今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、なぜかおまけで女神を押し付けられる~
閑話休題48~その頃の妹 不幸って幸せなときに限ってやって来るよね~
閑話休題48~その頃の妹 不幸って幸せなときに限ってやって来るよね~
「ふふふ、儲けた、儲けた」
レイラです。
私は今回の魔物の討伐で得た報酬を見てほくそ笑んでいた。
「ひい、ふう、みい……全部で銀貨25枚もある。やったあ!ぼろ儲けだ!」
私は手に入れた銀貨を胸に抱き、そのまま天井を向いてベッドの上に寝ころび大はしゃぎする。
報酬の中身は魔物退治と魔物の肉や素材の分配金、それに後片付けのアルバイト料が合計で20枚。
それと城壁の所でも兄貴の馬の世話を欠かさずしていたので。
「お前たち、よくやってくれたな」
と、ボーナス込みで一人銀貨5枚もくれたのだった。
銀貨25枚という思わぬ大金を手に入れた私は、銀貨を抱きしめながら色々妄想する。
「ああ、商業区の屋台のクレープ食べたいなあ。普段着も何着か新しいの欲しいし、コスメも欲しい。後、髪もいい感じに伸びてきたから切りそろえに行きたいなあ」
そんな風にお金の使い方を考え、悦に浸っていた私をフレデリカが現実に引き戻しに来る。
「ダメだよお、レイラ。欲しい物を買う前に借金返さなきゃ。お兄さんの奥さんにきつく言い渡されていたじゃない。それに城壁の所でもお兄さんに『今回で返してみせる』って大口叩いてたんだから、全然返さなかったりしたら、お義姉さん激怒するよ」
「うっ」
私は思い出したくも無い事を思い出した。
確かに私は兄嫁のエリカにきつく言われている。
「いつまでギルドに借金しているつもりですか!無駄遣いして浪費するくらいならさっさと返済してしまいなさい!」
この前兄貴に装備品をたかったとき以来、頭に角を生やした兄嫁にそう言われ続けているのだった。
こうなったら私は兄嫁の言うことに逆らえない。
「あなたが無駄遣いしないようにギルドに口座を作っておきましたからね」
私は兄貴の家で馬の世話をして稼いだお金の内、生活費以外のお金はこの口座に強制貯金させられている。
ギルドの口座の開設には厳しい審査があるので、普通なら私のような低ランクの冒険者では口座など作れないのだが、そこはSランク冒険者の兄嫁。
「私が保証しますので」
と、ギルドに掛け合って口座を作ってしまったのだ。
本当忌々しい兄嫁だ。
おまけに作った口座の通帳は兄嫁に取り上げられてしまい私は自由に使うことはできなかった。
「私は子供じゃないんですよ!」
と、一応抗議してみたものの。
「何を言っているのですか!お金があったらあるだけ使う。子供にも劣るではないですか!」
そう正論で反撃された私は黙り込むしかなかった。
「ああ、このお金。自由に使いたいよお。ああ、兄嫁の鬼!」
私はお金を抱きしめながらそう駄々をこねてみるが、それもフレデリカにツッコまれてしまう。
「鬼とか、兄嫁さんに失礼だよお。兄嫁さんとても優しいじゃない。レイラの口座だけじゃなくて私たちの分の口座も作ってくれたし。おかげでうちのチームも信用が上がって、依頼を受けやすくなるらしいじゃない。それにレイラに無理矢理貯金させているのもレイラのためを思っての事じゃない。あんまり文句ばかり言っていると、レイラ、罰が当たるよ」
「うっ」
フレデリカにまたも正論を言われた私は何も言い返せなかった。
そして、私はまたそのまま寝ころび、名残惜しそうにお金を抱きしめ続けるのだった。
★★★
その翌日。私は兄嫁に伴われて冒険者ギルドに向かった。
「それでは銀貨22枚お預かりしますね」
私は今回稼いだ銀貨25枚のうち銀貨22枚を没収されて強制的に口座に入金させられた。
「これで、預金額はいくらになりましたか?」
「これで銀貨35枚ですね」
「ではそのうち銀貨30枚をこの子の借金の返済に充ててください」
「畏まりました」
ギルドの職員のお姉さんはそう言うと席を立ち、返済の手続きに行った。
「これで借金の残りは銀貨15枚ですね」
兄嫁がそう私に声をかけてくる。
「ええ、そうですね」
兄嫁に対して私は気の抜けた返事をする。
『銀貨25枚-銀貨22枚=銀貨3枚』。
あれだけ頑張ってこれだけしか残らなかったのだから。
とても大ショックだった。
「何を落ち込んでいるのですか。借金の残りが銀貨15枚まで減ったのですからもっと喜びなさい」
「うん」
兄嫁にそう慰められても私は上の空で生返事をするのみだった。
ああ、私のお金飛んで行っちゃった。
その思いが心を支配し、返済の手続きをしている間ボーっとし続けるのだった。
★★★
「レイラさん、そこの屋台でクレープを買いませんか?」
帰り道、兄嫁にそう誘われた時、私の耳がピクピクと反応した。
「え?本当にいいんですか?」
ここしばらく甘いものを食べていなかった私は、兄嫁の誘いに無い尻尾をブルブルと震わせながらそう尋ね返すのだった。
「ええ、いいですよ。最近はあなたも心を入れ替えて頑張っていますし、フレデリカさんからあなたがクレープが食べたいと言っていたと聞きましたし。ご褒美ということで食べさせてあげます」
「ありがとうございます」
おごってくれるというのなら私は遠慮する気はない。
嫌いな兄嫁だが、私は後をとことことついて行き、クレープを注文する。
「はい、お嬢ちゃんどうぞ!」
屋台の店主さんが、渡してくれたクレープを見て我慢できなくなった私は早速がっつく。
久しぶりにクレープはとてもおいしく、私は天へも上るような気がした。
「さあ、他の子たちにも食べさせてあげなさい」
帰り際にうちのチームの子たちへのお土産のクレープも買ってくれた。
さすがの私も自分だけおいしいものを食べて仲間に悪いかなと思っていたので、この配慮はありがたかった。
「ありがとうございます」
そうお礼を言って兄嫁と別れた。
「ルンルンル、ルン」
上機嫌の私は鼻歌を歌いながら急いで帰った。
すると、そんな私を突然悲劇が襲った。
「ギャー」
浮かれて足元に注意が行き届いていなかった私は、道端に転がっていた馬の糞を踏んでしまったのだった。
最悪だ。
町の中って案外馬の糞が多い。
当たり前だ。今日も大量の人や物資を輸送するために多くの馬車が行きかっているのだから。
馬は人間と違って所かまわず糞をするし、馬の所有者も大量の物資を迅速に運ばなければならないから一々糞を回収したりしないし、町の人たち所有者が一々糞を回収したりするとそのせいで物流コストが上がって物価に反映されて自分たちが困るとわかっているのでそれを良しとしている。
だからギルドの町の清掃の仕事には馬の糞の掃除が含まれており、その費用をまかなうために馬の所有者は馬の所有税を払って終わりということに世の中の仕組みとしてなっている。
私も以前はそういう仕事で食いつないでいたこともあるし、兄貴も馬の税金を支払っていたはずだ。
なので、私も町中に馬糞が落ちていることに文句はない。
そんなわけで町中には馬糞が転がっており、普段なら私も気を付けて歩くのだが、今日に限っては浮かれて注意力が散漫だったのだ。
だから靴が糞まみれになってしまった。
しかも、私が今日はいていた靴は前に兄貴に装備品を買ってもらった時に一緒に買ってもらった替えの靴で、今日おろしたてのやつだったのだ。
「本当、ついてないよ~」
私は自分の不注意とよりにもよって気分が良い時にやらかしてしまった自己の運の無さに涙するしかなかった。
ちなみに帰ってそのことをみんなに報告すると。
「「「レイラって、本当にドジだよね」」」
と、異口同音に言われてしまった。
そんなズバリ言わなくてもと思ったが、その後、仲間たちは。
「「「私たちが洗ってあげるから、レイラはゆっくりしていなよ」」」
そう言いながら私の靴をきれいに洗ってくれたので、何も言い返せなかった。
というか、皆ありがとう。
こんな惨めな私に優しくしてくれて。
……しかし、私ってどうしてこんなについていないんだろう。
幸せを味わっている時に限って何か不幸が起きてしまう。
ここは神殿へでも行ってお祈りでもしておくべきなのだろうか。
みんなが洗ってくれてきれいになった靴を見て、私はそんなことを思うのだった。
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