第326話~魔物たちを動かした黒幕は誰だ?~

「ダンパさん、あれを見てください。あれがキメラです」


 俺はダンパさんを呼んでテレスコープを覗かせてキメラの姿を見せる。


「あの魔物は何だ!魔にホルスト殿に聞いたのと同じ山羊の頭にドラゴンの鱗、翼に尻尾まで持った奇妙な魔物だな」


 ダンパさんもその姿を見て驚愕している。

 俺はさらにダンパさんに説明する。


「あいつから魔物たちに対して殺気が放たれています。多分、あいつが魔物たちに恐怖を当てて魔物たちをダンジョンから追い出して、今回の騒ぎを引き起こしているのだと俺は考えています」

「何!?それは本当なのか?」

「ええ、多分。ということで俺は一っ飛びしてあいつを始末してきます」

「でも、あいつが黒幕という言うのなら捕えて調べた方がいいのでは?」

「それは止めといたほうがいいですね。あいつは強い上に、再生能力も高いので捕えるのは難しいでしょうね。それに喋りはしますが、何を言っているのかよくわからないので尋問とかも無理ですね」

「そうか。それだと始末するしかないだろうね」

「はい、それじゃあサクッと倒してきますね。『重力操作』」


 ダンパさんにそう言い残すと、俺はキメラを倒すためにキメラの所へ飛んでいくのだった。


★★★


 一分も経たないうちに俺はキメラの上空へと到達する。


「今日は遠慮しないぞ!」


 今日は遠慮せずに強力な攻撃をぶちかましてやることにする。

 前にダンジョンで戦った時には強力な攻撃をしなかった。

 狭いダンジョンの中だから俺が本気の強力な攻撃を放てば、最悪ダンジョンが崩れて生き埋めになるからだ。


 しかし、ここは屋外で巻き添えになるような住人もいない。

 冒険者たちとも離れているのでそっちにも被害は及ばない。


 ということで一気にケリをつけることにする。


「『神強化』、『究極十字斬』」


 まず必殺剣を使って攻撃して行く。

 何せ邪神プラトゥーンの眷属である4魔獣でさえ倒してしまえるような俺の必殺剣だ。

 キメラ程度などあっという間にバラバラになる。


 ただバラバラにされてもキメラからは生命反応は消えていない。

 なのでトドメを刺しに行く。


「『魔法合成 『天爆』と『天火』の合成魔法『天壊』」


 強力な攻撃魔法で燃やされてようやくキメラの生命反応が消える。


「これで今回は終わりかな」


 キメラを消滅させたと確信した俺はホッとして一息つく。

 そして戦場の方を見ると、こっちも大分魔物の数が減っていてあと一息という所になっていた。


「さて、それじゃあ壁に帰るか」


 ということで、魔物の討伐もおおむね完了したことだし、俺は愛する嫁たちの所へ帰るのであった。


★★★


「ホルスターに銀。迎えに来たぞ」

「パパ、ママ、お帰りなさい」

「皆様、お帰りなさいませ」


 魔物たちの討伐が完了すると、後始末は冒険者ギルドに任せて俺たちはさっさと帰宅した。


「さあ、皆さん余すことなく魔物を回収してくださいね」


 冒険者ギルドと組んでいる商業ギルドの支配人のマットさんが連れてきた作業員並びに、戦場に残っているまだ稼ぎたいという冒険者たちを雇って魔物の回収をしていたから、数日であの周辺は魔物の肉片一つ残らずきれいになることと思う。


 さすが抜け目のないマットさんだ仕事が早い。

 安心して任せておけた。


 さて、家に帰った俺たちは一休みした後、エリカの実家に預けておいたホルスターと銀を迎えに行った。

 子供を戦場に連れて行くのは俺たちも嫌だったので、エリカのお父さんの所へ預けて行ったのだった。

 それで戦いが終わった後、こうして迎えに来たというわけだった。


「やあ、よく来たね」


 お帰りなさいしてくれたホルスターと銀を撫でていると、エリカのお父さんが出てきて出迎えてくれた。


「ああ、お義父さん。こんにちは。いつもホルスターや銀を預かっていただいてありがとうございます」

「いや、全然構わないよ。というか、むしろもっと遊びに来させなさい。その方が僕も妻もうれしいしね。今ではホルスターと一緒に遊ぶのが一番の楽しみなんだ」

「あはは、そうですね。もうちょっと遊びに行かせる回数を増やすようにします」

「ああ、頼むよ。それよりもここへ来たということは仕事の方はもう終わったんだろう?だったら今日はうちへ泊って行きなさい」


 お父さんがそう熱心に誘ってきたので、俺たちは泊って行くことにしたのだった。


★★★


「うわあ、久しぶりの御馳走おいしかったですう」


 夕食を食べた後、腹いっぱいになったヴィクトリアが膨れたお腹をさすりながら満足げに笑っている。

 俺とヴィクトリアとリネットは今三人でエリカの屋敷のテラスでのんびりとお茶を飲んでいる。


「ママ、ママ、絵本呼んで」

「いいですよ」


 ホルスターにそうせがまれたエリカは屋敷のリビングでホルスターと銀に絵本を読んでやっている。


「エリカが本を読み終わったら、次はおばあちゃんとおじいちゃんの番ね」


 エリカのお父さんとお母さんはエリカが読み終わったら次は自分たちの番だとばかりに側で待機していた。

 とても微笑ましい光景で、俺的には安心できるのだった。


 それはそれとして、俺たちはお茶を飲みながら今回の戦いの最後に出てきたキメラについて話している。


「しかし、そのキメラって怪物。何なんだろうね。突然現れて魔物を追い立ててスタンピードを起こさせるなんて。まるで牧羊犬が羊の群れを追っているみたいだね」

「キメラが自然に発生するとは考えられないので、誰かが造り出したのは間違いないんですけどね。ただ、製造主が誰でどこで造られているのかは不明ですけどね」


 そう言いあいながら、何か通じ合うものがあったのか二人は何やらうんうんと頷き合っている。


「製造主は誰だかわからんが、その製造主が今回の黒幕で間違いないんだろうな。となるとまた今回と同じようなことをしかけてくる可能性はある。その前に何とかしたいものだな」

「そうですね」

「その通りだね」


 俺の意見に二人が賛成してくれた。

 今回のようなことが続けばまた一般人に被害が出るし、俺たちも次の地脈の封印に行くどころではなくなってしまうからな。

 だから早めに片づけたい問題だった。


「さて、どうすべきかな」


 問題解決のため、どうしようかと俺は思案を巡らし、この日の夜はふけていくのだった。


★★★


 一方その頃。

 某国某建物、神聖同盟の盟主の部屋では盟主と部下が話し合っていた。


「キメラ一番体は、うまく成長せず細胞が消滅。二番体は体の生育には成功したが脳のコントロールがうまく行かず逃亡、行方不明か」

「そのまま生体反応も消えたので消滅した可能性が高いです」

「それで三番体でようやく脳のコントロールにも成功し、王国で一騒ぎ起こせた。そういうことだな」

「はい、その通りでございます」

「そうか、よくやった!これで世界中に混乱を起こせるな。それで四番体以降の製造計画はどうなっている?」

「はい、それがかなり苦戦しておりまして。前にブラッドソードの作成に失敗したのが響いておりまして。次の素体の完成には数か月かかると思われます」

「そうか。まあ、仕方ないな」


 普通なら部下に対して小さな失態でも怒鳴る盟主であったが、今日は静かだった。

 どうやらキメラ計画が一部成功したことで気分が良いようだった。


「それよりも、キメラの件は良いとして本命の方もうまく行っているのであろうな」

「はい、もちろんでございます。そちらも順調でございます」

「ならばよい。励めよ」

「はい」


 これで二人の会話は終わりだった。

 一礼すると部下は盟主の部屋から出ていく。


 部下が出て行った後、盟主は不敵に笑う。

 何もない虚空に向かって笑う。

 その笑いはこれから始まる出来事を想像させる不吉な笑いだった。

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