閑話休題53~憎きデリックとルッツ、鉱山から脱出する~

 ホルストたちの向かう獣人の国には鉱山が多く、産出された鉱物が多く輸出されている。


 そして、鉱山から鉱物を採掘するためには多くの鉱山労働者が必要である。

 まあ、普通に雇われて働いている鉱山労働者も多いのではあるが、中には犯罪を犯したり、借金を返せなかったばかりに奴隷労働者として売られてきた者も存在する。


 そんな獣人の国のとある鉱山の中にはこんな連中も存在する。


「おい!477番。サボっていつまでも座り込んでいるんじゃねえよ!ちゃんと働け!さもないと鞭打ちの刑だぞ!」

「ヒイイイイ……それだけは勘弁してください」

「478番!お前鉱石を掘るふりをして壁をスコップでこすっているだけじゃないか!真面目にやらないと棒でぶっ叩くぞ!」

「ご、ごめんなさい。許してください」

「うるせえ!お前らまとめて懲罰だああああ!」

「「ぎゃああああ」」


 今もそうやって仕事をサボっていた奴隷労働者二人が奴隷頭に怒鳴られて、鞭の音が鉱山中に響き渡っていた。


 なお477番、478番というのはここでの二人の名称である。

 ここの鉱山、というか獣人の国の鉱山では奴隷労働者は名前の代わりに番号で呼ばれて管理されている場合が多かった。


 ちなみにシャバにいた頃、477番はデリック・アップ、478番はルッツ・ダウンという名前で呼ばれていた。


 読者の皆様はこの名前に聞き覚えがあることと思う。

 そう。こいつらはかつてホルストに酷いいじめを行っていた連中であり、さらにそれだけにとどまらずエリカとヴィクトリアを誘拐・監禁までしたあの二人である。


 その後、二人の悪事がエリカの父親にばれて、二人は鉱山奴隷として売られて行き、現在ここで奴隷としてこき使われているというわけだった。


★★★


 奴隷の朝は早い。

 夜が明けるとすぐに仕事の開始だ。


「おらああああ!朝だぞ!起きてきびきび働け!」


 奴隷頭のそんな怒号でたたき起こされた後、朝食をとることもなく仕事の開始だ。

 当然デリックとルッツも起きるなり仕事に向かう。


 ちなみに今の二人の状況を見ると悲惨の一言に尽きた。

 かつて長かったデリックの金髪とルッツの銀髪は不衛生という理由で丸坊主にされ、昔ふっくらとして余裕があるように見えていた体格は、ガリガリに痩せたせいで骨と皮だけになっていた。

 その上、奴隷頭に四六時中殴られるせいで全身あざと傷だらけだった。


 そんな状況の二人だが、どれだけ悲惨な状況だからといって奴隷頭は容赦などしてくれない。

 サボったら即座に罰が待っている。


 だから二人は文句を言わずに仕事をする。


「エイサ、ホイサ」

「エッホ、エッホ」


 そうやって掛け声をかけながら一心不乱に鉱床を掘って行く。

 一時間ほど頑張って掘ると、結構な量の金属交じりの土が採れる。


「これ持って行くぞ!」


 それを別の奴隷が回収して行く。

 これを精錬所へ持って行って金属を抽出するのだ。


「さて、それじゃあ次だな」

「ああ、そうだな」


 自分たちが採掘した土が運ばれて行くのを確認した二人は再び採掘作業を開始するのであった。

 この作業をひたすら繰り返すのが鉱山での仕事だった。


 そしてこの作業は昼前まで続く。

 昼前になると朝食と昼食を兼ねた食事の時間になるからだ。


 食事の時間。

 それは睡眠とともに奴隷にとって心と体を休めることのできる数少ない時間だった。


「「いただきます」」


 目の前に食事が置かれるとともにデリックとルッツの二人は無我夢中で食事を始める。


 とは言っても奴隷の食事は少ない。

 パンが一個に、ジャガイモが入っただけの塩味のスープ。豆を煮たもの。

 これだけだ。とても貧しい食事だった。


 たまに奴隷の士気向上のため干し肉や甘いものが出ることもあるけれども、一か月に一度くらいの頻度だった。


 そしてそんな食事を二人はあっという間に平らげてしまう。

 別にそんなに焦らなくてもいいとは思うのだが、この奴隷労働者の集団の中では食べ物の略奪など日常茶飯事なので、急いで食べる必要があるのだった。


 そうやって食事をした後は時間まで寝る。


「ぐがー、ぐごー」

「すぴー、すぴー」


 本当にひたすら寝る。

 こうしないと就業時間まで体力が持たないからだ。


 それで休憩時間が終わった後はまた仕事だ。

 再び二人は鉱床を掘り続ける。

 これが終業時間まで続くのだった。


 そして仕事が終わったら晩飯を食べて寝る。

 ここでの生活はこの暮らしの繰り返しだった。


★★★


 その晩、二人は寝床の中でこんな相談をしていた。


「なあ、デリック」

「何だ、ルッツ」

「ここでの生活にも大分嫌気がさしてきたな」

「ああ、そうだな」

「こんな所で後二十年以上も働かなきゃならないなんて、とても耐えられないな」


 二人は借金奴隷ということでここへ送られてきていて、三十年という年季奉公をこなすまで帰ることができなかった。

 こいつらがここへ来てから数年しか経っていないから、まだ二十数年ここで働く必要があったのだ。


「ということで、この前の話に乗らないか?」

「ああ、奴隷の一人が話していた話だな」

「そうだ。例の盗賊団の話だ。何でも俺たちは魔法が使えるから厚遇してくれるらしいぞ」


 盗賊団。

 他人から金品のみならず時には命まで奪うという極悪集団だ。

 二人はそんな集団から加入しないかという勧誘を受けていた。


「ああ、いいんじゃないか。ここでこのまま朽ち果てるよりはずっといいと思う」

「俺も賛成だ。まだ若いのにこのまま何もできずにここで老いるだけなんてまっぴらごめんだ」


 しかもこの二人、盗賊団に入る気満々だった。


 そこには何としてもこの状況から逃げ出したいという自分勝手な欲求しかなく、自分の犯した罪への反省などみじんもなく、かつて有していたいたヒッグス一族であるというプライドさえも捨て去っていた。

 平たく言えば完全なクズの所業であった。


「それじゃあ、明日その奴隷と話をつけるわ」

「おお、頼むわ」


 こうして二人は盗賊団へ加入することにしたのであるが、二人は知らなかった。


 このような二人の所業を天が許すはずがないということを!


 何せ二人は神々の王である主神クリントの孫娘であるヴィクトリアを攫ったのだから。

 それを反省もせずに自分の好き勝手に生きようとする。

 そんなことが許されるはずがなかったのだ。

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