第346話~第四層の探索 ヴィクトリア、俺に黙って宝石を掘ろうとするんじゃない!~

 下り階段を下りた先の第四層は坑道エリアだった。

 今まで誰も採掘する人がいなかったせいだろうか。

 坑道の周りには色々な鉱物が露出してキラキラと輝いており見た目にはきれいだった。


 そんな坑道を俺たちは進んで行く。


 鉱物は採掘しない予定だ。

 今は調査が最優先でそんな暇はないからな。

 テキパキと先へ進んでキメラを発見、殲滅しなければならない。


 ならないのだが……。


「おい!ヴィクトリア、何こっそりと宝石を取ろうとしているんだ」

「だって、このアメジストきれいで、持って帰ってペンダントにでもしたいなあ……なんて思ったんです」

「ペンダントにしたいじゃねえよ!お前、今がどんなときかわかっているのか?」

「もちろん、わかっていますよ」

「わかっているんだったらわがまま言うな!」

「でも、でも!」


 俺が叱りつけても、ヴィクトリアのやつは子供のように駄々をこね、ジッと宝石を見続けている。

 雨の中捨てられて一人ぼっちでお腹を空かせて泣いている子犬のような悲しい顔で。

 よほど欲しいものと見受けられる。


 このまま無視して先へ進んでもよかったのだが、ヴィクトリアの悲しそうな顔を見ていると、俺も何だかいたたまれない気持ちになって来て、自分がひどく冷たい人間に思えてきた。


 本当、俺って嫁たちには強く出られないよな。

 仕方がないので妥協してやることにする。


「一個だけだぞ。後、この先欲しいものを見つけても採掘とか禁止だからな!」

「ありがとうございます!」


 そうやって俺が許可を出すと、ヴィクトリアは早速宝石を掘ることに精を出すのであった。


「ヴィクトリアさん。さっさとつるはしとスコップを出しなさい。私が宝石を支えていますから、その間に二人で土を掘って取り出すのです」

「はい」

「任せて」


 ……というか、エリカとリネットも手伝っているし。


 実はお前らも欲しかったのか。

 そういえばいつものエリカだったらヴィクトリアをたしなめるはずなのに、そういう気配一切なかったしな。

 まあ、いい。嫁さんが満足なら俺も満足だからそれでいい。


 ちなみに、この時採掘した宝石で三人でお揃いのペンダントを作ったそうだ。

 本当に仲の良い嫁たちだと思う。


★★★


 もちろん坑道エリアにも魔物は出た。


「ふむ、ドラゴンか」


 しかも敵はドラゴンだった。

 まあ、俺たちにとってドラゴンは今更な敵だが、普通の冒険者なら策なしで挑むと簡単に殺されてしまうような相手である。


 というか、第三層と比べても急に敵のレベルが上がり過ぎている気がする。

 これも、この強い瘴気の影響なのだろうか。

 よく分からん。


 それよりもドラゴンだ。

 ドラゴンは体がでかく、道を塞ぐような形で俺たちの前に立ち塞がっている。

 こんな細い坑道で炎のブレスでも吐かれたら面倒だ。

 だからその前に倒すことにする。


 具体的には俺が目の前で炎を防いでいる間に嫁たちで倒してもらうことにしようと思う。


「俺が前へ出てドラゴンの攻撃を防ぐから、その間にドラゴンを倒してくれ」

「「「はい」」」


 俺は嫁たちにそう指示すると、盾を構えて前へ出る。


「『神強化』」


 そして魔法を使い、盾に属性防御を付与する。

 すると、案の定。


「ブオオオオオ」


 と、ドラゴンのやつが炎のブレスを吐いてきやがった。


「『天氷』」


 俺はそれを魔法で相殺しながら前へ進んで行く。


「うがああああ」


 炎ブレスが通じないとわかったのか、ドラゴンのやつ、次はその鋭い爪で攻撃してきた。

 しかし。


「ふん」


 俺は剣と盾を使ってそれらの攻撃を軽くいなしていく。

 焦ったドラゴンの攻撃が激しくなるが、その程度でどうこうなろレではない。


 逆にドラゴンの方が隙だらけになる。

 その隙をついて嫁たちが攻撃を開始する。


「『精霊召喚 土の精霊』。土の精霊よ。ドラゴンを拘束するのです」

「『風刃』」


 ヴィクトリアがドラゴンを拘束し、エリカがドラゴンを攻撃する。

 バシュ、バサ、ドシュ、ドサ。

 エリカの魔法であっという間にドラゴンの四肢が切断され、手足を失ったドラゴンが地面に倒れ伏す。


 そこへリネットがとどめの一撃を刺しに行く。


「うおりゃあああ」


 大斧を大上段に構えて、ドラゴンの首めがけて一気に振り下ろす。

 ドスッ。

 そんな鈍い音を立ててドラゴンの首が地面に転がり落ちる。


 このようにして俺たちは難なくドラゴンを倒したのであった。


★★★


 ドラゴンを倒した後も俺たちの探索は続く。


「『世界の知識』」


 俺が魔法を使って書いた地図をマッピングしながら進んで行く。

 マッピングと言っても最短の行程を進んでいるので最小限のチェックだけだ。

 まあ、今まで俺の魔法で作っていた地図が間違っていたことなどないので今のところはこれで十分だと思う。

 残りのチェックは帰りに余裕があったらやろうかなと思う。

 ただそれも微妙だ。

 例え地図が間違っていたとしても緊急なので間違えていましたと言えば通る気がするし。


 そうこうしている間に目的地の第四層へ続く下り階段に着いた。


「さて、それじゃあ次の階層へ行くぞ!」

「「「はい」」」


 階段を見つけた俺たちはそのまま階段を下りて行くのだった。


 次の階層に何かがある!

 そんな予感を胸に抱きながら。

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