第363話~俺たちとネイアさんの歓迎パーティー~

 獣人の国の王都ブレイブに到着した日の夜。

 ヒッグス商会の商館の一室で俺たちとネイアさんの歓迎パーティーが開かれた。


「ホルスト様方。ヒッグス商会ブレイブ支部へようこそ。ささやかながら、歓迎のパーティーを開催させてもらいます」


 そんなコッセルさんの挨拶でパーティーが始まる。

 パーティーは立食形式で行われていて、割と広いホールにたくさんの料理が並んでいる。


「今日は立食パーティーなんですね。たくさん食べ物が並んでいて……これは食べ甲斐がありますね」


 ということで、ヴィクトリアが早速張り切って皿に大量の料理を取って来ては食べている。

 まあ、今日は俺たちの歓迎会だから遠慮することはないと思うが、ここの支部の若い子にも食わせてやりたいから、ほどほどにしとけよ。

 そう言いつつも俺や他の嫁、子供たちも料理を取って食べる。


 このパーティーでは獣人の国の郷土料理が多く出たが、とにかく肉料理が多かった。

 多少脂っこい気がしたが、これはこれでおいしかった。


「ちょっと味が濃くて脂っぽいけど、これはこれでおいしいね」

「そうですね。これなら軍の若い子なんかが喜びそうですね。今度ヒッグス家の軍でも採用するように父に言ってみましょうか」


 と、嫁たちも満足みたいだし。

 そんな感じで食事を楽しんでいると。


「ホルストさん、ちょっとお願いがあるのですが」


 急にネイアさんにお願いをされた。


 滅多に人にものを頼んだりしないネイアさんに急に頼みごとをされた俺は驚いた。

 何だろうか、と思いつつもとりあえず話を聞いてみる。


「何でしょうか」

「このパーティーって、食事が終わった後にダンスをするみたいなんですけど、その時に私と一緒に踊っていただけませんか」


 何とダンスのお誘いだった。


「ダンスですか。別にいいですよ」

「ありがとうございます」


 もちろん俺は快く了承した。こういう場で女性からの誘いを断るのは失礼だし、ネイアさんは踊りが上手だから、単純に楽しそうだと思ったからだ。

 一瞬嫁たちの顔が脳裏をよぎったが。


「皆さんも私と踊るのが楽しみだといっていましたよ」


 と、嫁たちとも踊る気らしいので、嫁たちも単にダンスを楽しみたいのだろうと思って放念することにした。


 しかし、この時の俺は知らなかった。

 このダンスのお誘いが嫁たち公認の行為だったということを。


★★★


 ダンスの時間になった。


「旦那様、踊りましょう」

「ホッルスットさ~ん、踊りましょう」

「ホルスト君、踊ろうよ」


 まず嫁たち三人と一緒に踊った。

 順番に曲に合わせて踊って行く。


「エリカ、ダンスうまくなったな」

「そうですか?ふふふ」

「ヴィクトリア、足のステップが大分良くなったな」

「ふふふ、お褒めいただきありがとうございます」

「リネットは、上半身の動きが華麗になったよな」

「褒めてくれて嬉しいよ」


 三人と踊ったのは久しぶりだったが、三人ともすごくダンスが上手くなっていた。

 後で聞いた話によると、三人ともネイアさんにダンスのコツを教えてもらったらしかった。

 それは子供たちも同じようで。


「銀姉ちゃん、ダンスって楽しいね」

「うん、ホルスターちゃん、楽しいね」


 と、二人で仲良くダンスしていた。

 そんな感じでみんなとのダンスをこなしていくうちに。


「それでは、よろしくお願いしますね」


 ネイアさんの番になった。


★★★


 ネイアです。


 今日は思い切ってホルストさんをダンスに誘ってみました。

 とても緊張しましたが、ホルストさんは快く受けて下さったのでとてもうれしかったです。


 え?何で急にダンスに誘ったりしたのかって?

 実は今日の昼間私の荷物の整理をしていた時、エリカ様たちにズバリ指摘されてしまったのです。


「ネイアさん、実はうちの旦那様のことが好きですよね?」


 その言葉を最初に聞いた時、私の心臓は爆発しそうな勢いで激しく鼓動しました。

 自分でも薄々そうではないかと思っていたことを、奥様方に言われてしまったのですから。

 何か怒られるのではないかと内心冷や冷やしました。


 そんな私の慌てぶりを見て、エリカ様は優しくこう言ってくれました。


「別にそんなに焦る必要はないのですよ。あなたが旦那様のことを愛してしまったとしても私たちは別に文句を言うつもりはありません。ですから、正直に言いなさい。ネイアさん、あなたは旦那様のことが好きなのですか?」

「……はい、好きです」

「そうですか。それは良かった」


 そう言うと、エリカ様は私のことをいつくしむような眼で優しく見つめてくれました。

 それを見た私はなんだか許された気持ちになり、ホッとした気分になりました。


 それからしばらくの間、双方の間を静寂が支配していましたが、やがてエリカ様の方から切り出してきます。


「それで、ネイアさん。確かめておきたいのですが、あなたには旦那様の子を産み育てて行きたいという意思はありますか?」

「はい、できればホルストさんの子供が欲しいです」

「しかし、旦那様は妻子のある身。そういう人の子供を産む場合、どういう手順を踏むか、ちゃんとかっていますね?奥さんに隠れて子供をつくる何てこと、私たちは絶対に許しませんので。あなたにはちゃんと旦那様の側室になってもらいますよ」

「側室ですか……それは構わないのですが。私なんかがなってもよろしいのですか?」

「ええ、あなたがその気ならば私たちは大歓迎ですよ」

「わかりました。それではよろしくお願いします」


 私はそう言いながらぺこりと頭を下げました。


「こちらこそよろしくね」


 すると三人とも私にぺこりと頭を下げてくれました。どうやら私のことを認めてくれたようです。


「さて、話はこれでまとまったようですし、後はネイアさんが旦那様を落とす作戦でも練りましょうか」

「作戦?ですか?」

「ええ、うちの旦那様、女の子の気持ちにとっても鈍いのです。ですから、ネイアさんが旦那様と恋仲になりたいというのなら作戦が必要ですよ」

「どうすればいいのでしょうか」

「そうですね。まず作戦の第一弾として、旦那様がネイアさんを意識するようにしましょうか。それには今日のパーティーを活用するのがよろしいでしょう」

「パーティーですか?」

「ええ、今日のパーティーにはダンス大会があると聞いています。ネイアさんは踊りの名手なのですから、それを利用するのが良いと思います」


 ということで、私はエリカ様たちと今日の作戦について話し合ったのでした。


★★★


 今日のネイアさんはなんだか雰囲気が違うな。

 ネイアさんと踊りながら俺はそんなことを思った。


 今目の前で俺と踊っているネイアさんはとてもきれいだ。

 いや、いつもとても美人さんなのだけど、それにもまして美人だ。

 いつの間にかダンス用の動きやすくて華やかな衣装に着替えている。


 後で聞いた話によると、これはエルフの国の何とかという踊り子団で踊り子をしていた時に着ていた衣装だそうだ。

 なるほど、エルフの国のちゃんとした衣装という訳か。

 道理できれいな訳である。


 それにネイアさんは普段ナチュラルメイク派であまり化粧をしていないのだが、今日はバッチリと決めている。

 その辺もいつもとは違う点だ。

 何というか……とても良いと思う。


 そうやって踊りながら俺がネイアさんのことをジロジロ見ていると、ネイアさんがクスリと笑う。


「まあ、ホルストさんったらそんなに私のことをじっと見てきて……やっぱりこういう格好、私らしくなくて変ですか?」

「いや、そんなことはないよ。とってもきれいだよ」

「そうですか。ありがとうございます。褒めていただけてとてもうれしいです」


 そう言いながら、ネイアさんはギュッと俺の手を握りしめるのだった。


 結局、その日俺は踊り終わるまでじっとネイアさんから視線を外せなかった。

 そして、この日以来、ネイアさんに会うたびにドキドキするようになったのであった。

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