閑話休題49~その頃の妹 新生活の始まり~

「うん、最高だね」

「広い部屋だね」

「個別に部屋もあるし、言うことないね」


 新しい部屋に来ると同時にフレデリカたちが一斉にそうはしゃいで喜びまわっている。


 どうも皆様。レイラです。

 今日、私たちは訓練場の寮を出てこの新居へ引っ越してきました。


 兄貴に紹介してもらった新居はとてもいい物件でした。

 まず場所がとても良い。

 ここは商業区の中にあり、冒険者ギルドととても近いのだ。


 私たちのような低ランクの冒険者の場合、大抵ギルドから離れた所に住んで、朝のギルドの依頼争奪戦に参加するために早起きして家を出るのが普通だ。

 しかし、ここに住んでいればそこまで早起きする必要が無いから生活に余裕ができるのだ。

 とてもありがたい話だった。


 その上、この部屋はとても広かった。


「この部屋、とてもいいよね。リビングもキッチンもあるし、お風呂までついているし。さらに四人に個別の部屋まであるし。最高だね」

「本当だね、マーガレット。私とマーガレットがいた孤児院なんか、個別の部屋どころか小さい部屋に5人くらいで寝ていたからね。それに比べたら、ここは本当に天国だね」


 部屋の広さと個室があることにマーガレットとベラが非常に喜んでいる。


 ちなみにマーガレットとベラは小さな村の同じ孤児院の出身だ。

 二人とも小さいころに魔物の襲撃で両親を亡くしたらしく、共に同じ孤児院で育ったという話だった。


 なお、マーガレットには弟がベラには妹がいるらしく、二人は弟たちのために毎月いくばくかを孤児院に仕送りしているらしい。

 その仕送りを稼ぐために二人は町へ出てきてこうして冒険者になったというわけだ。


 正直凄いと思う。


 私たちの稼ぎなんて知れたものなのにそこから仕送りまでするとか。

 二人が年齢の割にしっかりしているのも納得できるというものだ。


 さて、ここまででこの部屋の立地の良さと部屋の広さの凄さが分かってもらえたと思うが、この部屋の凄さはそれだけではない。


「これだけの部屋が一月銀貨たった6枚で借りられるなんて信じられないね。本当ここを貸してくれたリネットさんのお父さんには感謝だね」


 フレデリカの言う通りだった。

 そうここの部屋を、私たちはとても安く借りられたのだ。

 これだけの部屋だと家賃は普通に考えて月銀貨20枚は下らないはずなのだが、それを銀貨6枚という格安の値段で借りられたのだった。


 貸してくれたのは、兄貴の側室のお父さんだ。

 兄貴の側室のお父さんはこの国でも高名な鍛冶師で稼ぎがよく、その稼いだお金で不動産とかも結構持っているらしかった。

 それで兄貴が相談したところ。


「ホルストの妹だっていうのなら安く貸してやってもいいぜ」


 と、言ってくれたらしい。

 兄貴の側室のお父さんも兄貴のことをかなり気に入っているみたいなので、便宜を図ってくれたというわけだ。


 ということで、私たちは助かったわけだ。

 兄貴のおかげで借りられたというのは癪な話だが、まあ仲間たちも喜んでいるし良しとしておこう。


 さて、それはともかく新居を喜んでいるだけで一日を終わらせてはいけない。

 今日引っ越してきたばかりでまだ私たちは荷物の整理さえしていない。

 このまま家の中が散らかったままだと、兄嫁に怒られてしまう。


 ということで、さっさと荷物の整理をしようと思う。


★★★


「ふうー、やっと終わったよ」


 夕方頃になってようやく荷物の片づけが終わったので一息つくことにする。

 全員でテーブルに着き、買ってきたお菓子とジュースを飲み食いしながら雑談に花を咲かせる。


 ちなみに、今使っているテーブルは兄貴の所からもらってきた物だ。

 このテーブルは以前兄貴が兄嫁と二人で暮らしていた時に使っていた物で、今は使っておらず、マジックバックの肥やしになっていたのを兄嫁がくれたのだった。


「うん、椅子に座ってみんなでのんびりするのっていいよね。エリカさんには感謝だよね」

「ホント、本当」


 椅子に座ってのんびりできることにマーガレットとベラが無邪気に喜んでいる。

 まあ、訓練場の寮にいた時は誰かのベッドに全員で集合してだべっていたので、ちょっと窮屈だったから、その気持ちはよくわかる。


「でも、エリカさんって面倒見の良い人だよね。テーブルの他にも色々くれたし」


 マーガレットたちに合わせてフレデリカがそんなことを言う。


 フレデリカの言う通りだ。

 兄嫁はテーブルの他にも使っていないソファーとベッドもくれた。

 だから今回私たちは中古のベッドを三つ買うだけで済み、引っ越しの費用を大分節約できたのだった。


「後、馬の世話のバイトも続けてもいいって言ってくれたしね。私たち下っ端冒険者だから、いい仕事にありつけるとは限らないから、とてもありがたいよね」


 それと、兄嫁は私たちに馬の世話のアルバイトを続けてもよいとまで言ってくれた。

 これも地味にありがたかった。

 下っ端冒険者ほど仕事の競争率が高いから、仕事がなかった時の保険に仕事をもらえるのは非常に助かるのだった。


「「「本当、エリカさんって優しい人だよね」」」


 三人が色々世話を焼いてくれた兄嫁のことを異口同音に称賛している。

 確かに兄嫁は色々やってくれたので三人の気持ちはわかる。


 でも、兄嫁は私には厳しい。

 だから、つい愚痴ってしまった。


「確かにお義姉さんは優しいけど、私には厳しいのよね」


 すると、すぐに三人から正論が返って来た。


「「「それはレイラがエリカさんを怒らせるようなことをするからだよ。もっとエリカさんに認めてもらえるようにすれば、優しくしてもらえるかもよ」」」

「認めてもらえるって……何をするのよ」

「ほら、ホルスター君たちの子守をするとか」

「馬の世話のついでに家事の手伝いをするとか」

「もっと生活態度を改めて、エリカさんたちを納得させるとか」

「「「色々できることがあるじゃない」」」

「うっ」


 三人の言うことは正論過ぎて何も言い返せなかった。

 悔しいがこれが現実だった。


★★★


 その後、夕飯を作ってお酒を用意して宴会が始まった。

 今日は引っ越し祝いということで、お酒もたくさん買ってきてみんなでワイワイやった。


「イエーイ!!」


 もちろん、私も楽しく飲んだ。

 飲みに飲んだ。

 こういうちょっと嫌なことがあった日は飲むのが一番だ。

 だから意識がなくなるまで飲んだ。


 翌朝。


「うええええ」


 飲み過ぎて頭が痛かった。

 完全に二日酔いだった。


「ほら、レイラ水飲みなよ」

「苦しかったら吐いてもいいんだからね」

「家事はいいから、横になってなよ」

「みんな、ありがとう」


 二日酔いで動けない私にみんなが優しくしてくれてとてもうれしかった。


 しかし、事あるごとに飲み過ぎて二日酔いになる私って、本当自分でも反省しない女だと思う。

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