第371話~デリックとルッツにお仕置きする~

「ヴィクトリア、こいつらに水をぶっかけてやれ!」

「ラジャーです。『精霊召喚 水の精霊』」


 俺の指示に従ってヴィクトリアが水の精霊を呼び出し、大量の水をデリックとルッツに頭からぶっかけてやる。


「「うう~、冷たい」」


 すると気を失っていた二人が水の冷たさで目を覚ます。

 俺はそんな二人に声をかけてやる。


「よお。デリックにルッツ。久しぶりだな」

「げ!ホルスト」


 俺に声をかけられた二人は俺の顔を見て驚愕した表情になる。


 もっとも驚いた顔だったのは最初だけで、すぐにその顔が恐怖に歪んで行くのが目に見えて分かった。

 きっと自分たちの所業を思い出して、それに対して俺がどういう反応を示すか、戦々恐々としているのだと思う。


 まあ、こいつらがどう思おうと関係ないけどね。

 何があってもこいつらには罪を償ってもらう。


「まさか、お前らがこんな所に居るとは思っていなかったぜ。お前らは鉱山にいると聞いていたんだが、どうやらうまく鉱山を脱出してきたようだな」

「「そ、それは、違うんだ」」

「ごまかそうとしても無駄だぜ。ここの他の連中に聞けば事情は分かるだろうし。まあ、それはどうでもいい。それよりも、お前ら、うちの銀によくも酷いことをしてくれたな。ほら、見ろ!」


 そう言いながら俺は銀の姿を二人に見せる。

 銀は先ほどよりも大分マシになったとはいえ、まだ恐怖が抜けきらないらしく、必死にホルスターにしがみついている所だった。


「こんな風に、うちの銀、すっかり怯えてしまったじゃないか。銀は俺のヴィクトリアが預かっている大切な子。俺の娘にも等しい存在だ!お前ら、この落とし前、どうつけるつもりだ?」

「「……」」


 俺のその問いかけに対して、二人は無言だった。

 怯えるような眼で俺のことを見ているだけだ。


 こいつら、謝ることもせず、自分の身の安全しか考えてないな。

 二人のその無反省な態度にムカついた俺は、二人の胸ぐらをつかむと、大声で怒鳴りつけてやった。


「てめえら!黙っていれば嵐が過ぎて行くとでも思っているのか。こっちはお前らが銀にした仕打ちを知っているんだぞ!」


 そう言いながら、俺は二人のほっぺたを思い切り殴ってやる。

 俺には殴られた二人は壁際まで吹き飛び、ドンという壁にぶつかった大きな音が部屋中に響き渡る。


「お前ら、こんな風に銀を殴ってくれたそうじゃないか。銀、とても痛かったって言ってたぞ。それに……」


 俺は一本のナイフを取り出して二人に見せる。

 それは二人が銀の耳を切り落とすために使おうとしていたナイフだった。


「聞くところによると、お前ら、このナイフで銀の耳や指を切り落とすとかほざいていたらしいな。お前ら、うちの銀に随分なことを言ってくれたようだな。銀、とても怖かったって言っていたからな。どれ、その恐怖を今からお前たちにも味合わせてやろう。今からその汚い耳を切り取ってやる」

「「ヒー、許してください」」


 ここへきてようやく二人が泣きながら許しを乞うてきたが、俺は無視する。

 二人の耳たぶを掴むと、ナイフでその皮を剥ぎ取ってやる。

 たちまち二人から絶望の悲鳴が上がる。


「「ギャー。い、痛い!た、助けて!」」


 そうやって全力で泣き叫ぶ。


 いい年をした大人が情けない姿を晒す。

 それだけでもスッキリする気分だった。


 それを見て、俺は嘲笑してやる。


「まだ皮を剝いだだけなのに子供のように泣き叫ぶとは、情けない奴らだ。こんな情けない奴らの耳何かもらっても嬉しくないから、やっぱいらねえや」


 そうやって悪態をつきながら、二人に唾をかけ、もう一発ずつ頬を殴ってやる。


「それよりも、俺たちは窃盗団を仕留めるのに忙しいからな。先にほかの連中を尋問しなければならないんだ。だから、お前らのことは後回しだ。ただし、決して許したわけじゃないぞ!」


 そう言いながら俺は二人のことを睨みつける。物凄い殺気を放ってな。

 それだけで二人はすくみ上り、蛇に睨まれたカエルのように動けなくなる。


「お前らの身柄は獣王陛下にお願いして俺たちがもらい受ける!そして、ヒッグスタウンに連行してそこで厳罰を受けてもらうからな!覚悟しておけ!」


 そして、最後に二人の腹に思い切り蹴りを入れ、二人の意識を刈り取る。

 これで『二人へのお仕置き~序章~』は終了だ。


 後はしばらくこの国の牢屋にでも預かってもらって、時が来たらヒッグスタウンへ連れて行って色々と責任を取ってもらうことにする。


★★★


 さて、デリックとルッツの後始末が終わったので他の連中を尋問することにする。


「おら!起きろ!」


 そうやって一人ずつたたき起こして尋問して行く。


 今回聞き出すのは主に他のアジトの場所だ。

 ここのアジトを壊滅させてしまった以上、その事実はそのうち窃盗団の連中にも知られてしまうだろう。

 そうなったら窃盗団の連中に逃げられてしまう。


 ということでこいつらから窃盗団の情報を聞き出し、王都の窃盗団の連中の身柄を押さえる必要があった。

 そんなわけでここは多少強引な手法を使うことにする。


「ヴィクトリア、『催眠』の魔法がこめられた魔道具があっただろう?あれを出せ」

「ラジャーです」


 俺の命令を聞いたヴィクトリアが収納リングから一個の鈴型の魔道具を出す。

 この魔道具には『催眠』の魔法が付与されており、耐性の無い者ならその音色を聞くだけだすぐに催眠状態にしてしまうことができた。


 つまりこの魔道具を使って催眠状態にしてしまい正常な判断をできなくした状態で尋問することで手っ取り早く情報を得ようという訳だ。

 この試みはうまく行った。


「おい!窃盗団のアジトの情報を知っているのなら洗いざらい話せ!」

「……はい。私の知る限りでは……」


 そうやって俺に問われた人さらい共は次々に情報を漏らしていった。

 その結果。


「とりあえず、地下水路に人さらい団のアジトがもう一個。王都の町中に窃盗団のアジトが二つあるのか」


 悪党どものアジトを三か所ほど探り出すことに成功した。


 ということで、早速行動開始だ。

 まずは人さらい共と攫われた人たちを移送する。

 場所はヒッグス家の商館の中庭だ。


『空間操作』」


 俺が魔法を使ってここのアジトの入り口とヒッグス家の中庭との間に転移魔法陣を作る。

 そこを通って全員を輸送する。


「皆さんはここで待機してくださいね」


 そして、攫われた人たちには商館の空き部屋で休んでもらうように手配して、休んでもらうことにする。

 彼らにも後で攫われた時の状況などを聞きたいので、それまで待機してもらうことにする。



 え?人さらい共は、って?

 そんな奴ら縛ったまま中庭に放置で構わない。


 幸い庭には銀のお母さんである白狐が派遣してくれた妖術も使えるという優秀な狐たちがいるし、ネズ吉と配下のネズミたちが周囲を警戒してくれているので逃げられる心配はないだろう。


 え?こんな寒い中、外に放置しておいて大丈夫なのかって?

 一応中庭には焚火を設置しておいてやるので大丈夫だと思う。

 まあ、風邪くらいは引くかもしれないが凍死まではしないと思う。


 というか、こんなクズ共の凍死の心配までしてやるとか、本当俺って優しいよね。


 それはそうと、準備は整ったので悪党どもの掃討に向かおうと思う。


「ホルスターは残ってちゃんと銀を守ってやるんだぞ」

「うん。銀姉ちゃんのことは僕がバッチリ守っているから、パパたちは悪党を退治してきてね」


 ホルスタと銀には留守番させる。

 銀はまだ動ける状態ではなかったし、銀はホルスターから離れたがらないからな。

 二人ともここに残しておくのが良いと思う。


 白狐が派遣してきた狐のうちの一匹を二人の部屋専属の見張りとしておくので俺としても安心して出かけることができる。


「じゃあ、お前ら、行くぞ!」

「「「「はい」」」」


 そんなわけで、俺は嫁たちとネイアさんを連れて窃盗団のアジトの殲滅に向かうのだった。

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