第327話~ホルスター、パトリックの仔馬をもらう~

 魔物たちの討伐戦が終わってしばらくは休んだ。

 訓練生たちが討伐戦に動員されたので、戻ってくるまで大規模訓練場は開店休業状態だ。


 これは仕方なかった。

 訓練よりも差し迫った魔物の脅威への対処の方が優先だからな。

 それは俺たちや冒険者の活躍のおかげで終わったわけだが、まだ残って後片付けをしている訓練生もいる。

 それが終わるまで訓練は一旦休みだ。


 ということで、教官をやっている俺たちものんびりする。


「さあ、皆出かけるぞ!」

「「「はい」」」


 俺の宣言に嫁たちが元気よく返事する。

 久しぶりに家族で出かけるので皆もうれしいようだ。


「パトリック、頼むぞ」

「ブヒヒヒヒン」


 パトリックを馬車に繋いで一撫でしてやってから家を出る。

 そして、町を出て街道を少し歩いた後、誰もいないのを確認してから。


「『空間操作』」


 一気に目的地へと飛ぶ。


★★★


「ここへ来るのも久しぶりですね」


 ヴィクトリアが目の前に広がる牧草地を見てそんなことを呟く。


 ここはエリカの実家ヒッグス家が運営する牧場。

 ここへ来たのはパトリックの仔馬たちが大分大きくなったというので見に来たのだった。

 見ると、パトリックの三頭の子供たちはすでに母馬たちとは違う柵の中で暮らしていた。


「「「モグモグ」」」


 のんびりとした雰囲気で三棟並んで牧草を食べていた。


「「「かわいいです!!!」」」


 その光景を見て興奮した嫁たちが仔馬たちに近づいて行ってなでなでし始める。

 三頭の仔馬たちは嫌な顔一つせず嫁たちの行動を受け入れ、撫でられるがままにされている。


 その嫁たちの行動をホルスターと銀が指をくわえて羨ましそうに見ている。


「おい、こっちへ来い」


 俺はそう言いながら二人を俺の肩に乗せてやると、そのまま仔馬たちに近づいて行く。


「ホルスターちゃん。お馬さんかわいいね」

「そうだね。銀姉ちゃん」


 すると二人も仔馬たちを触り始める。

 とても仔馬たちのことを気に入ったのか二人とも一生懸命に仔馬たちのことを撫でている。


 嫁たちとホルスターたちが仔馬を愛でる光景。

 とても牧歌的でいい光景だなと思う。

 これが見られただけでも今日ここに来た甲斐があるというものだ。


 ずっとこのままこうしててもいいかなとも思ったが、そこはまだ人に完全になれていない仔馬である。

 撫でられ続けるのに飽きてきたのか、急に反撃に出てきた。


「ギャー」


 突然、ヴィクトリアが仔馬たちにべろべろと舐められ始めた。

 そのザラザラとした馬体の割には大きな舌でヴィクトリアの顔を執拗に舐めている。


 動物の世界では舐めてもらったら、舐め返すというのは良くある話だ。

 仔馬たちにしてみれば撫でてもらったお返しのつもりなのかもしれないが、舐められたヴィクトリアの方はたまったものではない。

 くすぐったそうに顔を歪めている。


 それを見て他の嫁たちと俺やホルスターたちはササっと退避する。

 動物に舐められるのはかわいくていいのだが、馬ほどの大きな動物に舐められると顔がよだれまみれになるので、後で顔を洗ったりと面倒くさい。

 だから、さっさと退避した。


 取り残されたヴィクトリアはその後も舐められ続け、気が付けばよだれまみれになっている。


「ホルストさ~ん。見てないで助けてください」


 ここまで来るとさすがに耐えきれなくなったのか、ヴィクトリアが助けを求めてきた。

 やれやれ、仕方のないやつだ。


 そう思いながら、俺はヴィクトリアを助けるのだった。


★★★


「それで、ホルスターはこの中でどの馬に乗りたいんだ」


 ヴィクトリアを助けた後、俺はホルスターにそう聞いてみた。


「うーん……パトリシオンがいいな」


 俺の質問にホルスターがそう答えた。

 パトリシオンは葦毛の牡馬で三頭の中では一番最初に生まれた馬だ。

 三頭の中では父親に似て一番体が大きく将来が期待できそうな馬だった。


「そうか。パトリシオンがいいか。どうしてだ?」

「だって、灰色の毛がパトリックに似てカッコいいから」

「なるほど、葦毛の灰色がカッコいいのか。そういうことなら、パトリシオンはホルスターにやろう。ホルスターの乗馬にしな」

「本当?パパ」

「ああ、本当だ。ただパトリシオンはまだ小さいからな。乗れるようになるのはまだ先だぞ」

「うん!」

「それまでは今やっている毎朝のパトリックの世話をちゃんとやるんだぞ。パトリックの世話がちゃんとできるようになったら、パパがホルスター一人でも乗れるように練習させてやるからな。それまで頑張りなさい」

「うん!」


 そうやってホルスターに諭すように言った俺は今度は銀の方を向く。


「銀も馬に乗りたいんだろ?パトリシオンはホルスターが取っちゃったけど、銀はシーザーとアリス、どっちが欲しい?」

「え?ホルスト様、銀にも馬をいただけるのですか?」

「当然だ。銀もホルスター同様頑張って来たからな。だから銀にも馬をあげるよ」

「だったらアリスちゃんが欲しいです」

「ほう、アリスがいいか。なんでだ」

「だってアリスちゃん女の子で優しそうな子だし。顔もかわいいから、この子に乗ってホルスターちゃんと並んで馬を走らせたいなって思ったんです」


 かわいいか。女の子らしい意見だなと俺は思った。


 アリスは鹿毛の雌馬で、母親に似たのかそんなに体は大きくない。

 ただとてもかわいらしい顔をしているので銀も気に入ったのだと思う。

 それに体が小さいと言っても、銀も小柄な方だからちょうどいいと思う。


「よし!それじゃあアリスは今から銀のものだ。大事にしなさい」

「はい!」

「それじゃあ、残ったシーザーは嫁さんたち共用の乗馬にするか」


 シーザーは黒毛の牡馬でパトリシオンより馬体は小さいが、がっしりとした体格の馬だ。

 俺がこの中から馬を選べと言われたら、シーザーを選ぶだろうと思われるような馬だった。


「エリカたちはそれでいいか?」

「「「はい」」」


 俺の意見に嫁さんたちも同意して三頭の馬の割り当ては決まった。


 ちなみにここへ来るまでに嫁さんたちとは相談済みで、三頭のうち二頭はホルスターたちにやることにすでになっていた。

 本当なら嫁さんたちにも一頭ずつあげたかったのだが、三頭しかいないのでこれは仕方ない。


 それにこれはまだ言っていなかったと思うが、パトリックの嫁さんたちは三頭ともすでに次のパトリックの子たちを身ごもっている。

 その子たちが無事に生まれれば嫁さんたちにも一頭ずつ持たせてやることができるので、今は子供たち優先でいいと嫁さんたちは言ってくれているのだ。


「よし、じゃあ決まりだな」


 そう言いながら俺はホルスターと銀の頭を撫でる。


「それじゃあ、この仔馬たちが家に来たらホルスターと銀はちゃんと世話をするんだぞ」

「「うん」」

「それまでは今やっている毎朝のパトリックの世話をして、馬のことをちゃんと覚えるんだぞ」

「「は~い」」


 現在パトリックの世話は朝夕の二回行っており、朝はホルスターと銀、夕方は妹たちのチームが行っている。


「それではこの仔馬たちがちゃんと人を乗せて走れるようにしてくれるようにおじい様に頼んでおくから、お前たちはそれまで待ってなさい」

「「はい」」


 これで牧場での用事は終わりだった。

 その後しばらくのんびりと仔馬たちを眺めた後、俺たちは牧場を出るのだった。


★★★


 牧場を出た後はエリカのお父さんの所へ寄った。

 ホルスターたちが乗ることになったので、馬の訓練を頼んでおくためだ。


「そういうことなら任せておきなさい」


 と、お父さんは力強く請け負ってくれたので、後は任せておけばいいと思う。


 馬の訓練を頼んだ後はエリカの実家に泊まっていき、食事をしたり、ホルスターたちと遊んだりして楽しく過ごすのだった。


 こうして俺たちの束の間の休暇は終わったのだった。

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