第355話~エリカの両親への挨拶 そして、ネイア、再び~

 獣人の国へ行くための買い出しを終えた後、俺たちはエリカの両親の所へ挨拶へ行った。


「『空間操作』」


 王都を出た後、魔法でヒッグスタウンのエリカの実家へと移動する。


「これはようこそいらっしゃいました」


 屋敷の門へ行くと、いつものように屋敷の門番が俺たちを歓迎してくれ、すぐに屋敷の中へと連絡してくれる。


「ホルスト様、お嬢様。こちらへどうぞ」


 するとすぐに屋敷の執事さんが出てきて、屋敷の奥へと案内してくれる。

 通された先は居間だった。

 居間ではエリカのお父さんとお母さんが待っていて、俺たちをニコニコ顔で出迎えてくれる。


「ホルスター君。ホルスター君はおばあ様と遊びましょうか」

「うん!」


 お母さんはホルスターと遊びたかったらしく、居間に行くなりホルスターと銀を連れて行く。

 それにヴィクトリアとリネットもついて行き、五人で一緒に遊び始めた。

 俺とエリカでお父さんにこれからのことは報告するから、それが終わるまで自由にしていろとあらかじめ言っておいたからだと思う。


「ホルスター君、今日は何して遊ぶの?」

「今日はババ抜きがいいな」


 どうやら今日はババ抜きをして遊ぶようだ。


「あ、ヴィクトリアお姉ちゃん、ババ引いちゃったね」

「くううう。次こそは!」


 ヴィクトリアのくやしそうな声を聞く限りでは楽しくやっているみたいなのでよしとする。

 そうやってみんなが楽しくやっている一方で、俺とエリカはお父さんへ報告をする。


「ほう、今度は獣人の国へ行くのかい?」

「はい、そのつもりで準備しています」

「それで今回はホルスターも一緒に旅に連れて行くつもりだと」

「ええ、お父様。そのつもりです。ホルスターにはできるだけ色々な場所へ連れて行って見識を広げてもらいたいと思っているのです」

「ふむ、まあ、それはわかるが、子供に馬車の旅はしんどくないかね」

「その点は問題ないです。旦那様がまた馬車を改造しまして」

「改造?」

「ええ、空間を広げる魔法を使いまして、元々魔法で広げていたのをさらに広げました。そのおかげで馬車の中、見た目より大分広くなっているんですよ」

「ほほう。ホルスト君の魔法でそんなことができるのかい?それはすごいな」

「はい。おかげでうちの馬車の中は家の中にいるのと変わらないように過ごせますよ」

「そうなのか?それは一度見てみたいな」

「何でしたら、今から見てみますか?」

「うん、いいね」


 ということで、お父さんがうちの馬車を見学することになったのだった。


★★★


「ほう、これはかなり広いね」


 エリカのお父さんがうちの馬車を見て感心している。

 今回、俺は馬車の中の空間を魔法でさらに広げたのだった。

 熟練度の上がった俺の『空間操作』の魔法なら簡単なことだった。


「あら、本当に広いわね」


 急遽ついてきたエリカのお母さんも感心している。

 あちこちべたべた触って、しきりに何やら頷いている。

 あげくには床に寝ころんで。


「これなら体を十分に伸ばせるわね」


 と、実際に床でごぞごぞし始める。

 こういうお母さんの姿を見ていると、夜俺に引っ付いてくるエリカに似ているような気がしてなんとなくかわいかった。


 それで、どうやらお母さんは俺の馬車の広さを気に入ったらしく、こんなことを言い始めた。


「ねえ、ホルスト君。うちの馬車もこんな風に中を広くできないかしら。ほら、もう少ししたらユリウスのところにも子供が生まれるでしょう?それでうちの馬車にその子とホルスター、銀ちゃんの三人を乗せたら少し狭いかなって思うの。だからお願いできないかしら」


 どうやらお母さんは孫二人と銀と一緒に馬車に乗りたいらしかった。

 孫はともかく銀も人数に入っているのは、お母さんもちょくちょく遊びに来る銀のことが気に入っているからだと思う。


 それはともかくお母さんの頼みなら断るという選択肢はない。


「いいですよ。ただし、今は時間がないので獣人の国から帰って来てからでも大丈夫ですか?」

「ええ、構わないわ。今すぐに子供が生まれるわけでもないし」


 ということで話はまとまり、獣人の国から帰って来てからエリカのお父さんの馬車の改造をすることになったのであった。


★★★


 その後もお父さんたちと色々話をして、ご飯も食べさせてもらった後、家に帰ることにした。


「それではまた来ます」

「ああ、いつでも来なさい」


 そうやってお父さんたちと別れて帰ろうとして馬車に乗り、屋敷の門の所まで行く。

 すると。


「これはホルスト様にエリカ様。お久しぶりです」

「ああ、これはネイアさん、お久しぶりですね」

「元気にしていましたか」


 俺たちは門の所で久しぶりにネイアさんに出会ったのあった。


★★★


 久しぶりに再会したというのにすぐに分かれるというのも何だったので、ちょっとだけ寄り道してお茶でもしていくことになった。


 カフェに入って席に着いて注文した後、皆で話し始める。

 まず口を開いたのはエリカだった。


「それで、ネイアさんは屋敷で何をしていたのですか?」

「研修で習ったことのテストですね。研修で習った帳簿作成や書類の作成などのテストをしていました」

「テストですか……それはすごいですね。うちの会社ではテストを受けるためには研修で高い評価を受けなければならないはず。それが中々難しくて、皆さん何度も研修をやり直すことになって、テストに進むだけでも何年もかかる人もいるとか」

「へえ、そうなんだ」


 エリカの話を聞いてリネットがウンウン頷いている。

 とても感心したような顔をしているので、自分にはとてもできそうにないなとか思っているのだと思う。


「それをたった数か月で受けることができるとか本当に頑張りましたね。それで、結果はどうでしたか?」

「はい、何とか合格をいただくことができました」

「それはおめでとうございます。こんなに早く合格できるとか。よく頑張りましたね。これで、世界中の国へ派遣されるという夢が叶いそうですね」

「ええ、おかげさまで夢が叶いそうです。これも私を推薦してくれたエリカ様のおかげです」

「いえ、私はただあなたに機会を与えただけの話です。頑張ったのはあなたなのですから、もっと堂々としていなさい」

「お褒めいただきありがとうございます」


 エリカに褒められてネイアさんが嬉しそうにしている。


 というか、俺もネイアさんの夢が叶いそうでうれしい。

 何せネイアさん、あれほど世界中に行ってみたいと言っていたからな。

 それが叶いそうだというのなら心から応援してあげたかった。


「それで、ネイアさん。赴任先とかそういう話は出ているのですか?」

「はい。一応は出ていますね。手始めに西の獣人の国へ赴任してみないか。テスト結果を聞いた後、上司にそう打診されました」

「獣人の国ですか。それはすごい偶然ですね」

「偶然?」

「ええ、今度私たちも獣人の国へ向かう予定なのですよ」

「それは……本当に偶然ですね」


 本当にすごい偶然だなと思う。

 エリカの実家のやっている会社は世界中で魔道具を販売している。

 そんな中でどこに配属されるか、選択肢があり過ぎて中々俺たちと同じ所へ行くとかないと思う。


 本当に偶然とは恐ろしいものだと思う。


 と、俺がそんなことを思っていると、突然ヴィクトリアがこんなことを言い始めた。


「ということは、ネイアさんも間もなく獣人の国へ向けて旅立つということですか」

「ええ、数日以内には」

「だったら、ワタクシたちと一緒に行きませんか?『旅は道ずれ、世は情け』という言葉もあることですし」

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