今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、なぜかおまけで女神を押し付けられる~
閑話休題50~あのビッグヘルキャットの行方~
閑話休題50~あのビッグヘルキャットの行方~
「ご苦労様だったね」
開拓村の開村式も終わり、エリカの実家に帰ってくるとエリカのお父さんはそう言ってねぎらってくれた。
まあ、開拓村は数年は免税するのが通例だからすぐに収入にならないがそれを過ぎれば税収が見込めるのでお父さんとしてはヒッグス家の収入が増えるのでうれしいのだと思う。
俺も普段からお世話になっているお父さんの役に立ててうれしかった。
お父さんにはよくホルスターや銀を預かってもらっているし、色々援助もしてもらっている。
だからこうやって仕事を手伝って少しでも恩を返せるのはうれしかった。
それはエリカも同様のようで。
「親孝行がこういう形でできて、とてもうれしく思っています」
と、他人のいない所では俺にそう言ってくるのだった。
「いやいや、俺たちもお父さんの役に立ててうれしいですよ」
「ははは、そう言ってもらえると助かるよ。まあ、帰って来たばかりで疲れているだろうから、今日はのんびりして行きなさい」
「はい、そうさせてもらいます」
ということで、今日は慰労会も兼ねてエリカの実家でのんびりとさせてもらうことにするのだった。
★★★
その日、夕飯を食べた後はリビングでのんびりしている。
「おばあ様、今日はご本読んでよ」
「はい、はい」
今もホルスターがエリカのお母さんに本を読んでくれるようにおねだりしたところだ。
孫にせがまれたお母さんはホルスターを膝に抱くとゆっくりと本を読み始める。
「昔々、東の海の海底にセイレーン様から海のことを任された海人の一族がいました」
そうやってお母さんが本を読むのをお母さんの横に座っている銀と一緒に一生懸命聞いている。
その一方で嫁たちはエリカのお兄さんの奥さんのヘレンさんと仲良く女子トークをしている。
「お義姉さん、お腹の子供はその後どんな感じですか?」
「お医者さんの話によるととても順調だそうですよ」
「それは良かったです。ワタクシもヘレンさんのように早く子供が欲しいです」
「アタシもヴィクトリアちゃんの意見に賛成だね」
と、今日はヘレンさんのお腹の子供について話しているようだ。
というか、リネットとヴィクトリアあまり俺の方を見てアピールしてくるなよ。
ここにはお手伝いさんたちもいるんだぞ。恥ずかしいじゃないか。
そうやってヴィクトリアたちがアピールしてくる一方、残った俺はお父さんと話をしている。
今日はエリカのお兄さんは仕事でいないので二人で話をしている。
最初は今回の工事でどういうことをしていたかとかそういう仕事の話メインの雑談だったのだが、そのうちにお父さんはこんなことを言い始めた。
「そうそう。今度良い物を買ったんだよ」
お父さんは顔をニコニコさせながらそう話を切り出してきた。
「そうなんですか?」
機嫌が良さそうなお父さんに合わせて俺もいかにも興味がありそうな顔で返事をする。
実際、お父さんの機嫌を取っておいて悪いことは無いからな。
「そうなんだよ」
「それで何を買ったのですか?」
「それは……まあ、見せた方が早いかな。おい!」
「はい、旦那様」
「この前買った例のやつ。ホルスト君に見せたいから持ってくるのだ」
「はっ。畏まりました」
お父さんがそうやって控えていた屋敷の執事さんに命令すると、執事さんは恭しく敬礼し、その例のやつとやらを取りに行くために部屋を出て行ったのであった。
★★★
五分後、執事さんがその品を持って帰って来た。
何なら布のような物を小脇に抱えている。
「ここに広げなさい」
「はい」
お父さんに命令された執事さんがそれを床に広げる。
「おおー」
それを見た俺は思わず声をあげる。
それはきれいな虎柄のとても大きな敷物だったからだ。
「お義父さん、これはいい虎柄の敷物ですね。素晴らしいですね」
「そうだろう?これはビッグヘルキャットという珍しい魔物の毛皮で作られた敷物だ。エルフの国に生息しているらしいから、エルフの国に行ったホルスト君たちなら戦ったことがあるんじゃないのかい?」
ビッグヘルキャットか。確かに何度も戦った相手だ。
特にエルフの遺跡に行く時にかなりの数を倒した記憶がある。
ただ俺の記憶ではあの時に戦ったビッグヘルキャットは目の前にあるような大きな敷物を作れるような大物はいなかったと思う。
きっと目の前のこいつは他のパーティーがどこかで狩ったやつじゃないかと思う。
「ええ、何度も戦いましたよ。結構手ごわい相手ですが、俺たちが負けるような相手でもないですし」
「そうか。それは頼もしいことだな」
「それで、お義父さんはどこでこれを買ったのですか?」
「取引のあるエルフの業者が売りに来たのを買ったのさ。これから寒くなるからね。これを暖炉の前に敷いて、ホルスターが遊びに来た時にでも座らせて遊んでやろうと思ってね」
それを聞いて、お父さん孫には甘いなあ、と俺は思った。
この毛皮の敷物、安いものじゃないはずなのに孫のためにポンと大金を出すんだからな。
まあ、別にいいか。
こんな虎柄の敷物なら家宝として子々孫々が長く使えるだろうし、客にも自慢できるだろうし金額以上には役に立ってくれると思う。
ということで、ここは俺もお父さんを褒めておいて機嫌を取っておくことにした。
「へえ、それは豪儀なことですね。さすがはお義父さんです」
「そうかい?ホルスト君に褒めてもらえると嬉しいなあ」
俺に褒められたお父さんはすごく上機嫌になり、照れくさそうに笑うのだった。
「それで、お義父さん。その商人はこんな立派な敷物をどこで手に入れたと言っていましたか?」
「うむ。僕の聞いた話によると、こいつはウィンドウという町の近くで鹿の群れを襲っていたというビッグヘルキャットで、冒険者が捕えてきたのを冒険者ギルドが購入して、さらに商人がギルドから購入したということだよ」
ウィンドウの町?鹿の群れを襲っていた?
どこかで聞いたことがある話だ。
……って、その冒険者って俺たちの事じゃないか。
あのビッグヘルキャット、毛皮の敷物にされてお父さんの所へ来たということか。
何という皮肉な運命だろうか。
お父さんの話を聞いた俺は運命の残酷さを痛感するのだったが、ここでもう一つ気になることができた。
確か俺はあのビッグヘルキャットを金貨10枚くらいで売った記憶があるのだが、果たしてお父さんはこれをいくらで買ったのだろうか?
「へえ、そうなんですね。それでお父さんはこれをいくらで購入したのですか?」
「それが聞いても驚かないでくれよ。何とたった金貨80枚だったよ。これだけ立派な敷物がそのくらいの金額で買えてしまうだなんていい買い物だろう?」
金貨80枚!?俺が売った値段の8倍じゃないか!
ギルドとその商人とやら大分儲けやがったな。
まあ、でもそれが商売というものなので、俺は文句を言うつもりは無いけどね。
ただ、お父さんにここで真実を告げるのもどうかと思ったのでごまかしておくことにする。
「ははは、それは良かったですね」
「だろう?」
その後もお父さんとの雑談は続いたが、どこかもやもやした気持ちを抱いてしまった俺は、その気持ちを隠すために必死になり、苦労したのであった。
★★★
ちなみに、その夜寝室でエリカにそのことを話すと。
「まあ、お父様ったらそんな無駄遣いをして!本当なら説教したいところですが……ホルスターの為に買ってくれたので悪くは言えないですね。それにこれでギルド大分儲け下みたいですからね。その分内部でも旦那様の評価も上がったでしょうから、チャラにしておきましょう」
お父さんの買い物に半ば呆れつつも、それによって俺たちの評価も上がっただろうし、何よりホルスターの為に買ったのだからそれでよしとすることに決めたようだった。
もっとエリカ怒るかなと思っていたのだが、この程度で済んで本当に良かったと思う。
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