第351話~ダンジョンからの帰還~

「ホルスト殿、よく無事に戻って来てくれた」


 神聖同盟の生物研究所をぶっ潰した後、ダンジョンから出てきた俺たちをダンジョン警戒部隊の指揮を執っていたダンパさんがそうやって出迎えてくれた。


「ええ、何とか無事に帰ってこられました」

「そうか。さすがはホルスト殿だ」

「それで、中の様子なのですが」

「まあ、それについてはあっちで聞こうか?ホルスト殿たちもダンジョン探索で疲れているようだから、一休みした後で」

「そうしてくれると助かります」


 ということで、俺たちはダンパさんが用意してくれたテントで一休みしたのち、ダンパさんに事の顛末を話すことになったのであった。


★★★


「結論から言いますと、ダンジョンの最奥、第五層にキメラの研究製造設備がありました」


 一休みして体力を回復した俺たちは、ダンジョンで起こったことをダンパさんに話し始めるのだった。

 いや、今ダンパさんに話すとは言ったが話すのはダンパさんだけではない。


「よろしくお願いします」


 ノースフォートレスの町を警備する軍の警備隊の指揮官も俺たちの話を聞きに来ていた。

 まあ、今回俺たちが上手くやらなかったらこの周囲の町や村が壊滅していた可能性もあったのだから、話を聞きに来たのも当然ではあった。


「ほう。ダンジョンの中にそんなものがあったのかい?」

「ええ、ありましたね。奴らはそこで大量のキメラを製造しようとしていましたね」

「そんなにたくさんいたのかい?」

「ええ、あいつらは大量のキメラを使って世界中を大混乱させるとか言っていたので、たくさん作っていたみたいです」

「それで、キメラはどうなったんだい」

「全部俺たちが始末しました。ただ」

「ただ?」

「ただ、あいつら俺たちがキメラを始末すると切り札に隠していた上位キメラとかいうのを出してきまして」

「上位キメラ?」


 上位キメラと聞いてダンパさんが怪訝そうな顔をする。

 それはそうだ。キメラだけでも危険なのに、それに『上位』とつく存在が現れたのだから。


「ええ、キメラの上位種として製造されていたみたいです。ただし、まだ未完成品だったみたいで、出てくるなり暴れ始めて味方であるはずの研究員を殺し始めるわ、施設を破壊始めるわで大変でしたね」

「その上位キメラはどうなったんだい?」

「もちろん、俺たちが跡形もなく粉砕しました。それで、上位キメラを倒したらそこの所長も観念したらしく服毒自殺をしまして、死体は残っていますが研究所の方に置いてきました、どうせこの後調査すると思って」

「ああ、もちろんそのつもりだよ」

「それと自殺する時にその所長のやつ、研究所に火を放ちまして。消し止めはしたのですが、研究資料がかなり燃えてしまいましたね」

「そうなのか」

「はい。火を消したり、火災で空気が薄くなったので慌てて魔法で空気を作ったりと大変でした」


 本当大変だった。

 エリカが『水球生成』の魔法を使い、ヴィクトリアが水の精霊を呼び出したりと大変だった。

 ちなみに、空気はヴィクトリアの持つ『世界創造補助ボックス』を使って作った。

 これって使用用途があるのかなとずっと思っていたが、こういう使い方もあるんだなと知った。


「そうか。それは大変だったね」

「はい。まあ、報告できることは以上ですね」


 四魔獣については報告しなかった。

 さすがにあれのことが知られると、世界中がパニックになると思ったからだ。


 ちなみに、四魔獣のクローンの死体と四魔獣のクローン用の大型研究設備は、俺の魔法『異世界への追放』で跡形もなく処分しておいた。

 あんな物をこの世に残しておくわけにはいかないので、処分させてもらっている。


 ともあれ、これで報告は終わりだ。


「ご苦労様だったね」


 最後にダンパさんにそうねぎらいの言葉をかけてもらった後、俺たちはゆっくりと休むのであった。


★★★


 それから数日は忙しかった。

 というのも例の研究所の調査に向かう調査団の調査について行ったからだ。


「あのダンジョンで、ドラゴンやブラッドリー・エンパイヤー・スライムとかいう魔物に遭遇しました」


 あのダンジョンで出会った魔物についてそう報告して置いたら、さすがに危険だと思ったのだろう、「是非一緒に行ってくれませんか」とお願いされたのでついて行ったのだ。

 道中、何匹かドラゴンは現れたのだがブラッドリー・エンパイヤー・スライムは現れなかった。

 スライムの王者を名乗るだけはあって、珍しいのだと思う。


 大して強いやつでもなかったし、商業ギルドの支配人のマットさんに素材の売却について聞いたら。


「是非売ってください」


 との返事をもらっていたので、俺的にはまた出てこないかなと期待してたので残念だった。


「あんな奴、二度と会いたくなかったので、良かったです」


 まあ、スライムが苦手なヴィクトリアは心底ほっとしていたけどね。


 それはともかく、肝心の調査なのだが、これは順調に進んだ。


 調査は王国の宮廷魔術師とヒッグス家の魔術師たちの共同で行われた。

 まあ、宮廷魔術師と言ってもヒッグス一族出身の者が多いので、実質ヒッグス家が行ったようなものだ。

 皆で残った施設や研究資料などを回収して行く。


「ほほう、これは……」

「こっちの資料は私の研究に役立ちそうです」


 と、熱心に調査しているので何やら収穫があったようである。

 そんな感じで調査は順調に進んで行き、3日ほどで調査は終了した。


 後に残ったのは魔術師たちによって一切合切の物を持ち去られて空っぽになった研究所跡地だけであった。


★★★


 さて、ダンジョンでの騒ぎもひと段落したことだし、しばらくは家でのんびりしようと思う。


「パパ、パパ。肩車してよ」

「よし!パパに任せろ!」


 すでにホルスターと銀はエリカのお父さんの所から引き取ってきているので、すでに家の中は賑やかになっている。

 俺はこうやってホルスターと遊んでやっているし。


「銀ちゃん。ジャガイモの皮をむくときは、包丁の方を固定してジャガイモの方を動かすとうまく行きますよ」

「はい、頑張ります」


 銀は嫁たちのご飯の支度を手伝っていた。

 こうやって家族で楽しんでいる様子を見ると、家に帰ってきたという実感がわいてきてホッとするのだった。


 そうやってのんびりしていると、夕方ごろになって。


「こんにちは~。パトリックちゃんの世話に来ました~」


 妹とその仲間たちがパトリックの世話にやって来た。


「良く来てくれましたね。それではお願いしますね」


 エリカが妹たちに応対し、妹たちがパトリックの世話を始める。


「マーガレットお姉ちゃん、僕たち久しぶりにパトリックに乗りたいな」


 パトリックの世話が始まると早速ホルスターと銀が妹たちの方へ行き、パトリックに乗りたいとせがんでいる。


「ああ、任せて」


 マーガレットは、そんな二人をパトリックの背に乗せ、運動させている。

 こういう風に遊んでもらえると親としてはとても助かるので、エリカも相当ありがたがっている。


 そうこうしている間に馬房の清掃やえさの交換も終わったようなので、今日の妹たちの仕事も終了である。


「ほら、今日の給料の銀貨二枚だ」

「うん、ありがとう」


 俺が妹に給料を渡すと妹は嬉しそうにそれを受け取る。


「それじゃあ、気を付けて帰れよ」


 そして、そう言いながら妹たちを贈ろうとしたとき、


「はい」


と、妹のやつがもう一度手を出してきた。


 何のつもりだろうか。

 訳の分からない俺がそう考え反応できずにいると、妹のやつはこう催促してくるのだった。


「ほら。この前ダンジョンで約束した報酬の金貨一枚まだもらっていないんですけど」


 ああ、そういえばそんな約束をしていたなあ。

 すっかりそのことを忘れていた俺は、妹の言葉を受けてそのことをようやく思い出したのだった。


「もしかして、忘れてた、何てことはないよね?」


 俺の顔を見て俺の内心を悟ったであろう妹のやつがそうツッコミを入れてきたが、忘れていたなんて恥ずかしいことを正直にこの妹に言うのは嫌だった。


 ということで、誤魔化すことにする。


「そんなわけがないだろうが。俺はちゃんと約束は守る男だからな。ちょっと渡すタイミングがなかっただけの話だ」

「本当に~?」

「本当だ。それよりもこれが約束の金貨一枚だ」


 俺の反論になおも妹のやつは追及をかけてきたが、俺は多少強引に話を進め、妹の手に金貨を握らせてやった。


「わーい、金貨だ~」


 金貨を受け取った妹のやつは俺に皮肉を言っていたことも忘れて狂喜乱舞している。

 金貨を握りしめて頬ですりすりして悦に浸っている。


 おい、おい。お前、いい年になって人前でそんなことをするなよ。俺の方が恥ずかしいわ。


 妹のその醜態を見て俺は何とかしようと思ったが、その前に俺のエリカの方が先に動いた。


「レイラさん、いい加減にしなさい!」


 そう言いながら妹のやつを家の奥へと引きずり込み。


「あなたという人は、今日という今日は許しませんよ」

「ごめんなさい。もうしないから許してください」


 妹のやつに大分きつい説教をしたようだった。

 何せ出てきた時には、妹のやつ半べそ状態だったからな。


 まあ、妹もこりないやつだからこの位で態度を改めるとも思えないが、それでも少しはまともになってほしいものである。

 俺としてもいつまでもこいつに迷惑をかけられっぱなしでは困るからな。

 というか、頼むから改心してくれ。


 俺は心からそう願うのだった。

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