第367話~銀の居場所を見つけたぞ!~

 さて、銀を人さらいから救うためにはまず居場所を見つけなければならない。


「『世界の知識』」


 まず魔法で銀の居場所を探ってみる。だが。


「う~ん。わからないな」


 銀の居場所を探ることができなかった。

 俺の魔法ってたまにこういうことがあるんだよね。

 ヴィクトリアに原因を聞いたところ。


「う~ん。『世界の知識』って、邪悪な存在を持った力が意思をもって邪魔をしている時はうまく機能しないことがあるんですよ」


 とのことだった。

 ということは、今回の窃盗団の件、バックには巨大な存在がいたりするのか?

 窃盗団程度にそんなバカな!とも思うが、使えない以上はそういう可能性もあるとしか言えない。

 それよりも今は銀のことを探らなければならない。


 ということで、次の手を打つことにする。


★★★


「まあ、銀が攫われたのですか!」

「ああ、俺たちの警戒が足りなかったんだ。本当に申し訳ない」

「本当にごめんなさい!ワタクシたちが至らぬばかりに銀ちゃんを危険な目に遭わせてしまって」


 嫁たちとの協議の結果、俺はヴィクトリアを連れて銀の母親の白狐の所へ向かった。

 目的は銀の件の報告と、何か白狐に助力を得られないかと思って来たのだった。


 そして冒頭のように二人して謝ったのだが、それに対する白狐の反応は冷静だった。


「いいえ。皆様が謝る必要はありません。元々銀は修行のためにヴィクトリア様にお預けした身。しかもヴィクトリア様は世界を救うために色々と活動されているお方。そんなお方の元にいれば今回のように危険な目に遭う可能性があることは娘も重々承知していたはず。それなのに、屋内とはいえ、そこまで油断しきっていた娘が悪いのです。ですから、皆様が謝る必要はありません!」

「それはちょっと子供には厳しすぎるんじゃないか?」

「いいえ、子供だからといって、甘えは許されません。神獣になる道というのはそのくらい困難なのです」


 白狐の意見が厳しすぎるんじゃないかと思って、俺がそう言っても白狐は自分の考えを曲げなかった。

 その態度だけを見ていると、白狐って娘を厳しく育ててきたんだなと思った。

 ただ、あくまでその態度は建前だったようで、すぐに親としての本音が出てくる。


「しかしながら、娘が神獣を目指す以上親としては娘にはそういう突き放した態度で厳しく接しなければならないと思うのですが、本当は心配で心配でたまらないのです」


 そう涙を必死にこらえながら本心をぶちまけてくる。


「……白狐ちゃん」


 その白狐を見てヴィクトリアも感極まったのか泣き出しそうになる。

 それを見ていると俺もつらくなって泣きたくなってきたが我慢する。

 俺まで泣いていたのでは事態の収拾がつかなくなってしまうからだ。


 そうやって俺は何とか気持ちを奮い立たせながら、白狐に聞いてみる。


「それでどうやって銀を探そうか。まだ時間が経っていないからそう遠くへ行っていないと思うんだが」

「そうですね。一歩でも町の外へ出たのなら私が眷属の狐たちを使って探せるのですが、町の中だと狐では無理ですね。……そうですわ。そういえば、ホルスト様は白ネズミのネズ吉殿とお知り合いでしたね」

「ネズ吉?ああ、もちろん知っているぞ」


 ネズ吉は白ネズミの神獣でドワーフの国の地底湖に住んでいる。

 グランドタートルを封印する時に協力してもらったし、神獣契約もしてもらったので、彼のことはよく知っていた。


「では、ネズ吉殿に頼んで協力してもらうというのはどうでしょうか」

「ネズ吉に?」


 ネズ吉にどう協力してもらうのだろうと思った俺は白狐に詳しく話を聞くことにしたのだった。


★★★


 一時間後。


 俺はネズ吉を頭の上に乗せてヒッグス家の商館の中庭に立っていた。

 ここに立って何をするのかって?

 それは今からネズ吉に力を振るってもらうのだった。


「拙者は神獣白ネズミのネズ吉。我が眷属のネズミたちよ。我が呼びかけに応えよ」


 そうやってネズ吉が眷属のネズミたちに呼びかけると、五分も経たないうちに。


「うわー、たくさんのネズミさんですね」


 中庭にたくさんのネズミが集まって来てネズ吉に対して平伏する。

 ざっと見るだけでも千匹くらいはいると思う。

 さすがは神獣。白狐同様、眷属を統べる能力を持っているようだ。


 さて、集まってきたネズミたちのうち、一匹が前に進み出て首こうべを垂れながら恭しい態度でネズ吉に対して質問する。


「ネズミ族の長たるネズ吉様。この度我らを呼ばれたのはどのようなご用件でしょうか?」

「実はこちらのホルスト様の奥様であらせられる女神ヴィクトリア様がお預かりしている神獣見習いの銀殿が攫われたのだ」

「何と!」

「銀殿はふさふさした耳と尻尾がチャーミングポイントのとてもかわいらしい方だ。そんな子が悪党どもに捕まって虐げられているかもと思うと、我としてはとても落ち着かぬ。それに、銀殿は我とともに女神アリスタ様の下で修業した白狐殿の御息女でもある。我としてもぜひ無事に助けたいと思っている」


 そこまで言ったところで、ネズ吉は一旦話すのを止め、集まってきたネズミたちを見回す。

 そして、ネズミたちがネズ吉に恐れ入って改めて平伏するのを見ると、再び口を開く。


「そこで、お前たちに命じる。何としてでも銀殿の手掛かりを探してまいれ!ブレイブの町中の建物、地下水路、街路樹の影までくまなく探してくるのだ。ネズミ族の誇りを賭けて全力で探すのである!」

「ははー」

「よし!では、行け!」


 ネズ吉がそうやって命令すると、ネズミたちが一斉に動き出す。

 ヒッグス家の商館の門の隙間や排水溝へ次々と入って行き、銀の行方を捜しに出発してくれる。


 まあ、これだけの数のネズミがいればこの広いブレイブの町と言えども、まだ銀がこの町から連れ出されていなければ、きっと手がかりをつかめるはずだ。


 ということで、何らかの報告があるまで俺たちは待つことにするのだった。


★★★


 それからさらに一時間後。


 何匹かのネズミが中庭に戻って来た。

 戻ってきたネズミはネズ吉に何やら報告をする。

 そして、その内容をネズ吉が俺たちに教えてくれる。


「ホルスト殿。どうやら銀殿が見つかったようですぞ。この町の地下には地下水路が張り巡らされているのですが、どうやらその中の一か所に人さらい共の拠点があって、そこに他の攫われた人々と一緒に監禁されているようです」

「何!それは本当か!」

「はい、間違いありません!」

「よし!では早速銀を助けに行くぞ!」


 こうしてネズミたちの活躍により銀の居場所が判明したので、俺たちは満を持して銀の救出に向けて出発するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る