第342話~私をダンジョンに連れてって~
「やあ、ホルスト殿。依頼を達成したばかりで疲れているのに来てもらって悪いね」
ギルドマスターの執務室に行くと、ダンパさんはそう言って俺のことを出迎えてくれた。
「いやいや、普段から鍛えているのでこのくらい大したことはないです」
そう言いながら席に着くと、すぐにギルドの職員さんがお茶とお菓子を持って来てくれる。
「どうもありがとうございます」
それを一口口に含み、一息入れてから本題に入る。
「それで、今日はどういった用件で俺を呼んだのですか?」
「実はね、この前研修に使った怪物が出たというダンジョンがあるだろう?あれについての話なんだ」
ああ、この前ダンジョン演習につかったダンジョンの事か。
あのダンジョンは確か今立ち入り禁止になっていたはずだが……俺に言ってくるということは。
ダンパさんの話の内容は予想できたが、一応聞いてみる。
「もしかして、俺たちにあのダンジョンの様子を見てきて欲しいとか。そういう話ですか」
「うん、そうなんだよ」
俺の聞き返しをダンパさんはあっさりと肯定したのだった。
★★★
ダンパさんの話は次のようなものだった。
「あのダンジョンって小さくて初心者冒険者の訓練や初期の資金稼ぎに有用だったでしょ?だから、また使えるようにならないかと考えているんだよ」
どうやらダンパさんはあのダンジョンを再び使用したいらしかった。
まあ、あのダンジョンは手ごろなのでその気持ちはよくわかった。
「そのためにここ数か月ずっとダンジョンの入り口に交代で冒険者を立てて見張らせていたんだよ。怪しい存在の出入りがないかって」
「それで何もなかったので、最終チェックとして俺たちに中へ入って確認してほしい。そういうことですか?」
「うん、そうなんだ。お願いできないかな」
俺はダンパさんの頼みについて少し考えた。
その結果。
「……わかりました。引き受けましょう」
俺たちは引き受けることにしたのだった。
あのダンジョン、キメラが出た後に別の冒険者チームが調査したけど何もなかったそうだ。
他のチームが何もなかったと言うのなら、あのキメラはどこかからかあそこに迷い込んだだけで、あのダンジョンには結局何もなかったのだと思う。
ただ、そうであっても俺は最後に自分の目で一度確かめてみたいと思ったのだ。
だからダンパさんの頼みを引き受けることにしたのだった。
「本当かい?それじゃあお願いするよ」
俺の返事を聞いたダンパさんは大喜びだった。
それを見た俺は、俺のモヤモヤした気持ちを解消できるうえにダンパさんに喜んでもらえてよかったなと思うのだった。
★★★
翌日、俺たちはダンジョンへ行くための準備のために買い出しに出掛けた。
「お菓子、お菓子、お菓子~。今日はダンジョンで食べるお菓子をたくさん買わなきゃですね」
俺たちの中で一番張り切っているのはヴィクトリアのやつで、ダンジョンで食べるつもりのお菓子を買い込んでいくつもりのようだ。
……って、お前は何を言っているんだ!
俺たちはダンジョンへ行くための道具類の買い出しに来たんだぞ!
決しておやつを買うためではない!
「お前、ちゃんと真面目に買い物しろ!」
「そんなあ。折角楽しみにしていたのに」
そう注意すると、とたんにヴィクトリアがしょぼんとした顔になる。
その顔はとても悲しそうで、見ていてとてもいたたまれない思いを覚えた。
嫁さんにこんな顔をされると俺もつらいので妥協してやることにする。
「ほどほどにしろよ」
「はい!ありがとうございます!」
仕方なく俺が許可を出してやると、ヴィクトリアは喜び勇んでお菓子を買いに走るのであった。
本当しょうがないなあ。
苦々しく思いつつも俺はそんなヴィクトリアの背中を見守るのであった。
こんな感じで俺たちは買い物をしていったのであった。
★★★
「お兄ちゃん」
そうやって買い物をしていると、突然背後から声をかけられた。
その声を聞いた瞬間嫌な予感しかしなかった。
声の主が誰かはすぐに分かった。
俺のことを「お兄ちゃん」とか呼ぶ人間は一人しかいないからな。
「お兄ちゃん!お兄ちゃんってば!」
声の主は俺に声が届いていないとでも思ったのか、さらに声を大きくして俺に話しかけてくる。
うるさい!とっくに聞こえているっての。顔を会わせたくないからシカトしているだけだ。
ただこのままこいつの好きなようにしゃべらせていると周りの迷惑になる。
だから仕方なしに話してやることにする。
「レイラ、何の用だ?」
そうやって振り向いて声をかけると、そこには妹のニコニコ顔があった。
★★★
「お兄ちゃん、ダンジョンへ行く予定なんでしょう?だったら私たちも連れて行ってよ」
妹に話しかけると、いきなりそういうことを言われた。
というか、なんでお前俺たちがダンジョンへ行くことを知っているんだ?
「確かに俺たちはダンジョンへ行く予定だが、お前その情報をどこで聞いたんだ」
「ギルドの職員さんたちがうわさ話をしているのを聞いたって冒険者の人から聞いたのよ」
「冒険者?またか。……それでその冒険者は何て言っていたんだ?」
「うん、その人が言うにはね。『もうすぐこの前研修で使ったダンジョンが使用可能になるかも』って、職員さんたちが言っているのを聞いたんだって。それで、『ホルスト様が最終チェックにダンジョンへ行くそうよ』とも言っていたんだって」
ふーん。なるほど。そういうことか。
確かにあのダンジョンは冒険者、特に初心者冒険者にとっては有益なダンジョンだ。
その動向が気になり情報を掴もうとしているのはわかる。
「それで、お前の所のチームもダンジョンへ行きたいと?」
「うん」
俺がそう尋ねると、妹のやつはコクコクと頷いた。
「何で行きたいんだ?」
「だって、あそこのダンジョンってしばらく人が入っていないから鉱物とか薬草とかそういうのがたくさん出現していそうじゃない、だから、他の冒険者に先立って入ることができれば、お宝ガッポガッポでしょ」
つまりはダンジョンのお宝メインというわけか。
本当金にがめついやつだ。
意地汚すぎる。
だから俺はこう言ってやった。
「お前、いい加減にしろよ!俺たちはあくまで調査に行くのであって鉱物とかを採取するつもりはあまりないんだ。そういうのがしたいんだったら、ダンジョンが解放された後に自分たちで行け!」
「え~ひど~い。ちょっとくらい連れて行ってくれてもいいじゃない」
俺が嫌だと言ったのに対して、妹のやつは文句を言ってきたが、こいつがどう思おうと知ったことではない。
俺は断固拒否しようとした。
だが、意外なことにここで妹の肩を持つ者が現れた。
「旦那様、いいではありませんか。ダンジョンくらい連れて行ってあげれば」
「え?エリカ?」
それは誰あろうエリカであった。
一体どういうつもりなのだろうと俺が戸惑っていると、エリカは追加でこう発言するのだった。
「レイラさんはともかく、仲間の子たちには色々手伝ってもらっていますからね。この前もパンの生地をこねるのを手伝ってくれましたし、パトリックの世話をするついでにホルスターたちの子守もしてくれますからね。よくパトリックの運動の時に、パトリックの背中に乗せてもらって喜んでいるをよく見ますし、最近はホルスターにコマをプレゼントしてくれて、ホルスター、それが気に入ったみたいで銀ちゃんと二人で遊んでいます。だから、私としては何かお礼をしたいと思っていたのですよ。ですから、ちょうどいい機会ですので連れて行って差し上げればよろしいと思います」
あの子たちがホルスターたちと遊んでくれていたのは知っていたが、おもちゃまでくれたのは知らなかった。
しかし、そうと知ったからには俺もお礼をしなければなるまい。
「わかった。そういうことなら連れて行ってやろう」
「本当?やったああ!」
「お前、勘違いするなよ。お前の仲間の子へのお礼で連れて行ってやるんだからな。後でちゃんとお礼を言っておくんだぞ」
「わかっているって。お菓子でも買って帰るって」
こいつ、本当にわかっているのか?
そう思ったが、まあいい。
こうして俺たちは妹のパーティーを連れてダンジョンへ潜ることになったのであった。
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