第370話~人さらい団、壊滅~

「『神獣召喚 ミー 『猫を被る』発動』」


 俺たちは神獣召喚の魔法を使って通風孔から人さらい共のアジトへ侵入した。

 俺とヴィクトリア、それにネイアさんがネズミの姿になって通風孔へと入って行く。


 通風孔自体はそんなに長くはなかった。

 すぐに出口まで走り抜けることができた。


 出口まで来ると武器を持った人さらい共がホルスターに迫っている所だった。

 部屋の隅を見ると、人さらい共の一人が銀の首筋にナイフを当てていた。

 どうやら銀を人質にとって、ホルスターを脅したようだった。


「ホルストさん、このままではホルスター君と銀ちゃんが危ないですよ」

「そうだな。では、早速乗り込むぞ!」

「「はい」」


 俺たちは三人で目を合わせて合図し合うと、アジトの中へ突入して行った。


★★★


「ホルスター、よく銀や攫われた人たちを守ってくれたな。後はパパたちに任せておけ」


 そう言いながら通風孔から部屋の中へと突入した俺たちは変身を解くと、すぐさま戦闘態勢に入る。


「はあああああ」


 ネイアさんが銀を人質にしていた男に突撃し、あっという間にナイフを叩き落すと、そのまま男の股間を蹴り上げる。


「ギャッ」


 ネイアさんの蹴りを食らった男は短い悲鳴を残してその場に崩れ落ちる。

 さすがはネイアさん!

 短い時間であっという間に暴漢をねじ伏せてしまうとか、さすが『武神昇天流』の使い手というべきだと思う。


 ネイアさんがそうやって銀を救出してくれたので、残りは俺とヴィクトリアの番だ。


「ホルスター!伏せろ!」


 俺はホルスターを地面に伏せさせると、ホルスターを取り囲んでいる連中に攻撃を仕掛ける。

 攻撃を仕掛けるとはいっても殺しはしない。

 こいつらにはこの後に情報を提供してもらうという仕事があるからな。

 だから痛めつけて動けなくなるだけで許してやる。


 もっとも、この場では死ななくても、どうせ獣人の国の官憲に捕まったら死刑は免れないと思うので同じことだと思うけどな。


 そんなことを考えながら一人一撃で気絶させて行く。


「この野郎!」


 奴らの中でも多少賢い奴らは弓で俺を仕留めようと攻撃してきた。

 狭い部屋だから避けようがないと思ったのだろうが、無駄な事だ。


「風の精霊よ!ホルストさんを狙っている矢を防ぐのです」


 ヴィクトリアが呼び出した風の精霊が連中の放った矢を全て防いでしまうからだ。


「じたばたするんじゃねえ!大人しく捕まれ!」


 そして矢を放って隙だらけになった連中は俺にどんどん仕留められていくという寸法だ。

 このようにしてホルスターを襲おうとした連中はあっという間に壊滅した。


「ば、化け物だ!逃げろ!」


 残った連中は入り口の扉を開けて逃げようとしたが、それも無意味な行動だ。


「逃がさないよ!」


 こんなこともあろうかと、リネットに入り口の扉の番をさせていたからな。


「うぎゃー」

「た、助けて」


 そうやって逃げようとしていたやつらが次々とリネットに仕留められていく。

 まあ、ここの連中何か、間違ってもリネットには勝てない連中だからな。

 当然の結果だと思う。


 こうして、俺たちは五分も経たないうちに人さらい共のアジトを制圧したのだった。


★★★


「さあ、今から食べ物と飲み物を配りますからね」


 人さらい共を全員ぶちのめして縛り上げた後は、銀と攫われた人たちの救助をした。

 まずは縄をほどいてあげた後。


「『範囲上級治癒』」


 ヴィクトリアがそうやって治癒魔法を全員にかけた後、食べ物を配って行く。

 攫われた人たちは獣人の子供や女性たちがほとんどで、碌に食事も食べさせてもらっていなかったらしく。


「ありがとうございます」

「久しぶりのご飯だ~」


 そう口々に言いながら出された食事をおいしそうに食べていた。

 この人さらい共もこの前の密猟団も同じ窃盗団の傘下だそうだが、攫って来た人たちや捕まえた動物たちを存在に扱うことでは共通していた。

 本当ろくでもない連中だと思う。


 さて、攫われた銀たちも救い出したことだし、これから人さらい共を尋問して色々吐かせたいところだが、その前にホルスターと親子の話をしようと思う。


 俺はゆっくりとホルスターに近づいて行く。

 見ると、ホルスターは泣きじゃくる銀に抱き着かれていた。

 さっき銀を助けて以来ずっとこの調子だ。

 きっと人さらい共にさらわれてよほど怖い目に遭ったのだと思う。

 そんな時ホルスターが目の前に現れて助けてくれたものだから、ホルスターのことが物凄く頼りがいがあるヒーローに見えてしまって、こうやって抱き着いているのだと思う。


 まあ、俺の嫁たちも何か怖いことがあったら俺に抱き着いてくるからな。

 ホルスターは俺から見ても頼り甲斐を感じる子だから、銀が頼りに思うのも無理はないことだとは思う。


 それはともかく、まだ怯えている銀を刺激しないように、俺はホルスターに優しく声をかける。


「なあ、ホルスター、何で一人で敵のアジトへ入って行くなんて無茶をしたんだ。パパ、とても心配したぞ」

「ごめんなさい、パパ。勝手なことしちゃって。でも、僕我慢できなかったんだ。銀姉ちゃんの助けを求める声を聞いちゃったから」


 そこまで言うと、ホルスターは一旦話すのを止めて、改めて俺の目をじっと見つめながら続きを話し始めた。


「あの時、パパたちが話している時に落ち着かなくてその辺をうろうろしていたら空気穴から銀姉ちゃんが助けを呼ぶ声が聞こえてきたんだ。それを聞いたら僕、頭の中が真っ白になっちゃって気がついたら空気穴に入っていたんだ」

「そうだったのか。でも、それだったら部屋に入った後、パパたちを待っていればよかったんじゃなかったのか?お前はまだ未熟なんだから。それなのになんで一人で挑むなんて無茶をしたんだ?」

「それはね……」

「ホルスト様!そんなにホルスターちゃんを怒らないでください。ホルスターちゃんが無茶したのは銀のせいなんですから!」


 と、ここで銀が俺たちの会話に割り込んできた。


 大粒の涙を流しながら必死の形相でそう訴えかけてきた。

 普段大人しい銀が柄に無く必死に言ってくるものだから俺はちょっと面食らったが、とりあえず話を聞いてみることにする。


「わかった、銀。ホルスターを怒ったりしないから、落ち着いて話しなさい」


 そうやって諭すように言うと、銀はようやく騒ぐのを止めて、落ち着いて事情を話し始めた。


「あの時、銀はもうちょっとで耳を切り落とされそうな所だったんです」

「え?そんな深刻な状況になっていたのか?」

「はい。犯人がにやけた顔をナイフに写しながらそう言っていたので間違いないです。それで、これで銀の耳がなくなるんだって銀が覚悟した時、ホルスターちゃんが突っ込んできて銀を助けてくれたんです」

「本当なのか?ホルスター」

「うん、本当だよ。銀姉ちゃんの耳がどうとかまでは知らなかったけど、銀姉ちゃんに刃物が迫っているのは見たんだ。だから僕は銀姉ちゃんがピンチだと思ってと突っ込んだんだ」


 ふ~む。そういう事情があったのならホルスターを一方的に叱るわけにはいかないなと思った。


 というか、自分を省みず、女の子をピンチを救うために行動できたことは褒めてやるべきだと思う。


 だから、俺はホルスターにこう言ってやった。


「そうだったのか、ホルスター。確かに一人で無謀な行動をしたのは褒められたことではないけれど、女の子のピンチに行動を起こせたのはえらかったぞ」


 そう言いながらホルスターの頭を撫でてやった。

 子供が良いことをしたら褒めてやる。親として当然のことだ。


 ただ、最後にもう一度釘を刺しておくのも忘れない。


「でも、次からは攻撃する時はちゃんと作戦を立てて相手に隙を与えないように行動するんだぞ。そのためには修行と勉強が大切だ。帰ったらその辺を頑張りなさい」

「うん、頑張るよ、パパ。今度はもっとちゃんと銀姉ちゃんを守れるようになってみせるよ」

「よし、その意気で頑張れよ」


★★★


 さてホルスターへの説教も終わったので、人さらい共から事情を聞くとする。

 まずは誰から話を聞こうかと思い物色していると、さっきの銀の話を思い出す。


「そういえば、銀。さっきこいつらの中にお前の耳を切り落とそうとした不届き者がいるとか言っていたな。それはどいつだ?」

「そこの二人です」


 そう言いながら銀が指さしてきたのは、部屋の片隅で壁に寄り添うようにして気を失っている二人組だった。

 そいつらが気になった俺はどんな面をしているのだろうかと思い、近づいて顔を改めてみた。すると。


「あれ?こいつら、どこかで見たことがある顔だな。……って!こいつら、ルッツとデリックじゃねえか」


 それはかつて俺のことをいじめていたデリックとルッツだった。

 しかもこいつら俺をいじめるだけでは飽き足らず、エリカやヴィクトリアを攫って行ったこともある俺にとっては極悪人だ。


 でも、こいつら、何でここにいるんだ?

 確かエリカのお父さんの話だと、こいつら鉱山に奴隷として売られたという話だったが……。


 まあ、そんなのどうでもいいか。

 どうせ鉱山労働が辛くて逃げだしたとかいうくだらない理由だろうし。


 それよりも、ここで会ったが百年目。


 今度はホルスターや銀にまで手を出しやがって!

 かつて俺やエリカたちにしたことと併せて、とても許せることではない!

 その上それらの行動をまったく反省することなく、鉱山から抜け出してこんな所で人さらいの一味になっているとか……これはお仕置きが必要だな。


 そう思った俺は、早速こいつらに対するお仕置きの方法を考えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る