閑話休題55~その頃の銀~
銀です。
今、銀は腕をロープで縛られ、口には猿ぐつわをかまされて動けない状態です。
銀の周りには他にも似たような人がいるらしく、周囲からはその人たちのすすり泣く声が聞こえてきます。
それを聞いていると、自分の今置かれている状況が悲惨なものなのだと理解できて、とても辛いです。
銀が今こんな状態なのは銀が不覚を取ってしまったからです。
あの時、銀はホルスターちゃんのためにパンケーキを作っていました。
銀はパンケーキを作るの結構得意なんですよ。
だってヴィクトリア様に手取り足取り教えてもらいましたから。
「銀ちゃん、おいしいパンケーキを作るにはこうするんですよ」
そうやってヴィクトリア様に教えていただいた結果、銀も上手にパンケーキが焼けるようになりました。
だからその技術を使ってホルスターちゃんにパンケーキを焼いていたのですが、パンケーキを焼くのに夢中になるあまり、あの時の銀は獣としての警戒心を完全に喪失していました。
「おら、声を立てず大人しくしろ!」
「キャー」
だから暴漢共に後ろから首筋にナイフを突きつけられるまで全く気がつかなかったのです。
ナイフを突きつけられた私はそのままロープで縛られ連行されてしまいました。
そして、今のこのザマという訳です。
自分でも情けない話ですが、こうなった以上どうしようもできません。
助けが来るのを信じて大人しくしていることにします。
★★★
それからどのくらい時間が経ったのでしょうか。
ドタ、ドタ、と銀の方へ近づいてくる足音が聞こえてきました。
何事でしょうか。
そう思いながらも動けないのでじっとしています。
銀がそんなことを思っている間にも足音は近づいています。
「おい、デリック。例の狐の娘はどこに置いたんだ」
「確か他の獣人のガキどもと一緒の所に置いたぜ、ルッツ」
足音は二つ聞こえてきて、そんな会話をしながら近づいてきます。
この声には聞き覚えがあります。
確か銀をこんな目に遭わせた人たちです。
聞く限りではルッツとデリックという名前で、どうやら銀に用事があって来たようです。
ピタッと足音が止みます。
すると、そのルッツとデリックという二人が銀に話しかけてきました。
「クソガキ!起きろ!」
そう言いながら縛られて動けない銀の髪を掴んで、上半身を無理矢理起こします。
そして上半身を起こすなり、銀のほっぺたをひっぱたいてきました。
バンという大きな音とともに銀は壁に吹き飛ばされました。
その際につかまれていた髪の毛が何本か抜けました。
壁にあたったのと合わせてとても痛かったです。
銀をそうやって叩いて壁にぶつけた後、二人は再度銀に近づいて来て、今度は銀の猿ぐつわを外して銀がしゃべることのできる状態にしてからこう聞いてきました。
「おい!ガキ!お前、聞いた話によると随分とホルストの所でかわいがってもらっているようだな」
「確かにホルスト様にはお世話になっていますが、それが何か?」
「俺たちはホルストのせいでひどい目に遭ったんだよ。だから、あいつのことを恨んでいる。本当ならあいつに復讐してやりたいところだが、あいつは強い。下手をすると返り討ちだ。だからとりあえずあいつの代わりにお前をひどい目に遭わせてやる。そして、ボロボロになったお前をあいつに見せることによって、俺たちに舐めた真似をしたことを後悔させてやる!」
何と言う卑劣な連中でしょうか。この男たち、ホルスト様に勝てないからと言って銀を痛めつけてホルスト様に対する復讐とするつもりのようです。
正直な話をするととても怖かったです。だって、この先どういう目に遭わされるかわからなかったんですもの。
そんな銀の不安をよそに二人は銀に暴力を振るってきます。
「おりゃああ」
そう言いながら、二人はもう一度銀のことをひっぱたきました。
銀は再び壁に打ち付けられました。
とても痛かったです。
そして、二人の攻撃がこれで終わるわけがなく、次は何をされるのだろうと銀が震えていると、ここでいったん二人の動きが止まりました。
「待ちな、ルッツ。このまま殴るだけでは面白くないな」
「そうだな、デリック。このガキを殴るだけでは全然ホルストの奴に復讐した気にならないな」
「だな。それに下手に殴って打ち所が悪くてこのガキが死んでしまったら上の人に怒られてしまうだろ」
「そうだったな。一応このガキはホルストを国王の仕事から降ろさせるための人質として攫って来たんだからな」
「だから別の方法で痛めつけようぜ」
「というと?」
「これだ!」
そう言いながらデリックという男が取り出したのはナイフでした。
「これで、このガキの耳、それに指を何本か切り落としてホルストの所へ送りつけてやろうぜ。このガキの耳を見ればホルストも後悔するだろうぜ」
「そりゃあ、いいな」
そう言いながら二人はナイフに自分たちの顔を写しながらニヤリと笑うのでした。
それを見た銀は思わず叫んでしまいました。
「キャー、誰か助けて~」
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