第356話~獣人の国への旅立ち~

 エリカのお父さんの実家を訪問してから数日後。


「それじゃあ、出発するぞ」

「「「はい」」」


 俺たちは獣人の国へ向かって出発した。

 前日までにバッチリ準備していたので皆服装もバッチリきめて気合十分だ。


「よし!これでいいな」


 最後に家の鍵をかけてから出発する。

 留守中の家の管理は、いつもならエリカの実家の別荘の人たちに任せるところなのだが、今回に限っては。


「お兄様。どうか私たちを見捨てないでください」


 そう妹のやつが土下座して頼んできたので、任せることにした。

 妹のパーティー、最近はギルドの仕事だけでも大分稼げているようだが、それでもうちのパトリックの世話のバイトはおいしい仕事らしい。


「もし馬の世話の仕事がなくなったら、私たち生活に困るかもしれないの」


 そう言いながら必死に土下座してきたので、仕方なく家の管理の仕事を任せることにしたのだった。


 妹のことはどうでもいいが、他の三人の子たちとはうちの嫁さんたちも気に入っているようだから放っておいて困らせるのはかわいそうなので、そういう風にしておいた。


 なお、報酬は経費込みで一か月ごとに四人の口座に振り込まれるようにしておいた。

 別に一括前払いにしておいてもよかったのだが、獣人の国にいつまでいるか不透明だったし、妹以外の子はともかく、妹のやつにいきなり大金を渡すと無駄遣いして浪費しそうだからそれは止めておいた。


「いいか!うちの嫁さんたちはとてもきれい好きだからな。掃除は三日に一度は必ずやるんだぞ。後、庭の手入れも欠かさずやれよ。春になったら嫁さんたちが花を植えて楽しむ予定なんだからな。それとわからないことがあったら、エリカの家の別荘の使用人さんたちに聞け」

「はい、お任せください。頑張ります!」


 最後にそれだけ言うと、家の鍵を渡しておいた。

 妹にも言った通り、一応エリカの別荘の使用人さんにも頼んでおいたので大丈夫だと思う。


 ちなみに、今回のことで妹のやつがノースフォートレスの町にいることがエリカのお父さんや俺のオヤジにも知れ渡ってしまった。

 いや、別に黙っておくつもりは無く、ただ単に言い出す機会がなかったから言わなかっただけの話なんだけどね。


 ついでにエリカのお父さんには妹の所業については報告しており、さらにはお父さんから俺のオヤジにも連絡が行ったようで、二人とも頭を抱えているらしかった。

 そのうち二人から妹に対して何らかのリアクションがあるかもしれないが、どうせなら二人には妹が二度と俺に迷惑が掛からないように対処してもらいたいと思う。


 ただそうなると妹のチームの子たちには迷惑がかかるかもしれないので、その場合は三人のことは俺たちがフォローしようと思っている。


 さて、そんな感じで留守中の手当てもしっかりしたことだし、獣人の国へ行こうと思う。


★★★


 と、その前に寄り道するところがある。


「『空間操作』」


 俺は魔法で一気にヒッグスタウンへと移動する。

 そして、そのままヒッグス商会の寮へと移動する。

 そこで待っていたのは……。


「皆様、この度はよろしくお願いします」


 ネイアさんだった。

 結局あの後話し合った結果。


「『旅は道連れ、世は情け』とか言いますからね」

「まあ、旅は人数が多い方が楽しいからね」


 と、ヴィクトリアの意見に他の嫁たちも賛成したので一緒に行くことになったのだった。


「じゃあ、乗ってください」

「はい」


 そうやってネイアさんを乗せた後、俺は再びパトリックを走らせ目的地へと向かうのだった。


★★★


 リネットだ。


 今アタシたちは西の獣人の国へ向けて旅をしている。

 ヒッグスタウンに寄り道した後は、再びホルスト君の魔法でノースフォートレスの近くまで戻り、そこから獣人の国へと向かう街道へと進んで行く。


 この街道は以前に魔物のスタンピードが起こってすさまじい被害が出た場所であるが、数か月ほどで大分復興し、街道の施設などもかなりの部分使用可能になっているようだ。

 ただ被害を受けたのは街道や街道沿いの施設だけでなく人的被害もかなりのものだったので、完全に復興するにはまだまだ時間がかかると思う。


 それを考えると、神聖同盟の人たちって自分の目的の為なら手段を選ばない極悪な集団だというのがよく分かる。


 アタシたちはそんな街道を順調に進んで行く。


「結構行き交う人が多いね」

「ああ、そうだな」


 アタシが隣に座ってパトリックを操っているホルスト君に話しかけるとそんな返事が返ってくる。


 復興中の街道とはいえ王国ではメインで使われている街道だ。

 商人や一旗揚げようとする冒険者など、人の行き来は激しい。

 馬車を慎重に進めないとすれ違いざまにぶつかりそうになるくらいには混雑していた。


 混雑していたが、そういう光景を見るのって意外と楽しいと思う。

 人間活気のある景色を見ると、何だか興奮してきて自分まで楽しくなるものだからだ。

 現にアタシの横にいるホルスト君もこの状況を見るのがうれしいらしく。


「賑やかな街道を見るのって楽しいよな」


 とか、笑いながら言ったりしている。

 そんなホルスト君の横顔を見ていると、ホルスト君って本当にいい笑顔をするんだなと思えてきて、改めて惚れ直すのだった。


 惚れ直したアタシはホルスト君に奇襲攻撃を仕掛ける。


「ホルスト君、好きだよ」


 そう言いながら、ホルスト君のほっぺにそっとキスをする。


「え?」


 急にキスをされてホルスト君が焦っている。

 そんな所もかわいかった。

 アタシはそんなホルスト君の手を取り、こうささやく。


「ホルスト君。ずっと一緒だよ」


 その言葉とともにアタシはホルスト君に寄り添い、交代の時間が来るまでずっと寄り添ったままでいたのだった。


★★★


 ヴィクトリアです。


 今、馬車の外ではリネットさんがホルストさんと何やらイチャイチャしているようです。

 ちらっと覗き穴から外の様子を見ると、そういうのが見えました。


 羨ましい気もしますが、今はリネットさんの番なのでワタクシの番が来るまではそういうのは我慢するつもりです。

 その人の順番の時は決して邪魔をしない。

 ワタクシたち三人の中ではそういうルールになっていますので。


 ということで、今はエリカさんやネイアさんと雑談をして楽しむことにします。


 ちなみにホルスター君と銀ちゃんは馬車の窓から街道の景色を見ることに夢中になっています。


「銀姉ちゃん。たくさんお馬さんや人が通っているね」

「そうだね。ホルスターちゃん」


 と、二人だけの世界にいるみたいなのでそっとしておくことにします。


「それにしてもネイアさん、髪の毛が伸びましたね」

「ふふふ、そうですか?」


 ワタクシに髪の毛のことを指摘されたネイアさんが嬉しそうに笑います。

 ネイアさんの髪はしばらく会わないうちに結構伸びていました。

 前は耳が出るくらいのショートヘアだったのですが、今は耳が隠れるくらいの長さのショートヘアになっていました。


 まあ、隠れると言ってもエルフのネイアさんは長耳なのでどうしても少し耳が見えてしまいますけど。


 それはともかく、最初に出会った時のネイアさんの雰囲気に随分と戻っている感じです。


「どういう心境の変化何ですか?前は髪の毛が短い方が楽だとか言ってましたが」

「いや、私もこの先色々な取引先の肩ともお話しする機会が増えるでしょうし、でしたら髪の毛が長い方が相手の印象もいいかなと思って伸ばしています」

「ああ、そういうことですか。確かにそっちの方がネイアさんかわいいですもんね。ワタクシもその方がいいと思いますよ」

「褒めていただきありがとうございます」


 ワタクシに褒められたネイアさんはとてもうれしそうでした。

 と、まあこんな感じでみんなで楽しく過ごしながらワタクシたちは獣人の国へ向かうのでした。


 獣人の国。一体どんな所なのでしょうか。

 今から楽しみです。

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