第349話~神聖同盟の秘密兵器を叩き潰せ!前編 VS.上位キメラ~

「構わん!早く上位キメラを出すのだ!」

「はい!」


 その所長の命令を受け研究員の一人が奥へと駆け込んでいく。

 そして、数秒後。


「ギャーーーーーー」


 中へ入って行った研究員の悲鳴が周囲にこだまする。

 それと同時に、のっしのっしと巨大な足音が奥から聞こえてくる。


「グオオオオオ」


 そして、中から普通のキメラの数倍はあろうかという巨大キメラが出現するのだった。


★★★


「ガハハハ。さあ、上位キメラよ。目の前の侵入者どもを始末するのだ!」


 上位キメラが現れたのを確認した所長は、高笑いをしながら上位キメラにそう命令する。

 だが。


「ぎゃあああ」


 上位キメラは俺たちを襲うどころか研究員を襲い、研究所の施設を破壊し始めた。


 この上位キメラとやら力があるが理性はないように見える。

 さっき響いてきた研究員の悲鳴も、上位キメラを起動させたはよいが、上位キメラが言うことを聞かず殺されたのだろうと思う。

 調整ができていないとか言っていたからそういうことなのだと思う。


 そうやって研究員や施設が被害を受ける中、所長は一目散に奥へと逃げ込む。


「さあ!上位キメラよ!やってしまえ!」


 そして安全な奥からそうやって上位キメラをあおり始めた。

 部下を見捨てた上、言うことを聞かない上位キメラに命令するふりまでしてまさに人間の屑だな。そう思った。


 とはいえ、今は所長よりも上位キメラを何とかせねばならない。


「行くぞ!」


 俺はクリーガを抜き、上位キメラに向かって行く。


★★★


 上位キメラは普通のキメラより凶悪そうな外見をしていた。

 山羊の頭部はそのままだが、体の大きさは数倍になっている。

 背中に生えている翼も上位種のドラゴンのように立派なものになっているし、口から覗き見える牙も手から生えている爪も大きくて立派なものになっている。


「確かに普通に戦ったら強そうだが、頭の中身がなあ」


 一見強そうな上位キメラだが、頭の中は空っぽのようだ。

 今は研究員を殺し尽くし、施設の設備も破壊して俺たちと対峙している。


 完全に頭の中を破壊衝動で支配されている危険なやつの行動だ。

 こんなやつ、さっさと始末しなければならない。

 万が一外に逃げられては、外で警戒してくれているであろうギルドの冒険者たちが危険だ。


「お前ら、最初から全力で行くぞ!」


 ということで全力でかかって始末することにする。


「『極大化 魔法合成 『天凍』と『天風』の合成魔法『氷刃の嵐』」


 まず俺が魔法で巨大な氷の刃を作って攻撃する。

 無数の巨大な氷の刃が上位キメラに襲い掛かる。


「グオオオオオ」


 それに対して上位キメラは炎のブレスを放って迎撃するが、所詮は焼け石に水。

 数本程度の氷の刃を阻止することができたようだが、こいつにできるのはそこまでだ。

 ブス、ブス、ブス、ブス。


「ギャオオオオオ」


 残った無数の氷の刃が次々と上位キメラにぶっ刺さって行き、上位キメラが悲鳴をあげる。


「『フルバースト 飛翔一刀割』」


 そうやって上位キメラにできた隙を狙って、リネットが必殺技を仕掛ける。


「グギャアア」


 リネットの一撃で上位キメラが脳天から真っ二つにされる。

 真っ二つにされた上位キメラはそのまま息絶えるかと思われたが。


「グオオオオオ」


 何とそれで死なずに逆に反撃してきやがった。

 グルンと腕を大きく振り回し、その鋭い爪をリネットに向けてきやがった。

 物凄い生命力である。


「ぐっ」


 とっさに盾を構えて攻撃を防いだリネットだったが、衝撃で後ろに数メートル吹き飛ばされる。


「リネット!」


 俺はリネットの危機に素早く反応した。

 上位キメラの懐に飛び込んでいき。


「うおおおおお」


 と、その両腕を切り飛ばしてやる。


「とおおお!」


 さらに生命エネルギーを込めた蹴りをお見舞いしてやり、逆に上位キメラを吹き飛ばしてやる。


「リネット、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ」


 リネットに声をかけると、幸いなことにけがはないようでよかったと思う。

 そして、その間にも残りの嫁たちが上位キメラに攻撃を仕掛けていく。


「『極大化 小爆破』」

「『極大化 精霊召喚 風の精霊』。風の精霊よ、キメラをバラバラにしてやるのです!」


 リネットへの攻撃に怒ったのか、気合を込めて上位キメラをバラバラにしていく。

 バラバラになった上位キメラの肉体は俺が始末して行く。


「『神化 天火』」


 そうやって細胞一つ残らず燃やし尽くしてやった。

 こうやって俺たちは上位キメラを始末したのだった。


★★★


「さて、残りはお前だけだな」


 上位キメラを始末した俺たちは残った所長の元へ向かった。

 こいつを締め上げて色々吐かせるつもりだったのだ。

 だが……。


「ひいいいい」


 俺たちがあっさりと上位キメラを倒したことに恐怖したのか、尻尾をまいて施設のさらに奥へと逃げ込んで行った。


 もちろん逃がすつもりなど一切ないので所長を追いかけていく。

 すると。


「お、なんか広い場所に出たな」


 研究所の奥にはさらに広い空間があった。

 大規模訓練場の訓練設備くらいの広さで、天井の高さも20メートルくらいあった。


 何のために?とも思ったが、まあいい。

 それよりも所長のやつを探すとする。


 全員で所長を捜索する。

 幸いなことに所長はすぐに見つかった。


「旦那様、あそこをご覧ください」


 エリカがそう言いながら研究所の一番奥の方を指し示す。

 すると、そこには先程キメラが入っていたガラスの筒を何倍にも大きくしたものがあり、その横で所長が満面の笑みを浮かべていた。


 何だ?気色の悪いやつだな。

 所長を見ていると何だか気持ち悪くなってきたので、何となく目を所長から逸らした俺は驚愕した。


「キングエイプ?グランドタートル?ヨルムンガンド?」


 何と所長の横のガラスの筒の中には、かつて俺たちが倒した四魔獣たちが入っていたからだ。


★★★


「おい、ヴィクトリア!あれは何だ」

「ワタクシにもよくわかりませんが、想像はつきます。あれがさっきここの人たちが言っていたクローンではないのでしょうか?」

「つまりあれはここの奴らが作り出した四魔獣の偽物ということか?」

「おそらくは」


 なるほどそういうことか。

 ここのやつら、キメラの他にもやばいものを作っていたんだな。


 と、俺がそんなことを考えている間に再び所長のやつが高笑いを始める。


「ガハハハハ、お前たち、どうやらここにあるものが何なのか理解しているようだな。ならば話は手っ取り早い。四魔獣のクローンの手により死ぬがよい!」


 所長がそう宣言すると同時にガラスの筒から培養液が抜け、中から四魔獣たちが出てくる。


 それを見た俺は正直どうしようかと思う。

 あれだけ強かった四魔獣を同時に三体も相手にしなければならない。

 どうすれば勝てるか、皆目見当がつかなかった。


 いっそ一度撤退して作戦を練り直そうかとも思ったが、ここで俺の背中を押してくれた者がいる。


「ホルストさん、あれはあくまで四魔獣のクローンであって本物の四魔獣ではありません!所詮は偽物に過ぎないです!ワタクシの神としての勘がそう教えてくれます」


 それはヴィクトリアだった。


「偽物って……。確かにそうかもしれないけど、実力はそれなりにあるんじゃないのか」

「そんなことはありません。まあ、見ていてください。『神化 精霊召喚 火の精霊』。さあ、火の精霊よ。ヨルムンガンドのクローンを攻撃するのです!」


 ヴィクトリアは自信たっぷりに火の精霊を呼び出すとヨルムンガンドのクローンに攻撃を仕掛ける。

 ボオオオ。

 火の精霊の攻撃でヨルムンガンドの六分の一ほどが黒焦げになり燃え尽きる。


 『神化』を使っているので、ヴィクトリアもヨルムンガンドにこれくらいのダメージを与えることができたようだ。


 ただヨルムンガンドは四魔獣の中でも最高の回復力を誇る魔物だ。

 以前ヨルムンガンドと戦った経験から、俺はこんな傷、ヨルムンガンドの驚異的な回復力ならさっさと治ってしまうんだろうなと思って見ていた。

 しかし。


「あれ?傷が治らない?」


 予想に反してヨルムンガンドの損傷は治らない。

 いや、正確には治って行っているがちょびちょびと回復しているだけで、以前経験したようなすさまじい回復力を持ち合わせていなかった。


 この状況を見てヴィクトリアがドヤ顔になる。


「ざっと、こんな感じです。こいつら見た目こそヨルムンガンドそのものですが、防御力も回復力も落ちています。ですから、今のワタクシたちでも三体同時に相手にできるはずです」

「確かに、この分ならやれそうだ」


 ヴィクトリアの言葉によって屋類を取り戻した俺はゆっくりと立ち上がる。

 そして剣を抜きながら嫁たちにこう宣言する。


「よし!こんな偽物ども、さっさと倒して家へ帰るぞ!」

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