第347話~第五層の探索 ヴィクトリア、巨大スライムを退治する~

 第五層は迷宮エリアだった。


 迷宮エリアと言えばあれだ。

 そうスライムがよく出てくるエリアだ。


 ということで、スライムが大嫌いなヴィクトリアが震えている。

 前にスライムに酷い目に遭わされたのを覚えていて、それがトラウマになっているからだ。

 俺はそんなヴィクトリアに声をかけてやる。


「ヴィクトリア、大丈夫か?スライムが怖いんだったら、俺の背中にずっと隠れていてもいいんだぞ?」

「いいえ、大丈夫です。お母様に『スライム避け』の魔法も教えてもらったし、もう怖くありませんよ」


 一応そう強がっているものの、相変わらず体が震えているので怖がっているのは明白だった。


 とはいえ、ヴィクトリア一人のために探索を中止するわけにはいかない。

 仕方がないので、俺はヴィクトリアの手をギュッと握ってやる。


「え?ホルストさん?」

「これで、少しは安心できるだろ?さあ、行くぞ!」

「はい」


 これだけでヴィクトリアは震えるのをやめて普通に歩けるようになった。

 と、ここまでは良かったのだが。


「リネットさん、五分交代でよいですか?」

「うん、それでいいよ」


 そうやって残りの二人までが代わる代わる俺と手を繋いでくるのだった。

 何だかなあ、とは思ったが、嫁たちが俺のことが好きなのを感じられて、俺はうれしかった。


★★★


 第五層の探索は割と順調だった。


「『極大化 スライム避け』」


 ヴィクトリアが気合を入れて魔法を使ったので、スライムの類がほとんど出てこなかったからだ。

 その代わり。


「お、今度はソウルイーターだね」


 アンデッドがたくさん出てきた。

 アンデッドと言えばヴィクトリアの独壇場だ。


「ここはワタクシに任せてください!」


 張り切っていきなり強気に出て行く。

 さっきまでスライムにおびえてブルブル震えていたくせに変わり身の早いことと言ったらなかった。


「『極大化 聖光』」


 そうやってアンデッドたち向けてどんどん聖属性魔法を放って行っている。

 ヴィクトリアの聖属性魔法は強力で、それを食らったアンデッドたちがどんどん天に召されて行く。


 今現れたソウルイーターも例外ではなく。


「ギャー」


 と、一言短い悲鳴を残して昇天して行った。


「やるじゃないか、ヴィクトリア」


 そう言いながらヴィクトリアの頭を撫でてやると。


「はい!ワタクシ、アンデッド対応だけは得意なんです」


 そうえらくご機嫌になるのだった。

 それを見て俺はヴィクトリアが元気になって良かったと思った。


★★★


 ただ、そんな第五層にも強い魔物はいる。


「でかいスライムだね」


 目の前に突然現れた巨大スライムを見てリネットがそんな感想を漏らす。

 そう目の前に突如現れた魔物は巨大なスライムだった。


「また、スライムですう~」


 目の前に現れたスライムを見て、さっさとヴィクトリアが俺の後ろに隠れる。


 お前、さっきまでの威勢の良さはどこへ行ったんだよと思うが、ヴィクトリアの気持ちはわからなくもない。

 こんなでかいスライム、確かに気持ち悪いからな。


 それにヴィクトリアが『スライム避け』の魔法をかけているのにこいつが目の前に現れたということは、このスライムかなり強いのだと思う。

 ということで魔法を使って調べてみる・


「『世界の知識』」


 ブラッドリー・エンパイヤー・スライム

 地下遺跡に生息しているスライムの王者。

 貪欲な食欲で人間など一飲みにしてしまう。

 中心部に存在する核が弱点。

 同じく弱点属性である氷属性魔法で凍らせてから攻撃しよう。

 なおこいつの体を構成するゼリー状の物質は魔法薬の素材として高く売れる。


 以上が魔法で得られた情報だ。


 要するに凍らせてから体の中の核を破壊しろということか。

 そういうことならいっちょやるか。


「『極大化 天氷』」


 弱点を把握した俺は一気にケリをつけるために氷の魔法でブラッドリー・エンパイヤー・スライムを一瞬で氷漬けにしてやる。

 そうやって敵スライムの動きを封じた俺はヴィクトリアにこう言ってやる。


「ヴィクトリア。スライムの中心部にあいつの核のようなものが見えるだろう?あれをお前が砕け!」

「ワタクシがですか?そんなことができるのでしょうか」

「できるさ。風の精霊を呼び出して風の斬撃をお見舞いしてやれば簡単さ。お前ならできる。そうやってあの巨大なスライムの核を打ち砕いて、スライムに対するお前のトラウマも打ち砕いてしまえ!」

「わかりました。やってみます!」


 俺の言うことに納得がいったのか、ヴィクトリアは力強く頷く。


「『極大化 精霊召喚 風の精霊』。さあ、風の精霊よ!ブラッドリー・エンパイヤー・スライムの核を破壊するのです!」


 ヴィクトリアがそう命令すると、風の精霊は手刀での斬撃の構えを取り、一気に振りぬく。

 ザシュンッ。

 という豪快な音とともにスライムの核は真っ二つとなり、凍っていない部分のスライムの肉体が崩壊して行くのが確認できる。


 俺は再びヴィクトリアの頭を撫でてやる。


「やったじゃないか。これでスライムへの苦手意識が克服できるといいな」

「はい。これでちょっとはマシになっと思います」


 一応ヴィクトリアはそうは言ったものの、その後もよそのダンジョンでスライムに会うたびに、びくつく度合いは多少改善していたが、相変わらずびくついていたので、結局スライムへの苦手意識を全部払しょくすることはできなかったようだ。


 それを見て、俺は人の意識を変えるのって難しいんだなと思った。


★★★


 さて、ブラッドリー・エンパイヤー・スライムを倒した俺たちは先へと進んで行く。

 ここは迷宮エリアなので、本来ならば迷いながら進んで行く展開になるはずだが。


「本当、ホルスト君の魔法で作った地図って最高だよね」


 『世界の知識』の魔法で作った地図のおかげで一切迷うことなく進むことができた。

 そんな俺たちが目指したのは。


「あそこが問題の空白スペースか」


 地図の中でも奥まった部分に存在していた空白のスペースだ。

 結構な広さなので、何か悪だくみに利用するのにはピッタリの場所だと思う。


 ということで、そのスペースに近づいてみると。


「扉があるな。ビンゴだな」


 問題のスペースの入り口には扉が設置されており、中へ入れないようになっていた。

 しかも、扉の上には。


「『生物研究所』?」


 とか、ご丁寧に表札まで掲げられていて、ここがどこか俺たちに教えてくれている。

 非常に間抜けな話だが、ここを作った人物としては、ここまで外部の人間が来られると思っていなかったのだと思う。


 さて目的の施設も見つけたことだし、何とか侵入してみようと思う。

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