士を手配してくれたのだった。
ということで、俺たちは借りてきた兵士を引き連れて窃盗団の殲滅へと向かうのだった。
★★★
悪党どものアジトで把握しているのは三か所なので、俺たちは三つに分かれて行動した。
まず判明しているアジトのうち一番大きなアジトには俺が向かう。
何十人か兵士を連れて行くが、これは賊共の逃亡を防ぐのと俺が倒した賊共を捕縛してもらうためで、基本的には俺一人で殲滅するつもりだ。
残る窃盗団のアジトにはリネットとヴィクトリアが、人さらい共のアジトにはエリカとネイアさんが向かう。
二か所とも兵士を帯同させるが、俺同様、これは賊の逃亡阻止と捕縛用である。
「それじゃあ、お前ら、しっかりやって来いよ」
「「「「はい」」」」
こうして配置を決めた俺たちはそれぞれが賊のアジトへ乗り込んで行くのだった。
★★★
俺が向かった窃盗団のアジトは商業区の端の方にあった。
富裕な商人が住むような立派な建物で、一見して窃盗団が根城にしているような建物には見えなかった。
すべては窃盗団に見えないようにするための偽装だとは思うが、それにしても手が込んでいると思う。
まあ、いいや。こっちとしては賊共の建物がどうであれ関係ない。
時間も押していることだし、さっさと終わらせることにしよう。
★★★
賊共のアジトの制圧は三十分ほどで終わった。
そんなに難しい作業ではなかった。
賊共は全部で五十人ほどいた。
それなりの手練れもいたが、俺の敵ではなかった。
「おりゃあ」
アジトの中で一番強いとか名乗ってきた奴をそうやって一撃で倒してやると、他の雑魚共は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「ひいい、逃げろ!」
そうやって逃げようとしていたがもちろん逃がすつもりは無い。
「……」
無言で追いかけると全員気絶させてやった。
中には建物の外にまで逃げた奴もいたけれど。
「おら!大人しく捕まれ!」
と、外で待機していた兵士に捕らえられた。
そんな風に賊共を捕えていると、エリカたちから連絡が来た。
「旦那様、こちらも終わりました」
「そうか。ご苦労さん」
どうやら他の二か所の制圧も完了したようだった。
さて、把握していた三か所の拠点はこれで制圧したことだし、後は捕えた奴らを尋問してまだ把握していない窃盗団のアジトを見つけてそっちも殲滅することにしよう。
★★★
結局、この晩だけで窃盗団のアジトを十か所ほど制圧した。
例の鈴を使って口を割らせたら、アジト並びに予備のアジトの場所まですべて喋ってくれたのでみんなで協力して全部制圧した。
この晩に捕らえた賊の数は全部で三百人程。
その後の警備隊による調査によると王都に潜伏していた賊の数も同じくらいらしいので、俺たちは一晩で王都の窃盗団を壊滅することに成功したのだった。
★★★
「ご苦労さまだったな。ありがとう。助かったよ」
「いえ、いえ。こちらこそホルスト殿や白狐殿のお役に立てて何よりです」
王都内の賊の討伐に成功した俺たちは、商館で警戒していたネズ吉にお礼を言うと、元居た地底湖へと送り返した。
送り返す時にネズ吉にはお礼として好物のチーズを贈っておいた。
このチーズは王都ブレイブへ来る時の途中で買った物で、観光ガイドにも載っている高級店で購入した物だった。
「これはどうもありがとうございます」
俺がチーズを渡すと、ネズ吉は嬉しそうに住みかとしている地底湖近くの森へと帰って行った。
もちろん、ネズ吉たちの眷属にもお礼を渡しておいた。
大量のチーズを地下水路の一角に置いておいた。
それを何千匹というネズミが食べる様子は見ていて壮観だった。
もっとも数が数なので、翌日様子を見に行った時にはチーズは無くなっていたけどね。
さて、そんな風にネズ吉たちにお礼をした後は白狐を呼びに行く。
白狐は配下の狐たちを率いてブレイブの町の外で警戒していてくれたのだ。
そのおかげで、町から逃げ出そうとした窃盗団の連中を何名か捕獲することにも成功したので非常に役に立ってくれたと思う。
それで、白狐の件なのだが、銀を助け出したことは既に報告してあるのだが、助けた後も色々と立て込んでいたので銀と会わせてやることができていなかった。
ということで町の外まで呼びに行き、銀の所へ連れてきたのだった。
「銀!大丈夫ですか!」
「お母様!」
白狐を見るなり銀はそう叫びながら母親の懐に飛び込んで行って頬ずりして甘えるのだった。
白狐も娘が無事だったことに安堵したのか、「本当に無事でよかった!」と涙を流しながら、一生懸命娘の頭を撫でてやっている。
それを見ていると、銀を無事に助け出すことができて良かったと思うのだった。
★★★
「では、体の方にはどこも異常はないのですね?随分酷い目に遭わされたと聞きましたが」
「うん、大丈夫。もうちょっとで耳がなくなりそうだったけど、ホルスターちゃんがもうちょっとの所で助けてくれたから」
「まあ、ホルスター様が!」
銀がホルスターに助けてもらったことを聞いて、白狐が驚いた顔になる。
そして、そのままじっとホルスターの顔を見つめる。
見られたホルスターの方は照れくさいのか、顔を赤くして戸惑っている。
「ホルスター様。この度は娘を助けていただきありがとうございます」
「いや、当然のことだよ。銀姉ちゃんにはいつも遊んでもらっているし、昨日銀姉ちゃんが攫われたのも僕のせいだし。あの時、銀姉ちゃんは僕のためにパンケーキを焼いてくれていたんだ。それで僕が責任を取らなくちゃって思って、頑張ったんだよ」
「そうだったのですか。ホルスター様は本当に責任感があって頼もしい男性ですね。これからも娘のことをよろしくお願いしますね」
そう言うと白狐はホルスターにぺこりと頭を下げるのだった。
その後は、銀も交えて三人でホルスターと銀で普段どんな遊びをしているのかとか、そういう話をして過ごしていた。
とても微笑ましくていい光景だったと思う。
★★★
その日の午後からは国王陛下と面談をした。
もう銀を救出してしまったので国王陛下の依頼を断る必要は無くなったのだが、一応エリカが面談の手配を整えてくれていたので、今後のことも含めて話をすることにしたのだった。
「ホルストよ!見事であった!」
国王陛下と謁見するなり、俺たちはそうやってお褒めの言葉をいただいた。
「まさか昨日の今日で王都の窃盗団の拠点を壊滅させるとはのう。警備隊長も『これで王都の治安が良くなること間違いなしでございます』と褒めておったぞ。この調子で国宝の奪還もぜひ成し遂げてくれ」
「はは!必ずや成し遂げて見せます」
「うむ、頼んだぞ」
国王陛下に頼まれてしまった俺は深々とお辞儀をするのだった。
「それで国王陛下、捕らえた賊共の調査はどんな感じでしょうか」
「うむ、それについては大分進んでおる。詳しくは警備隊長に後で聞くとよいと思うが、窃盗団の本拠はロッキード山脈にあり、国宝もそちらへ運び込まれたという情報も入って来ておる」
「ロッキード山脈ですか。それはまた辺鄙な所に拠点を構えていますね。……まあ、どこが本拠地でも構わないですが。乗り込んで国宝を取り戻すだけの話ですし」
「それは頼もしいな。是非取り戻してくれ」
「はは!」
国王陛下に改めて言われた俺はもう一度頭を下げるのだった。
「ところで、国王陛下。一つお願いしたい儀があるのですが」
「ほう、何だ。言ってみよ」
「実は今回捕えた窃盗団の一味の中にデリックとルッツという人間の魔法使いがいるのですが、今回の件が無事に解決しましたら、そいつらを私どもに引き渡していただけないでしょうか」
「デリックにルッツ?そいつらはいったい何者なのだ」
「身内の恥を晒すことになるので話しにくいのですが、そいつらは私の一族の者で犯罪を犯したので鉱山に奴隷として送られていたのですが、どうもそこを抜け出して窃盗団の一味に成り下がっていたようでして。それで、その二人はぜひとも私の実家の方へ連れて帰ってそちらで処罰したいと思うのですが、連れて帰ってもよろしでしょうか」
「うむ。そう言う事なら好きにするがよい」
「ありがとうございます」
こんな感じでデリックとルッツの件の了承ももらったし、有益な情報も得られた。
とても良い国王陛下との謁見だったと思う。
★★★
「ホルスト様、お客様が見えられております」
商館に帰ると、俺たちを出迎えてくれたコッセルさんがそんな報告をして来た。
お客様?誰だろうか?
心当たりがない俺はコッセルさんに問い返す。
「お客様?一体誰なんだ?」
「それがヴィクトリア様のお父様とお兄様と名乗られております。
「ヴィクトリアのお父様とお兄様?……ということは!」
ヴィクトリアのお兄様と言えばジャスティスのことだ。
そしてお父様と言えば!
「その二人は何でここへ来たと言っていたんだ?」
「何でも事態が切迫しているようなので応援に来たとか言っておられましたが」
「よし!そういうことなら、すぐに会おう。案内してくれ」
「はい、畏まりました」
ヴィクトリアのお父さんと聞いて、とうとう来たかと思った俺はコッセルさんを急かすと、早速その人の所へ案内してもらうのだった。
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