第332話~親亀の背に乗る子亀を見て…… 久しぶりにギルドの依頼を受ける~

 さて、大規模訓練場の訓練も終わったことだし、次の地脈の封印をすべく西の獣人の国へ向かいたいところなのだが。


「今、西方への道は通航制限中ですね」


 この前の魔物のスタンピードのせいで街道や宿場町が荒らされ、通行制限がなされていた。

 現在は復興のための物資や労働力の派遣の通行が優先されており、俺たちもしばらく移動できそうになかった。


 さらに言えば、キメラの件も気になる所だ。


 突如現れた制作者不明の人工生物。

 奴のせいで甚大な被害が出たりしている。

 俺たちが西方に出掛けている間にまた現れたりしたら、今度こそ終わりかもしれない。

 だから、西方へ出かける前にキメラの件は片付けておきたいところだ。


 ということで、もうしばらくノースフォートレスの町にいることにする。


 ただ、町にいるだけでは暇なのでギルドの依頼でも受けることにする。

 朝からギルドへ行くとすでに掲示板の前には人が群がっていて依頼が張り出されるのを今か今かと待っていた。


 その中には俺の妹もいた。

 とても緊張した顔で掲示板を見つめている。

 まあ、ここでいい依頼を見つけられるかで稼ぎが違うからな。

 気持ちはわかる。


 声をかけようかなとも思ったが、邪魔をするのも悪いので止めておいた。


「さて、冒険者の皆さん、依頼の張り出しの時間ですよ」


 時間が来ると受付のお姉さんが出てきて依頼書を張り出していく。


「よし!行くぞ!」


 そして依頼書が張り出されると同時に冒険者たちが一斉に掲示板に突撃して行く。

 その中には妹のやつの姿もあった。


「この依頼、私の方が先に手に取ったんだから私のものよ!」


 そんな風に他の冒険者に混ざって依頼の争奪戦に明け暮れていた。

 うん、中々図太くなっていっぱしの冒険者みたいでいいと思うぞ。

 その調子で頑張って俺に迷惑が掛からないようにしてくれよ。


 そんな風に妹のやつを観察していると、どうやら納得のいく依頼を見つけたらしく、冒険者の群れの中から妹のやつが抜け出してきた。

 手に入れた依頼書を大事そうに抱え、ホッとした顔をしている。

 多分、飯のタネにありつけたことを喜んでいるのだと思う。


 ここで俺が妹のやつに声をかける。


「よお、レイラ。頑張っているようじゃないか」

「げっ。お兄ちゃん。何の用よ!」

「いや、特に用はないぞ。お前の姿を見たから声をかけたまでだ。それで、今日の分の依頼は確保できたのか?」

「うん、まあね」

「それは良かったな。じゃあ、頑張れよ」

「うん」


 それで妹との会話は終わりだ。

 俺と別れた妹のやつは受付に依頼を受けに行き、俺は残った依頼の中から俺たちに見合ったものを探すのであった。


★★★


 さて、そんなこんなでギルドで依頼を受けた俺たちは馬車に乗り目的地へ向かう。

 半日ほど馬車で進んだ後。


「ホルスト君、目的地に着いたよ」


 馬車を御していたリネットから声がかかったので俺たちは馬車を出る。


「噂には聞いていましたけど薄暗い森ですね」


 目的地である森を見てヴィクトリアが心底気持ち悪そうな顔をする。

 今回の獲物はこの森の中に生息することが知られていた。


「ここに生息するという赤色カミツキガメの甲羅。それが今回の目的だ」


 森の中へ入って行く前に俺は確認のため今回の目標についてもう一度みんなに説明する。


 赤色カミツキガメは赤色の亀の魔物だ。

 大きさは3メートルくらいで割と大きい。

 この亀は出産のときに甲羅を脱皮することで知られていて、今回はその甲羅の回収が目的だ。


 カミツキガメという名前の通り性格はとても凶暴で、近づいてくる生物を見境なく襲うという話だった。

 現に俺たちの前に依頼を受けたというよその町のAランク冒険者パーティーは任務に失敗して指を一本食いちぎられたということだしな。


 ということで並の冒険者なら脅威となる存在なわけだが、俺たちにとってはさほどでもないと思う。


 まあ俺たちはかつて邪神プラトゥーンの眷属であるグランドタートルとかいう凶悪な亀と戦ったことがあるからな。

 あいつは堅い上に、荷電粒子砲とかいう凶悪な攻撃をしてきたからな。

 あれに比べれば今回のやつなど月とスッポンくらいの違いはあると思う。


 ……って、慢心はいけないな。


 どんな相手であれ油断は禁物だ。

 前のやつは指を食いちぎられただけだったが、赤色カミツキガメに噛みつかれて死んだ者もいるからな。


「行くぞ!!」


 ということで、自戒の意味込めて気合いを入れ直す。


「それじゃあ、お前ら、行くぞ」

「「「はい」」」


 そして、嫁たちを引き連れて俺は森の奥へと入って行くのだった。


★★★


「旦那様。あれではないですか?」


 森に入ってずっと奥へと進んで行くと、エリカが魔法で目標と思われる赤色カミツキガメを発見した。


「『神強化』。神眼発動」


 俺も神眼を発動させて目標の確認を試みる。

 すると、いた!

 でかい赤色の亀が森の中の泉をすいすいと泳いでいた。


「しかも親亀のやつ、子亀らしい小さな亀を背中に乗せて泳いでやがる」


 その上、親亀のやつは余裕こいて子亀を背中に乗せて水泳大会としゃれこんでいた。

 俺たちが近くにいるとも知らずにのんきなものである。


「子亀が親亀に乗って泳いでいる?本当ですか!」


 それはともかく、俺の話を聞きヴィクトリアが目をキラキラさせる。

 収納リングからテレスコープを取り出し、親子が目の様子を興味津々で眺め出す。


「本当です。きゃわゆいです~」


 どうやら亀共が親子で泳ぐ姿がかわいかったらしく、妙に大喜びしている。

 確かに子亀が親亀の背中に乗って泳ぐ姿は一見かわいいかもしれない。

 動物好きのヴィクトリアが夢中になるのはわかる。


 でも、そいつらは凶悪な魔物だからな。

 下手に近づくと噛みつかれ腕の一本くらい持って行かれるからな。


 だから、俺はヴィクトリアにくぎを刺しておく。


「見るのはいいけど、近づいて触ろうとするんじゃないぞ」

「は~い。大丈夫です」


 ヴィクトリアから返ってきた能天気な返事に、こいつ本当にわかっているのかと考えながらも、亀の甲羅を回収すべく俺は作戦を考えるのだった。

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