第335話~開拓村の建設 まずは用水路から始めよう~

 数日後。

 俺たちはエリカのお父さんに頼まれた開拓村の建設に向かうために現地に向かっていた。


 今回の仕事は一応ギルドを通して請け負っている。

 まあ、俺たちは冒険者ギルドに所属しているからな。

 こうやってギルドを通して依頼を受けておかないと、何かがあったときにギルドからの依頼を断れない可能性がある。


「ということで、お義父さん。ギルドを通して依頼していただけないでしょうか」

「ああ、構わないよ」


 エリカのお父さんは俺の頼みをあっさり了承してくれたので、後顧の憂いなく俺たちは現地へと向かったというわけだ。


「ホルスターと銀は大分馬を御すのが上手くなったな」

「本当?パパ」

「褒めていただきありがとうございます」


 ちなみに馬車の操縦はホルスターと銀にやらせている。

 二人とも毎日パトリックの世話を欠かさずやり、パトリックに大分信頼してもらえるようになったのでパトリックもよく言うことを聞くようになった。

 本当二人ともよくやっていると思う。


「お!どうやら着いたようだな」


 そうこうしているうちに、開拓村を建設するために仮に建てられている小屋の集落が見えてきた。


「ホルスター、あっちの方へパトリックを誘導しろ」

「うん」


 俺はホルスターに言って、パトリックをそちらへと向かわせるのだった。


★★★


 集落へ着いた後は、とりあえず工事の責任者が寝起きしているという小屋に行ってみる。


「工事責任者さんのいる小屋はどちらかな?」

「あっちですぜ」


 工事夫さんたちに場所を聞き、そちらへ行く。


「すみません。工事の応援に来たホルストというものですが」

「ホルスト様ですね。お待ちしておりました。今責任者を呼びますのでお待ちください」


 受付の職員さんに来訪を伝えるとすぐに責任者が出てきた。


「ホルスト様方、ようこそおいでくださいました。私はここの責任者をしておりますモーリスと申す者です。よろしくお願いします」

「ホルストです。こちらこそよろしくお願いします」


 工事の責任者はモーリスさんという初老の男性で、数学とか物理とかそういう分野に詳しそうな顔つきをした人だった。


「それでは早速打ち合わせをしましょうか」


 しかも、仕事が早くて助かる。

 俺たちも暇ではないのでそっちの方がよかった。


「ええ、そうですね。早速しましょうか」


 ということで、打ち合わせをした後、すぐに仕事を始めるのであった。


★★★


 打ち合わせが終了した後は、すぐさま工事現場に向かった。


「それでは、この張ってあるロープに沿って水路を掘ればいいんですね?」

「ええ、お願いしいます」


 工事現場に行った俺はモーリスさんの指示通りに用水路を掘り始める。


「『天土』」


 魔法でサクサクと掘って行く。

 普通なら工夫がスコップで掘って行き、もっこで掘った土を頑張って運び出すというかなりきつい作業なのだが、俺の魔法を使えば、どんどん水路が掘り進められて行く。

 見ていて爽快な光景だった。


 実際俺の作業を見学している工夫さんたちも。


「こんなに早く水路ができて行くなんて……魔法ってすごいな」


 とか、感心しきっているけどね。


 もっとも、こんなことができるのは俺だけだけどな。

 普通の魔法使いが土魔法を使ってもこうは行かない。

 一度に掘れる量は俺の何十分の一だし、形もそんなに良くはない。

 その点俺ならサクサクと掘れるし、ある程度形も整えることができるのだった。


 ということで、工夫さんたちに褒められながら作業をするのはとても心地よかったのだ。


 ちなみにだが、形を整えるという点でモーリスさんの要求は厳しかった。


「水路の幅は60センチくらい、深さは20センチくらいでお願いします。後、水路に傾斜をつけるのを忘れないでください」


 と、仕様が細かかった。

 幅60センチ深さ20センチといえば案外狭いように感じるかもしれないが、これを今回の開拓村全体(大体500ヘクタール)くらいに張り巡らすのだ。

 とても大変な作業であった。


 こうやって俺が水路を掘っている一方で。


「エリカさん、レンガできたのでお願いします」

「はい、わかりました。『風刃』」


 ヴィクトリアとエリカの二人は用水路に敷き詰めるためのレンガを大量生産していた。


「『精霊召喚 土の精霊 火の精霊 水の精霊』」


 まずヴィクトリアが精霊を使ってレンガを大雑把に作る。


 やり方としては土の精霊と水の精霊が大量の粘土を水を生成し、それでレンガの元を作り大雑把に形を整えた後、火の精霊で大雑把に焼き上げ、水の精霊がレンガ内部の水分を調整してレンガを大雑把に作っていくのだった。


「『風刃』」


 それをエリカが魔法を使って形をそろえていくのだった。

 このようにして二人が作ったレンガはとても形が揃っていて、見ていてとてもきれいだった。


 そして、これらのレンガとモルタルを使って。


「おい!そこはもうちょっと丁寧にやらねえと水が漏れるだろうが!」

「すいません。親方」


 俺が掘った水路に職人さんたちがどんどんレンガを敷き詰めていく。

 そこはエリカのお父さんたちが集めた職人さんたちだ。

 テキパキと作業していき、土の壁と床だった水路がどんどん舗装されて立派なものになって行くのだった。


 その様子を見て、ホルスターと銀が面白がっている。


「銀姉ちゃん、どんどん水路ができて行くよ。見ていて面白いね」

「そうだね。面白いよね」


 大人としては何が面白いのかよくわからないが、子供から見て物ができていく過程というのは面白いのかもしれなかった。


 こんな感じで用水路の工事は順調に進んで行った。


★★★


 一日分の工事が終わった後は、焚火を囲んでみんなで食事をした。

 今日のメインディッシュはオーク肉の串焼きだ。


 俺たちが用水路を造っている間、リネットは護衛の騎士団の子たちを引き連れて開拓地周囲の魔物の掃討へ行っていたのだが、今日のオークの肉は

そこで狩ってきたオークを提供したものだった。


「さあ、どんどん食べてくれ」

「ありがとうございます」


 焼ける側からどんどん職員さんたちに提供していくと、とても喜んでくれた。

 もちろん俺達も食べた。


「『秘技 オーク肉三本食い』」


 ヴィクトリアなど串を三本も一気に口に入れ、リスのようにほっぺたを膨らませながらおいしそうに食べているし。


「ガハハハ」

「あははは」


 しかもその様子を見て皆大爆笑だ。

 まあヴィクトリアのような美人さんがこういう面白いことをやるとギャップが激しくて思わず笑ってしまうのだと思う。

 実際、頬をお膨らましたヴィクトリアはリスのようで面白いし。

 辛い工事作業の中、いい癒しになっていると思う。


 身内としてはちょっと恥ずかしい気もするが、ヴィクトリアも笑いを取るつもりでやっているだろうから、これで構わないと思う。


「銀姉ちゃん、外で食べるお肉っておいしいね」

「そうだね。おいしいね。……って、ホルスターちゃん、タレがお口に付いているよ。銀姉ちゃんが拭いてあげるね」


 と、小屋の壁に背中をつけながら仲良く食べていた。

 こんな感じで和気あいあいとした雰囲気の中で食事は行われた。

 まあ、一日中汗水たらした後で食べる食事はおいしいからな。

 みんなで仕事をしたという一体感もあって食事が進むのだと思う。


 こんな感じで一日分の工事は終わり、用水路工事は順調に進んで行くのであった。


★★★


 用水路の工事が始まってから一週間。


「これで完成だな」


 用水路の工事が完成した。

 近くの丘に登って見てみると、開拓地一面に用水路が広がっているのが見てわかる。


「爽快だな」


 この光景を見ると、一仕事終えたという爽快感が体に満ちてきてとても良い気分になれるのだった。


 しかし、工事は用水路だけではない。

 他にも残っている。


「さて、次は道の工事だな」

「「「はい」」」


 ということで、俺たちは次の工事に向けて気合いを入れ直すのだった。

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