第369話~ホルスター、人さらい共のアジトに潜入する~

「キャー、誰か助けて~」


 そんな銀姉ちゃんの悲鳴が聞こえたような気がした。


 僕はホルスター・エレクトロン。

 僕は今パパたちと銀姉ちゃんを助けに来ている。


 銀姉ちゃんは僕の大切な人だ。

 いつも一緒に遊んでくれたりお昼寝したりと、僕にとって欠かせない人だ。

 銀姉ちゃん無しで生きる。

 僕には考えられない話だ。


 そんな銀お姉ちゃんが目の前の部屋の中に捕らわれている。

 パパたちは今部屋の中にどうやって入るかを話し合っている。


 本当なら話が終わるまで大人しくしていなきゃいけないのだろうけど、僕は落ち着かなくて部屋の周りをうろうろしていたんだ。

 すると銀姉ちゃんの悲鳴が聞こえたんだ。

 僕が声のした方を見ると、壁の上の方に空気穴があったんだ。

 声はそこから聞こえたようだった。


 しかも銀姉ちゃんの声は今すぐにでも助けてほしいような声だった。


 そんな銀姉ちゃんの声を聞いてしまった僕は、今すぐ銀姉ちゃんを助けなきゃという気持ちになり、パパたちにも何も言わずにその穴から部屋の中に入って行ったんだ。


★★★


「銀姉ちゃん!」


 空気穴から部屋の中へ潜入した僕は銀姉ちゃんを見つけたんだ。

 銀姉ちゃんは二人の男に囲まれて、今にもナイフで切られそうな状況だった。


 危ない所だった。

 もうちょっと僕が来るのが遅かったら銀姉ちゃんがナイフで切られていた所だった。


「銀姉ちゃん、今行くよ!」


 僕はそう小声で言いながら、迷うことなく銀姉ちゃんの前に飛び出して行った。


★★★


「『筋力強化』」


 僕は部屋の中に入るなり魔法を使って自分を強化した。

 そして、銀姉ちゃんを襲おうとしていた悪者たちをぶん殴った。


「「ぎゃん」」


 僕に殴られた悪者たちが吹き飛ばされ壁に激突して動かなくなる。

 ドカンと結構大きい音がした。


「何事だ!」


 その音を聞きつけて他の部屋から悪者たちの仲間たちがわらわらと集まってくる。


「『氷だ……』」

「ホルスターちゃん、ダメ!」


 僕はすぐに氷の魔法で悪者たちをやっつけようとしたけど、銀姉ちゃんが止めてきた。


「どうして?」

「だって、ここには悪い人たち以外にもたくさんの攫われた人がいるんだよ。魔法だとその人たちまで傷ついちゃう!」


 銀姉ちゃんにそう言われた僕は周囲を見渡す。

 すると、銀姉ちゃん以外にもたくさんの縛られた人がいるのが見えた。

 今まで銀姉ちゃんのことに夢中で気がつかなかったのだけど、確かにここにはたくさんの人がいた。

 ここで僕が下手に魔法を使えばその人たちまで怪我をするかもしれない。


「わかったよ。銀姉ちゃん」


 僕は魔法で攻撃するのを止めて、パパからもらった剣を使って戦うことにする。


「クソガキが!」


 僕が剣を構えると、早速悪者たちが僕に襲い掛かって来た。

 相手は狼の獣人で素早そうな動きをする男だったけれど、僕を子供だと舐めているのか、大振りで隙だらけな動きで攻撃してきた。

 パパたちに鍛えられている僕にそんな動きは通じない。


「えい!」


 と、狼の獣人の人に攻撃し、鎧ごと吹き飛ばしてやる。


「ガキが、舐めた真似をしやがって!」


 僕に仲間があっさりとやられたことに怒ったのか、他の奴らが本気で攻撃してくる。


「矢で射止めろ!」


 弓矢を持ち出して来て僕に攻撃してくる。

 捕まっている人たちに矢が当たって怪我をしようが知ったことではないといった感じだった。


 ビュン、ビュン。

 悪党どもは次々と矢を放ってくる。


「えい、やー」


 僕はそれらを剣で迎撃するけど、ちょっと数が多い。


 僕の実力では全部は防ぎきれないかもしれない。

 どうしようか。


 僕は内心途方に暮れたけど、ここであることを思い出す。

 そういえば、パパがくれたこの剣には防御魔法が込められているんだった。


 それを思い出した僕は魔法を発動する。


「『究極結界魔法陣』」


 僕がそうやって魔法を使うと僕と銀姉ちゃん、それに攫われた人たちの周囲に防御魔法が展開される。

 その防御魔法に悪者たちが放った矢はすべてはじき返され、カラン、カランと乾いた音を残して矢が地面に落ちていく。


「おのれ!ガキが!」


 矢が効果がないことにいきり立った悪党たちが剣や槍で攻撃してきたけど、もちろん無駄な攻撃だ。


「な、何?」


 防御魔法に阻まれてまったくこちらに近づくことができなかった。


 こうなれば事態は膠着して動かないと思う。

 だから、僕はパパたちが来るまでこの状態をキープしようとした。

 そうすれば後はパパたちが何とかしてくれる!そう思ったからだ。


 しかし、物事は僕の思い通りにはならなかった。


「おい!ガキ!こいつがどうなってもいいのか?」


 そんな声が僕の背後から聞こえたからだ。


★★★


「銀姉ちゃん!」


 僕が声の方へ振り向くと、最初に僕が倒したはずの二人のうちの一人が、銀姉ちゃんの首にナイフを当て僕の方を睨んでいた。

 どうやら死なない程度に手加減したので、完全に気絶させることができなかったようだった。


 そいつは睨んだまま僕にこう言って来た。


「ガキ!この狐のガキの命が惜しかったら抵抗をやめて大人しくしろ!」

「わかった。抵抗はしない。だから銀姉ちゃんを放せ」


 こうなった以上、僕は抵抗しないことにする。

 防御魔法を解除し、剣を床に突き刺し、両手をあげて無抵抗の意思を示す。

 すぐに他の悪者どもが僕を取り囲んで来る。


 ああ、ここまでか。

 僕がそうやって観念したとき、突如部屋の中に声が響いた。


「ホルスター、よく銀や攫われた人たちを守ってくれたな。後はパパたちに任せておけ」

「パパ!」


 それはパパの声だった。


 パパの声は僕の入って来た空気穴の方から聞こえてきていた。

 僕がそちらの方を見ると、穴から三匹のネズミさんがちょうど空気穴から飛び出してくるところだった。


 そして、その三匹のネズミさんたちは空中でドロンという音と煙を立てながらパパたちへと変身したのだった。

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