第366話~銀、攫われる~

 銀が攫われた!

 その知らせを聞き、俺たちは慌てふためく。


「銀ちゃんが攫われた?一体どういうことなんですか!」


 特に銀の主人であるヴィクトリアの動揺が激しくひどく取り乱している感じだ。

 コッセルさんの服を掴んで執拗に事情を聞こうとしている。


「リネット」

「うん」


 このままでは埒が明かないので、そうやってリネットにヴィクトリアを抑えさせて俺が事情を聞くことにする。


「それで、どのような状況で銀が攫われたのですか」

「実は賊は裏口から侵入して来まして」


 コッセルさんの話を要約するとこうだ。


 銀を攫った賊は裏口から侵入したらしい。

 それで、台所でホルスターの為にお菓子を作っていた銀を背後から襲って攫って行ったのだということのようだ。


「一応裏口にも警備の者を置いていたのですが、その者は賊に斬られて意識不明の重体です」

「意識不明の重体?ということはまだ死んでいないのですね」

「はい」


 賊の目撃者がいて、意識不明の重体だがまだ生きている。

 となると、やることは一つだ。


「ヴィクトリア、行け!」

「ラジャーです!」


 そうと聞いた俺はすぐさまヴィクトリアを治療に向かわせるのだった。


★★★


 三十分後。


「ここは?」


 意識不明だった警備の人の意識が戻った。

 まあ、うちのヴィクトリアが特大の気合いを入れて魔法を使ったからな。

 傷はあっという間に治ったし、脳とかにも異常は見受けられないようなので、この分なら事情を聞けそうだった。


 まあ、いきなり事情を聞くのも何なのでまずは俺が優しく声をかけることにする。


「この度は大変だったな。商館を守るため意識がなくなるほどの大怪我を負わせてしまって本当にすまないことをさせてしまったな」

「いえ、それが私の仕事だから当然のことです」

「そうか。そう言ってもらえるとありがたい。俺がコッセルさんやエリカのお父さんに言って十分な見舞金と休暇が出るようにしてやるから、しっかりと休んでくれ」

「はい。ありがとうございます」

「それで、疲れているところ悪いんだが、もし賊について何か覚えていることがあったら教えてくれないか?こういう情報は鮮度が命なんだ。お前が辛い状況なのは理解しているが、無理を承知でお願いできないだろうか」

「はい、喜んで話させていただきます」


 ということで、見張り役の従業員から得た情報をまとめるとこうなる。


 犯人は人間の二人組。

 いきなり魔法で目くらましを食らった後、剣で斬りつけられそのまま倒されてしまった。

 以上の二点だった。


 犯人に対する情報がほとんどない状態だったので、これだけでも物凄くありがたい情報だった。


 それにしても人間の魔法使いが窃盗団にはいるのか。

 それを聞いた俺は窃盗団って結構な人材を抱えているんだな、と思った。


 さて、この従業員から得られる情報はこのくらいだろう。

 ということで、もう一人いるという目撃者から話を聞くことにする。


★★★


「ホルスター、銀が攫われた時の状況を話してくれないか?」


 俺はホルスターから銀が攫われた時の状況を聞いた。

 ホルスターは銀が攫われた時一番近くにいて、銀の悲鳴を聞いたのだった。


 今のホルスターは銀がいなくなったことに打ちひしがれていた。

 さっきからずっと泣いていて一言もしゃべらない。

 こんな状況の子供から話を聞くのは酷だと思うが、それでも銀を助けるためには話を聞かなければならない。


 だから俺は我が子の心が強いことを信じて優しく聞いた。


「なあ、ホルスター。このままだと銀が危ないんだ。銀を助けるためにはお前の協力が必要なんだ」


 そう何度も繰り返し話すうちにホルスターも落ち着いてきたのか、少しずつ話してくれるようになった。


「パパ。僕が悪かったんだよ。銀姉ちゃんに何か食べたい物があったら作ってあげるって言われて、パンケーキが食べたいって言ったら、銀姉ちゃんが作ってくれるって言ったので、銀姉ちゃんを放っておいて一人で遊んでいたんだよ。それで、台所の方から大きい音とキャーという銀姉ちゃんの悲鳴が聞こえて行ってみたら、銀姉ちゃんがいなかったんだ。僕が銀姉ちゃんにパンケーキを食べたいって言わなかったら、銀姉ちゃんを一人きりにせず二人でいたら、人さらいなんか返り討ちにしてたのに!だから、全部僕が悪いんだよ」


 ホルスターは自分が悪いと本当に思っているのか、何度も自分が悪いと言いながら、あった出来事を話してくれたのだった。


 正直、親として息子がこれだけ落ち込んでいながらも懸命に事情を話してくれる様子を見るのはつらかった。

 しかし、それでも一生懸命話してくれた姿を見てこいつも成長したんだなと頼もしく思った。

 だから、息子を抱きしめるとこう言ってやった。


「ホルスター、それは辛かったな。でも、ちゃんと話せて、えらいぞ!銀のことはパパたちが何とかしてやるから、お前は安心して見ていろ」

「うん、パパ。ありがとう」


 そしてその後はホルスターが平静を取り戻すまでじっと頭を撫でてやったのだった。


★★★


「そうだ、パパ」


 しばらくホルスターのことを撫でていると、ホルスターが何かを思い出したのか突然話を切り出してきた。


「これを見て!」


 そう言いながら何か手紙のような物を渡してきた。


「これは?」

「銀姉ちゃんが攫われた場所に落ちていたんだ。どうやら人さらいが置いて行った物みたいだけど、宛先が『ホルストへ』ってなっているでしょ?だから、パパに直接渡そうと思って僕が持っていたんだよ」

「『ホルストへ』。本当だ、手紙の宛先はそうなっているな」


 見ると確かに手紙の宛先はそうなっていた。

 なるほど。だからホルスターは手紙を他の大人たちに見せず俺に直接渡してきたということか。


「どれ、それでは読んでみるか」


 ということで、早速手紙を開けて読んでみた。

 すると。


「狐の娘の命が惜しかったら、国王の依頼を断れ!窃盗団の件から手を引け!」


 手紙にはそう書かれていた。


★★★


 俺は早速嫁たちとネイアさんを集めて作戦会議を開く。

 まずは手紙を披露して意見を聞くことにする。


「これは王宮の、それもかなり上の方から情報が洩れている可能性がありますね」


 俺の発言を聞くなりエリカがそう意見を述べてきた。

 俺もその可能性は高いと思う。


 何せ銀が攫われたのは俺たちが王宮から帰ってくる前だ。

 ということは、俺たちが国王陛下の依頼を引き受けたということがすぐさま窃盗団に伝わって、人さらいが行われたということである。

 あまりにも早すぎる犯行だ。

 確実に上級役人の中に窃盗団と繋がりのある奴がいるに違いなかった。


「それで、ホルストさんはこの件から手を引くつもりなのですか?」

「いいや、引かない。すぐにでも行動を起こして銀を攫った奴らをまとめて成敗してやる!」


 ヴィクトリアにこの件から手を引くのかと聞かれた俺は即座に否定した。


 だってそうだろう?

 何せ相手は平気で人を攫って行くような極悪な集団だ。

 仮に俺たちが手を引いたところで、本当に銀を解放するかなんてわからないじゃないか。

 むしろ、見せしめに銀のことを殺したりするかもしれない。

 だからそんな奴らと交渉何かはしてはいけない。


 俺がそう意見すると。


「本当、ホルストさんのおっしゃる通りだと思います」

「確かに、そんな連中のことなんか信用しちゃダメだね」


 と、皆も俺の意見に賛成してくれた。


 ということで、俺たちの方針は決まったので早速行動を起こすことにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る