第340話~泥棒猫に旦那様は渡しませんよ~

「お兄ちゃんの誕生日会の話ね。知り合いの女性冒険者の人から聞いたの」


 俺たちが誕生日会をすることをなぜ知っているのかと妹のやつに問いただすと、そんな返答が返って来た。


「知り合いの冒険者?」

「うん、そうよ」

「何でその冒険者は俺たちが誕生日会するって知っていたんだ」

「お兄ちゃんたちが今朝話してたのを聞いたんだって。それで、今日お兄ちゃんの誕生日かって聞かれたの。でも、お兄ちゃんの誕生日はもう終わっているし、一応違うよって言っておいたんだけど、もしかしてと思って待ち伏せていたの」

「ふーん、そうなのか」


 ……って、なんでその子は俺の誕生日の情報に興味を持ったんだ?

 俺の誕生日なんか知っても大して得なことなんかないのにな。

 正直良くわからなかった。


 ただ、この話を聞いた嫁たちが妙にソワソワしているのが目に入った。


「レイラさん、あなた余計なことを旦那様に吹き込まないでください」


 慌てて妹のやつにそう注意している。

 一体本当何なんだろうか。


 それはともかく、この後も楽しく皆で過ごした。


「パパ、ママ、銀姉ちゃんと二人で描いたんだよ」


 そう言いながら、ホルスターと銀は俺とエリカが仲良くしている様子を描いた似顔絵をくれたし。


「「ホルストさん、エリカさん。ワタクシたちからもプレゼントがありますよ」」


 と、ヴィクトリアとリネットも誕生日プレゼントをくれたりしてとても楽しく過ごすことができた。

 こんな時間がずっと続けばいいなあ、とも思ったりしたが。


「旦那様、ホルスターたちを寝かさなければならないので、そろそろ帰りましょう」


 ただ、ホルスターたち子供もいるので適当な所で切り上げて帰ったのであった。


★★★


 エリカです。


 今日は私と旦那様の誕生日会でした。

 ですから家に帰ったら旦那様とのんびりしたいなあ、なんて考えていたのですが、その計画は取りやめて急遽女子会を開催することにしました。


 旦那様やホルスターたちは先に休ませています。

 それで、深夜私とヴィクトリアさんとリネットさんの三人で集まって女子会です。


 とりあえず飲み物とおつまみを用意し、テーブルの上に並べ、三人が椅子に座ったら女子会の開始です。

 まず私から発言します。


「さて、皆さん。今からこうして淑女会を開催するわけですが、今日のテーマは、『旦那様が泥棒猫に狙われている』です」


★★★


「『泥棒猫』ですか。本当エリカさんの言う通りですね」

「本当、アタシもそう思うよ」


 私の『泥棒猫』という言葉を受け、他の二人がウンウンと頷いています。


 泥棒猫。

 つまり私たちの愛する旦那様を横から掻っ攫おうとしている女どものことです。


 まあ、前からたくさんいたのですが、もちろんその泥棒猫たちは現れるたびに私たちが睨みつけて追い払っていたのですが、最近さらにその数が増えたみたいですね。

 レイラさんの今日の発言からそのことがよくわかります。


 私たちの旦那様の誕生日を知ろうとする。

 確実に下心があるに違いません。


「お誕生日、おめでとうございます」


 そう言いながら旦那様にプレゼントでも渡して気を引こうとしているに違いありません。

 うちの旦那様、小さい頃から私以外の女の子と無縁だったせいか、女の子への耐性が低いですからね。


 旦那様は義理堅い方なので簡単になびいたりはしないでしょうが、旦那様も男。

 本能に負けて、つい手が出てしまうかもしれません。


 現に今日だってレイラさんのパーティーの子たちに花束をもらった時だって、最初こそ驚くだけでしたが、そのうち嬉しそうにデレデレしていましたしね。

 まあ、あの子たちは旦那様にちょっかいを出す気はないみたいですし、旦那様も知り合いだから気を緩めただけだと思いますので、別に構いませんけどね。


 私が今言ったようなことを二人に話すと。


「エリカさんの言う通りですね」

「泥棒猫増えちゃったね」


 そうやって二人とも私の考えに賛成の様です。


「それでは、皆さん。作戦を考えますよ」


 ということで具体策の検討に移ります。


★★★


「まずは私たちが旦那様の気をもっと引くところからスタートしましょうか」


 作戦会議の場で最初に私はそう提案しました。

 もっと旦那様にアピールして他の女になんか構っていられないようにしようという魂胆です。


「ワタクシもそれはいいと思います」

「まあ、基本戦術だね」


 と、他の二人も賛成の様です。

 ただ、ここで一つリネットさんがこんなことを言い出しました。


「基本はそれでいいと思うんだけど、これ以上どうやってアピールしようか。今だってデートに行ったり、体をくっつけて行ったり、夫婦生活を一生懸命やったり、さりげなく子供欲しいアピールしたりと、結構やっているし。これ以上となると何をしたらいいかな?」

「「うーん」」


 リネットさんの指摘を受けてその通りだと私とヴィクトリアさんはうなります。


 確かによく考えたらこれ以上のアピールは難しそうです。

 これ以上となるともっと刺激の強いことお考えなければならないわけで、私たちとしてもすぐには思い浮かびません。


「ホルストさんとしては、4人で一緒に夫婦生活したいとか言っていましたけど、それはさすがに恥ずかしいですから、皆嫌ですよね?でも、いざという時の最終手段としては考えておくべきなのでしょうか?」


 私たちが悩んでいると、ヴィクトリアさんがそんなことを言い出しました。

 それを聞いて、言い出しっぺのヴィクトリアさん本人も含めて三人ともが顔を真っ赤にしました。


 この三人、自分の恥ずかしい姿を他人に見られるのはとても嫌なのです。

 ただ、これ以上となるとそういうことも少しは考えなければならないのかもしれませんね。


 とはいえ、ここは誤魔化して次に行くとしましょうか。


「それはそのうち考えるとして、他に意見はありませんか?」

「そうですね。ホルストさんの意識改革とかは無理でしょうか?」

「「意識改革?」」

「そうです。もうちょっと女に対する興味を持たないように教育するとか」

「教育ですか……それは止めておいた方がいいですね」


 ヴィクトリアさんの意見を私は一瞬で否定しました。


「何ででしょうか?」

「そんなことをして旦那様が女性に興味を持たなくなったら、子供ができなくなるでしょうが。あなたもリネットさんも旦那様の子供が欲しいのでしょう?だったら、そういう事態になったら困るでしょう」

「それもそうですね」


 私の意見にヴィクトリアさんも納得してくれたようで、しきりにウンウン頷いています。


「他には?」

「もうちょっとホルスト君の防御を固めたいよね」

「防御ですか?」

「うん。もうちょっとホルスト君と離れないようにして、近寄ってきそうな泥棒猫を排除したい。そう思うんだけど、どうかな」

「それはいい考えだと思いますけど、現状では難しいでしょうね。私たちにもいろいろやるべきことがありますし」

「そうだね」

「でも、いい考えなので、要検討ということにして保留にしておきましょう。他に意見はありますか?」

「今のところは思いつかないですね」

「同じく」

「それではこの話はこの位にして、後は女子会を楽しみましょうか」

「「はい!」」


 まだ私たちの泥棒猫対策は道半ばですが、こういうことは一朝一夕でうまく行くものではありません。


 ということで、今は女子会を楽しむことにしようと思います。

 そして、その日は夜遅くまでお酒を楽しんだ後、ゆっくりと寝たのでした。

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