第365話~獣王の依頼~
俺たちはリングストンさんに案内されて王宮へ入った。
「こちらでございます」
さらに王宮の中では高級そうな服を着た猫獣人の役人さんが謁見の間へと案内してくれる。
「思ったよりも質素な感じの王宮ですね」
案内されながらも王宮の様子を見たヴィクトリアがそんな感想をポツリと漏らす。
ヴィクトリアの言葉通りここの王宮は質素、というか質実剛健という感じだった。
というのも、獣人の国には武を尊ぶ風潮が強いらしく王宮と言えども華美な装飾を嫌い、飾りを少なくした堅牢な造りの建物になっているということだった。
「こちらが、謁見の間でございます」
そんなことをやっているうちに謁見の間に着いた。
いよいよ国王陛下との面談であった。
★★★
「勇者たちよ。よく我の求めに応じて来てくれた。我が獣人の国レガシーの国王、獣王トトス12世である」
「はは。獣王様自ら挨拶とは恐れ入ります。私がお招きいただきましたホルスト・エレクトロンでございます」
謁見の間に入り対面するなり国王陛下は早速気さくにそう挨拶してくれた。
国王陛下はライオンの獣人。その黄金のタテガミはとても立派で非常にカッコよく王様らしかった。
いきなり俺に声をかけてくれたことからもわかるように、あまり細かい作法とかにこだわらないタイプの人の様だった。
それはさておき、早速本題に入る。
まずは俺の方から話を切り出してみることにする。
「それで国王陛下。本日はどういったご用件で私どもをお呼びいただいたのでしょうか」
「それがのう。国の恥をさらすようで言いにくい話なのだが、実は我が国の国宝が盗まれたのだ」
「国宝ですか?」
「うむ。ヤタノツルギというオリハルコン製の剣での。かつて我が国の初代国王が軍神マールス様より授かった宝剣なのだ。代々王家に受け継がれてきた国権を象徴する大事な剣なのだ」
軍神マールス様より授かった剣が国宝なのか。
というか、マールスって確かヴィクトリアのお父さんだったような気が。
俺は国王陛下の話を聞きながらそんなことを思ったのだった。
★★★
国王陛下の話はまだ続く。
「軍神マールス様から授かった宝剣がこの国の国宝なのですか?確かマールス様と、後ジャスティス様がこの国では最も崇められている神様だと聞いておりますが」
「その通りじゃ。この国では武を貴たっとぶ風習があるのでの。ゆえに我が国の神殿ではマールス様とジャスティス様を中心に置いてお祈りしておるのだ」
なるほど、武を貴ぶ風習か。
そう言う事ならマールスとジャスティスはうってつけの神様だと思う。
実際、俺の国でも軍の作戦室にはマールスの神像が飾られ、武術道場へ行けばジャスティスの神像が飾られているからな。
しかし、よりにもよってそんなに大事にされているというマールスからもらったという宝剣が盗まれてしまったのか。
しかも国権を象徴するとか言っていたから、王家にとってはとても大事な剣なのだろうと思う。
これは思ったよりも大事になってしまっているようだ。
そうならばここで俺たちがその宝剣を取り戻してくれば、この後の地脈の封印にも国王陛下は協力してくれるかもしれない。
そう思った俺は、国王陛下に対してこう言い切るのだった。
「ということは、国王陛下。今回我々に対して依頼するのはその国宝の奪還ということでよろしいですか?」
「うむ。その通りじゃ。引き受けてもらえるかの?」
「もちろんでございます。万事、我々にお任せください。必ずや宝剣を取り戻してみせます」
「そうか、引き受けてくれるか。それではよろしく頼むぞ」
このようにして、俺たちは国王陛下の依頼を引き受けたのだった。
★★★
さて、国王陛下の依頼を引き受けることになったので、より詳しい説明を聞くことにする。
「それで、国王陛下。その国宝を盗んだとかいう犯人に心当たりがあったりしますか?」
「実は犯人の目星はついておる。最近我が国で暗躍しておる大規模窃盗団。奴らの犯行である可能性が高いのだ」
大規模窃盗団。
その噂は聞いたことがある。
確かウェストリバー町のギルドマスターのホッジスさんが言っていたと思う。
あいつらは確か……。
大規模窃盗団ですか。その噂は聞いたことがあります。本業の窃盗の他に密猟団や人さらいなどもやっている組織だと、そういう噂になっております」
「その通りじゃ。さすがはホルストじゃ。その窃盗団について知っておったか」
「はい、この前その傘下と思われる密猟団を我々が検挙したところでございます」
俺のその話を聞いて国王陛下が満面の笑みになる。
「ほほう。もう窃盗団の一味を捕まえておったのか。それは頼もしいことよ。その調子で本体の方も捕まえてくれ」
「もちろんでございます。それで、国王陛下一つ気になったことがあるのでお伺いしてもよろしいですか」
「うむ、何でも聞くがよい」
「そのヤタノツルギという宝剣は国宝ですよね。ということは、厳重に管理されていたはず。それがあっさりと盗まれたということは、もしや王宮の中に内通者がいるのでは?」
俺のその言葉を聞いて国王陛下がポンと手を叩く。
「うむ、まさにその通りじゃ。余もその可能性を疑って捜査を進めておるのだが、奴らも中々巧妙での。中々尻尾を掴めぬのだ。ホルストよ。もし、宝剣を探す過程で連中に関する情報を掴めたら、余に知らせてくれぬか」
「はい、畏まりました」
これで、国王陛下との話は終わりだった。
その後は警察部門の役人と打ち合わせをして、俺たちはヒッグス家の商館へと帰ったのだった。
★★★
「何事だ!」
ヒッグス家の商館に帰った俺たちを待ち受けていたのは、大事件だった。
商館の周囲を町の警備隊の人たちが取り囲んで何やらざわついていた。
俺たちは商館の前に馬車を止めると急いで中へと入って行く。
すると、青い顔をしたコッセルさんが警備隊の人に事情を聞かれているのが確認できた。
俺は慌ててコッセルさんに声をかけて事情を聞く。
「コッセルさん、一体何があったのですか?」
「これはホルスト様、申し訳ありません。銀様が攫われてしまいました」
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