第362話~獣人の国の王都ブレイブ~
とうとう獣人の国の王都ブレイブに到着した。
「うわー、町の中は獣人だらけですね」
町に入るなりヴィクトリアがそんな事を呟く。
ブレイブの町はウェストリバーの町に比べても獣人の比率が高かった。
まあ、獣人の国の首都なのだから当然と言えば当然だ。
それはともかく、町に入るや否や俺たちは目的地に向かって進んで行く。
最初の目的地。それはヒッグス商会のブレイブ支部だった。
★★★
「こんにちは~」
ヒッグス商会のブレイブ支部に着くなり、俺はそうやって挨拶をしながら中へと入って行く。
「いらっしゃいませ。ヒッグス商会ブレイブ支部へようこそ。本日はどういったご用件でしょうか」
中でそうやって俺たちを出迎えてくれたのは、ウサギ耳がかわいらしい女性の獣人さんだった。
「すみません。俺はホルストと申す者ですが、ヒッグス商会の本部からの荷物を預かってきました」
「ホルスト様?そういえば支配人が、『今度偉い人が荷物を届けてくれるから、来たら丁重にお迎えしてね』って、言ってましたね。確かその人の名前がホルスト様だったような」
この子は一体客の前で何で裏話を披露しているのだろうか。
ちょっと間抜けな子だなと思っていると。
「あっ、失礼しました。私ったら偉いお客様になんて失礼なことを!」
どうやら自分がまずいことを言っていたことに気がついたらしく、大慌てで謝って来た。
「いや、別に謝る必要はないよ。人間、誰でも手違いはあるだろうし。それよりも荷物を届けたいんだけれども」
「はい、すぐに倉庫係の者に連絡してきます」
受付の子はそう言いながら慌てて倉庫係を呼びに行ってくれたのだった。
★★★
受付でしばらく待っていると、倉庫係の人がやって来た。
倉庫係の子は力の強そうな猪の獣人だった。
「こちらになります」
そうやって丁寧な口調で俺たちを案内してくれる。
ちょっと態度がたどたどしい気がするが、多分受付のウサギの子に俺たちについて多少吹き込まれたからではないと思う。
それで、俺たちが案内されたのは商会の裏手にある倉庫だった。
倉庫の中には何人か獣人たちがいて、忙しく荷物の出し入れや出荷作業などに従事しているようだった。
「それでは、こちらの方へ荷物を置いていただけますか」
倉庫係の子がそうやって指示してきたのは倉庫の中央部の広いスペースだった。
「おい、ヴィクトリア」
「はい、ラジャーです」
俺に言われてヴィクトリアがそこに荷物を並べて行く。
今回の荷物は大型の魔道具が多かった。
高さ一メートルを超えるような物が次々と倉庫に並べられていく。
防御用の結界とか、夜間用の大型照明とかそういうのが多いと聞いている。
というのも、獣人の国では最近魔物が増え、その上窃盗団が跳梁跋扈沿ているという。その関係で少し治安が悪くなってきたみたいなので、その対策のための装備ということらしかった。
かなりの数があるので、王宮や軍などから大口の注文が入ったのだと想像できる。
そういえばここへ来る途中にも密猟団とやりあったし、物騒な世の中になったものだと思う。
そうこうしているうちに品物を出し終わり、倉庫係の子が出荷伝票を見ながら商品をチェックして行く。
三十分後。
「確かにこれで全部そろっていますね」
と、オッケーが出た。
ようやくこれで一つ仕事が終わったなとホッとしていると、背中から声をかけられた。
「品物の納入ご苦労様です。ホルスト様、初めまして。私、ここの支配人をしていますコッセルと申す者です」
★★★
コッセルさんはここブレイブのヒッグス商会の支配人だ。
犬の獣人で、茶色のフサフサした尻尾が目立つ人だ。
そんなコッセルさんは俺たちをヒッグス商会の偉い人が来た時に泊まるための館に案内してくれた。
「こちらですよ」
そう言って敷地内のこじんまりとした館に案内してくれた。
エルフの国でもそうだったが、それなりの規模のヒッグス商会の支部にはこのような屋敷を備えているということだった。
「皆様のお世話のことは会長から承っておりますので、こちらは自由にお使いください。それと、皆様の世話は寮監のソラ爺さんに任せておりますので、何か用件がありましたらお申し付けください」
それと、コッセルさんは俺たちの世話係としてソラさんという猫の獣人を紹介してくれた。
ソラさんは背が高いネコの獣人で、金色の目が良く光っていて、とてもカッコいい人だ。
これでもうすぐ定年退職だというのだから、とても信じられなかった。
「皆様、ご紹介預かりましたソラと申します。よろしくお願いします」
物腰も低くとても感じのいい人だ。
従業員の寮監をしているという話だから、職業柄、人とのコミュニケーション能力が高いのだと思う。
さて、こうして寝る所も確保したことだし、とりあえず荷物を置いて、のんびりしようと思う。
★★★
俺たちの荷物の整理は一時間ほどで終わった。
これでゆっくりできるかな。
そう思っていると。
「ゆっくり?旦那様、何を言っているのですか。ネイアさんの荷物を運んであげないとダメですよ」
そうだった。ネイアさんは仕事のためにここに越してきたのだった。
ゆっくりするより先にそっちの方を何とかしないといけなかった。
ということで、休憩するよりも先にネイアさんの荷物を何とかすることにする。
「ここがネイアさんの部屋ですよ」
ソラさんに案内してもらって、寮のネイアさんが使う予定の部屋に行く。
「ヴィクトリア」
「ラジャーです」
まずヴィクトリアが収納リングから家具などの大型の荷物を取り出す。
「リネット、もうちょっとそっちの角を持ってくれ」
「了解だよ」
そして、それを俺とリネットで並べて行く。
タンスに食器棚、テーブルと、ネイアさんの希望に沿って設置して行く。
そうやって家具を設置した後は。
「旦那様は、ここでご退場ください」
俺は部屋から追い出された。
この後は服などの細かい品物の整理をするということで、男である俺はお払い箱だ。
まあ、女性物の服や下着とか俺も触るのははばかられるので、これでいいと思う。
「ホルスターと銀、一緒に遊ぼうか」
「「うん」」
その間はホルスターと銀と遊んでやることにする。
庭へ行きパトリックを出してやると、その背中に乗せてやって庭をグルグルと回る。
「「久しぶりにパトリックと遊ぶのは楽しいなあ」」
二人ともパトリックと遊べて楽しいようで、キャッ、キャッと喜んでいる。
そんな感じでネイアさんの片づけが終わるまで俺たちは時間を潰したのだった。
夜になったら、ホッジスさんが俺たちの歓迎会を開いてくれるというのでそれに備えるために。
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