第360話~金色の犬歯を持つ狼との出会い、地脈の情報をもらう~

 地下牢の奥へ行くと、たくさんの動物たちが捕まっていた。

 もうちょっと具体的に言うと、動物たちは個体ごとに小さなケージに分けて入れられていた。

 皆、怖いのか一様に震えている。


 俺は密猟団のリーダーに問いただす。


「ここにいるので全部か?言っておくけど、もし俺たちに嘘をついたら……わかっているよな?」

「はい、これで全部で間違いありません」


 俺に問われたリーダーは酷く怯えた声でそう答えたので、間違いないと思う。

 必要なことを聞き出したのでもうこいつに用はない。


「それでは、ネイアさん頼みます」

「はい」


 リーダーはネイアさんに連行されて岩牢送りとなった。


 さて、それでは動物たちを解放するとするか。


★★★


「『神強化』」


 俺は自分に魔法をかけると一つ一つケージをぶっ壊していく。


「キュー、キュー」

「コーン、コーン」


 ケージから解放された動物たちは余程嬉しいのか、そこら中を走り回っている。


「気分はどうですか?体とかに怪我はないですか?」


 そんな動物たちに銀が話しかけて状況を聞いている。

 銀が優しい声で話しかけているので動物たちも安心したのか、次第に銀の周囲に集まって事情を話し始める。

 すると。


「ホルスト様、大変です!この子たち碌にご飯も食べさせてもらっていないようです。それに怪我をしている子もかなりいるようです」

「本当か!」


 銀の話によると、密猟団の奴ら動物をぞんざいに扱っていたいたらしく、飢えていたり怪我をしている動物もいるみたいだった。

 俺はすぐさまヴィクトリアに命令する。


「ヴィクトリア、餌と治療だ!」

「ラジャーです!『範囲上級治癒』」


 俺の指示ですぐにヴィクトリアが治癒魔法をかけ、収納リングから餌を取り出す。

 とは言っても動物が普段何を食べているかは知らないので、銀が動物に食べたい物を聞いてそれを出して食べさせてやっている。


 そんなこんなで一時間ほどで動物の救出と治療、餌やりを完了させた。


★★★


「もう捕まるんじゃないぞ」


 動物たちを牢から出した後はそう言いながら解放してやる。

 皆一様にペコリと俺たちに頭を下げてから平原の方へ走って逃げて行く。

 まあ、彼らの言葉が分かる銀がいるというのもあるのだろうが礼儀正しい連中だと思う。


 五分ほどで動物たちの姿が大体見えなくなった。


「ふむ。大体逃げたみたいだな。それじゃあ、俺たちも撤収の準備をすることにするか」


 ということで、撤収の準備を始めようとすると、銀が話しかけてきた。


「ホルスト様、お一人だけ残られていますよ。どうもお礼がしたいとのことです」


 そうやって銀が言うので、銀が指さす方を見ると、金色の犬歯を持つ一匹の狼がまだ残っていた。


「それでは私の能力を使って自動通訳しますので、話を聞いてあげてください」


 銀は動物と話せて、かつ自動通訳ができる。

 前は動物からの声を翻訳できるだけだったが今はこちらからの声も翻訳できるらしい。

 ただこの能力を使うととても疲れるらしいので、使うのはとっておきの時だけだ。


「私、この周囲のオオカミ族の長を務めておりますフェンと申します。この度は助けていただきありがとうございます」

「いや、別に大したことはしていないよ。ギルドからの依頼を受けただけだからな」

「いえ、いえ。理由はともあれ、助けていただいたことに変わりありません。ありがとうございました」


 そこまで言うと、フェンはペコリと頭を下げた。


「それで、是非ともお礼をしたいのですが、何か必要な物はないでしょうか」

「そうだな。実は俺たち獣人の国の地脈の封印に向かっているいるんだけど、何か情報はないかな」

「地脈の封印ですか。それでしたら、私の曽祖父を紹介しましょう」

「曾祖父?」

「ええ、曽祖父は軍神マールス様の神獣で、この辺りの守護をしております」

「まあ、あなたのひいおじい様はワタクシのお父様の神獣なのですか」


 と、ここでヴィクトリアが会話に首を突っ込んできた。

 そして、ヴィクトリアの『ワタクシのお父様』というセリフにフェンが非常に驚いている。


「え?ワタクシのお父様とは?」

「ああ、紹介しておくよ。こいつはヴィクトリア。俺の嫁だ。そんでもって一応女神で、マールス様の娘なんだ」

「ちょっと、ホルストさん一応って何ですか!本物の女神なのに!」


 俺の発言にヴィクトリアが何か言っているが話は続く。

 フェンが俺の話を聞いてまた驚く。


「まさか!こんな所にマールス様のお嬢様がいらっしゃるとは!もしや、曽祖父のこともご存じですか?」

「う~ん。わからないですね。何せお父様って、狼とか犬とか、ライオンとか。そういった統率力があって、強い動物をたくさん庭に置いてますからね。あなたのひいおじい様に会ったことがあるかはわからないですね」

「そうですか。……まあ、いいでしょう。地脈の件については曽祖父が詳しいと思うのでそっちに聞いてみてください。曽祖父は獣人の国の王都のさらに西にあるロッキード山脈にいると思いますので、ぜひ訪ねてみてください」

「ああ、そうさせてもらうよ」

「それとこれを紹介状代わりにお持ちください」


 そう言うとフェンは自分の毛を一本俺にくれた。


「これには私の臭いが付いていますので、曽祖父に私に紹介されたと言っていただければ曽祖父も協力してくれると思いますよ」

「ああ、ありがとう。そうさせてもらうよ」


 これでフェンとの会話は終わりだった。


「お世話になりました」


 最後にフェンがそう言って去って行くと、俺たちも撤収を開始したのだった。


★★★


「いやー、さすがですな」


 ウェストリバーの町に凱旋するとホッジスさんにべた褒めされた。


 さすがに俺たちだけで密猟団を連行するのは面倒くさかったので、俺だけ町へ行ってギルドや警備隊に協力を頼んだ。


「おら!きびきび歩け!」


 そうやって警備隊の連中に怒鳴られながら護送される密猟団の奴らは、死んだ魚のような顔をしていて、見ていて痛快だった。

 本当、動物の命をもてあそびやがって!地獄へ堕ちろ!

 そう言ってやりたかった。


 そうやって密猟団の引き渡しが完了した後はホッジスさんに会い、前述のようにべた褒めされたのだった。


「いやあ、大したことはないですよ」

「そう謙遜なさることはありますまい。さすがは何十万もの魔物たちを倒されたお方だ。密猟団など物の数ではなかったようですね」

「ははは、そんなに褒めていただいて恐縮です」

「それで、この後何ですが。実は皆さんに感謝の意を表すために簡単な祝勝会を用意しておりますので参加していただけないでしょうか」

「そういうことでしたら、参加させてもらいます」


 ということで、俺たちは祝勝会に参加することになった。

 まあ、祝勝会と言っても、祝勝会を名目にして町の有力者と俺たちを会わせたいという感じの会だった。


「どうも、私この町の市長をしております……」

「私は、この町で貿易商をやっております……」


 と、町の有力者たちが次々に挨拶に来るのだった。

 まあ、俺たちもすっかり名が売れてしまったからこういうのも仕方がないとは思う。

 とは言っても祝勝会自体はちゃんとしたもので、料理なども豪華だった。


「うわー、ごちそうですね。これは食べ甲斐がありますね」


 と、ヴィクトリアも嬉しそうにしていたしね。

 そんな中、俺は一つの噂を聞くのだった。


「この国では今大規模な窃盗団が跳梁跋扈しておりまして、国も頭を悩ませているのですよ。それで、先立ってホルスト殿が捕えた密猟団。あれもその窃盗団の傘下に過ぎないのだそうですよ」

「へえ、そうなんですね」


 と、その話を聞いた時は軽く受け流したのだが、後でその窃盗団が俺たちにかかわって来るとは、この時の俺は知らなかった。

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