第330話~妹たちとの大規模訓練終了 卒業式編~

 卒業式が始まった。


 というか、いつの間に卒業式とかするようになったのだろうか。

 俺たちがここで最初に教官をしていた時にはそんなことしていなかったのにな。


 まあ、でも悪いことではないと思う。

 人生の節目ごとの区切りというのは大事だからな。

 そういう意味では卒業式というのは良い行事である。


 それで肝心の卒業式だが、まあ普通の卒業式だった。

 卒業式が行われたのは、前衛職が訓練で使っていた訓練場だ。

 前衛職の訓練が終わり、全員で身支度を整えに言っている間に訓練場の職員さんたちが急いで準備をしてくれたのだった。


 俺たちが身支度から帰ってくると、会場にはパイプ椅子がさっそうと並べられ、壁などにはまん幕まで張られていて、万全の準備がなされていた。


 ちなみに卒業式は前衛職と魔法使いコースの子たちで合同で行われる。

 この二つのコースは合同で訓練することも多かったし、入学と卒業も同時だから一緒に行うのだった。


 さて、それはともかく肝心の卒業式であるが。


「みなさん。ご卒業おめでとうございます」


 卒業式はギルドマスターのダンパさんのそんな挨拶から始まった。

 まあ、ダンパさんはここの責任者で普通の学校なら校長先生みたいなものだからまず最初に挨拶するのは当然と言えば当然だった。


「ここに皆さんが最初に来た時にその実力を拝見させてもらいましたが、私が見る限りその実力は拙いものであると感じました。しかし、先程も練習風景を拝見させてもらったのですが、正直驚きました。これならば冒険者として十分通用する実力になってくれたな。そう感じました。それもこれも、ここ数か月皆さんが一生懸命訓練した成果が結実したのだと思います。とても素晴らしいことです。この調子で卒業後もご活躍されることを祈っております。では最後にもう一言。みなさん、ご卒業おめでとうございます」


 そんな感じでダンパさんの挨拶は終わる。

 パチパチ。

 すると静かな拍手が起こる。

 俺たちの時とは異なり厳粛な雰囲気の拍手だった。


 まあ、さすがに卒業式の場で騒ぐのもどうかと思うからこれでいいとは思う。


 さて、ダンパさんの挨拶が終わり卒業式は次の段階へと移る。


★★★


「それでは、頑張った皆さんにギルドからお祝いの品が贈られます。今から配布しますのでお受け取りください」


 ダンパさんの挨拶が終わった後は訓練生たちに卒業祝いの粗品の贈呈が行われる。

 これも俺たちが始めた当初にはなく、最近始められたことだという。


 まあ、粗品と言っても大したものではない。

 雑務にも使える小さな短剣が一本もらえるだけだ。

 正直お気持ち程度の物だ。


 それでも初心者の冒険者たちにはありがたいものだろう。

 屋外で肉や野菜を切ったり、ロープを切ったり、魔物の皮をはいだりと色々と使い道があるからだ。


 粗品の贈呈は俺たちを始め教官たちで手分けして行った。


「卒業おめでとう」


 そう言いながら訓練生一人一人に渡していく。


「ありがとうございます」

「ああ、卒業後も頑張れよ」


 俺も一人一人と握手をしながら渡していく。

 訓練生たちは皆誇らしげな顔をしていた。

 厳しい訓練を潜り抜けてきたという自信がそういう顔にさせているのだと思う。


 そんな感じで大体30分で粗品を配り終える。

 これで、卒業式の日程は大体終了だ。


 最後にもう一度ダンパさんがこう宣言して卒業式は終了だ。


「それでは、これで卒業式は終わりとなります。この後はささやかな食事を用意していますので楽しんで行ってください」


★★★


 卒業式の後はレセプションパーティーが行われた。


「うわー、ごちそうだ!」


 テーブルの上にたっぷりと並べられた料理を見て訓練生たちが喜んでいる。

 ギルドの予算ではあまり訓練生たちを腹いっぱいにできそうな感じではなかったので、俺がポケットマネーを足して訓練生たちの腹が膨れるようにしておいたのだ。


 越権行為な気もしたが、今回は俺たちも講師として大分手伝ったし、特別だ。

 ダンパさんも何も言わなかったし、問題はないと思う。


「さて、皆さん、お待たせしました。パーティーの準備ができましたので楽しんで行ってください」


 ダンパさんの挨拶でパーティーが開始されると。


「ワー、飯だああ~」

「ごちそうだああ~」


 訓練生たちがごちそうに群がっていく。

 若くていつも腹ペコの訓練生たちだからとても食いつきがいい。

 ドンドンとテーブルの上の食い物が消費されて行く。


 いいぞ。若いんだからもっと食え!


 俺がそう思って見守っていると、俺の横から恨めしそうな声が聞けてくる。


「ああ、羨ましいです。ワタクシももっと食べたいです」


 もちろん声の主はヴィクトリアだ。

 今回のレセプションパーティーは訓練生の子たちのために開かれるものだ。

 だからヴィクトリアにはこう言っておいたのだ。


「お前は食べ過ぎるんじゃない」

「……しょうがないですねえ。わかりました」


 渋々ヴィクトリアは了承したものの、実際に食べ物が目の前にあるのを見ると我慢できなくなってきたのだろう。

 羨ましすぎて心が壊れそうなのか、顔が辛そうに歪み始めた。

 その変化自体は見ていて面白かったが、同時にちょっとかわいそうな気がしてきた。


 なので、こう言ってやる。


「今、王都のとあるホテルでは立ち食い形式の食べ放題ディナーショーとかいうのが流行っているらしい。何でも、劇の生演技をやっている目の前でご飯が食べられるショーらしい。今度、二人で王都へデートへ行って王都をブラブラした後、それへ行ってホテルで一泊してこよう。だから、今日の所は我慢してくれ」

「本当ですか?そんないい所へ連れて行ってくれるんですか?」


 俺の提案を聞いてヴィクトリアの目が輝き始めた。


「ああ、本当だとも。一緒に行ってたくさんご飯を食べよう。それでいいだろ?」

「はい!もちろんです!」


 ということで、今度ヴィクトリアとデートすることが決まった。

 たまに嫁たちと個別にデートに行くのは楽しいので、俺的にも楽しみだ。

 帰ったら早速調べてホテルを予約しようと思う。


★★★


「お兄ちゃ~ん」


 俺がそうやってヴィクトリアと今後の予定を話し合っていると、妹のやつが寄って来た。

 正直あまり話したくない気分だったが、皆の目の前なので無視できなかったので、話だけは聞いてやることにする。


「何の用だ?卒業祝いをくれとかいうのならやらんぞ。この前、武器とか買ってやったからな。もうこれ以上は援助はないぞ」

「チッ。何よ!ケチ!」


 どうやら俺の予想通り妹の目的はお祝いだったらしく、ほとんど周囲に聞こえないくらいの小さな声で俺に悪態をつきやがった。

 もちろん俺が聞き逃すわけがなく。


「お前、今ケチとか言わなかったか?」


 そう聞き返してやる。

 すると、俺に聞かれていないと思い込んでいた妹のアホが慌てだす。


「な、何の話かな?私はそんなこと言っていないけど」


 下手な作り笑いで笑ってごまかそうとしやがる。

 ここで徹底的にシメてやってもよかったのだが、おめでたい席なので見逃してやることにする。


「そうか。ならばいい。それで、他に用がないんなら向こうへ行け!」

「待って!そうじゃないの?お兄ちゃんに一つ聞きたいことがあるの。前にここを出た後のアパートの世話をしてくれるっていう話だったじゃない。あれはどうなったのかと思って聞きに来たの」

「ああ、あれか」


 確かに妹のチームに部屋の世話をしてやる約束をしていた。

 そして、その件はリネットのお父さんに相談してすでに物件も確保してあった。


 俺は約束は守る主義だからな。

 その辺のことはちゃんとしてある。


 それに妹のやつはともかく、妹のチームの子たちは良い子揃いだからな。

 俺も嫁たちも家の世話くらいはしてやりたかったので、抜かりなくやっている。


「安心しろ。お前たちがお気に召すような家をちゃんと用意してやっている。明日にでも案内してやるから、俺の家に来い」

「わかった。そうする」


 妹との話はこれで終わりだった。

 話が終わると妹のやつはさっさと去って行った。

 本当、物欲旺盛な妹で困ると思ったが、俺は何も言わずに妹を見送るのだった。


★★★


 その後しばらくしてレセプションパーティーも終わり、卒業式もお開きになったのだが、ここで最後のサプライズが俺たちを待っていた。


「最後にホルスト先生たちを胴上げさせてください!」


 そう訓練生たちが申し出てくれたのだった。

 もちろん俺たちはこれを受けた。


「ホルストさん、バンザ~イ」

「リネットさん、バンザ~イ」

「エリカさん、バンザ~イ」

「ヴィクトリアさん、バンザ~イ」


 次々と訓練生たちが俺たちを胴上げしてくれる。

 正直気持ちよかった。

 自分が手塩にかけて育てた生徒たちに胴上げされるのがこんなに良いものだとは思いもしなかった。


 さて、俺たちの胴上げの終了と同時に卒業式は終わりだ。


「みんな、頑張れよ!」


 最後に訓練生たちにそう別れの挨拶をした後、俺たちは大規模訓練場を出るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る