第323話~魔物の群れを退けて、避難民たちを救出せよ!~

「『天土』、『天風』、『重力操作』」


 現地に到着した俺は、『天土』の魔法で次々と巨大な石の塊を生成し、それを『天風』の魔法で立方体に成形し、『重力操作』の魔法で規則正しく並べていく。

 石と石の間にカミソリ一枚入る隙間の無い完璧な石壁だ。


 こうやって頑丈な壁を作っていく。

 以前同じような壁を造成したときには、もっと雑で粗末な壁しか造れなかった。


 ここまでできるようになったのはヴィクトリアのお母さんに修行をつけてもらったからである。

 以前ならこんなことをしていたら魔力切れで倒れていたはずだ。

 本当ここまで鍛えてくれたヴィクトリアのお母さんには感謝しかない。


「『精霊召喚 土の精霊 風の精霊』」


 俺が壁を造成している一方で、ヴィクトリアは壁の前に堀を掘っている。

 空堀だが結構な深さの堀なので、落ちたらタダで済まないと思う。


 もちろんヴィクトリアだけでなくリネットとエリカも大活躍だ。


「よし!皆行くよ!」


 リネットは頑丈な前衛職の連中を引き連れて近くの山まで行き、木を伐採してきている。


「おりゃああ」


 リネットが本気を出せば、どんなに太い木でも一撃で切り倒せてしまう。


「うんしょ、うんしょ」


 それを前衛職の連中がロープで引っ張って壁の所まで運ぶ。


「『風刃』、『風刃』」


 さらにそれをエリカや魔法使い部隊の子たちが魔法で加工し、壁の上の施設や壁の後方の休憩場所等の設備用の資材として使用するのだった。

 もっとも設備の建設とかまでは俺たちもできないので、そっちは一緒に連れてきた大工さんなど専門の人に任せている。

 こんな調子で防衛施設の造成は順調に進んで行った。


★★★


「さて、お前ら行くぞ!」

「はい!」


 防衛施設の造成があらかた終わった後、俺たちは十数組の冒険者たちを引き連れて避難民の救出作業へ向かった。

 魔物軍団の到着までには数日を要するし、まだまだこっちへ向けて逃げてきている避難民も多い。

 しかもその避難民たちは魔物の群れから逃げるようにこっちへ向かってきているので、非常に危険な状態だ。


 ということで、魔物が到着するまでの時間、できる限り救出作業に向かう。


「大丈夫ですか?」


 10分も行かないうちに早速一組の避難民を見つける。

 若い夫婦で小さい女の子の手を引いて必死に逃げているようだった。

 所々衣服が破れていてケガをしている。


 俺はすぐさまヴィクトリアに命令する。


「ヴィクトリア!」

「ラジャーです!『範囲初級治癒』」


 たちまちヴィクトリアが家族の傷を治してしまう。

 傷が治って落ち着いたところで、俺は家族に声をかける。


「すぐそこに急遽造った防衛用の壁がありますので、そこまで避難すれば一安心ですよ」


 そう言いながら携帯食を渡し、冒険者を一人護衛に付けて壁まで急がせる。


「助けていただいてありがとうございます」


 その親子は何度も頭を下げながらお礼を言うと後方へと下がって行った。

 こんな感じで俺たちは避難民を助けながら前へ進んで行くのだった。


★★★


「ホルスト君!あそこ!」


 しばらく進んだところで前を警戒していたリネットが大声で叫ぶ。

 リネットが指さす方を見ると避難民たちが魔物の群れに襲われているのが確認できた。

 魔物の群れは50匹ほど、避難民たちは100人ほどいた。


 一見数の上では避難民たちの方が多いように見えるが、魔物たちが武装しているのに対して避難民たちはほとんど武装していない。

 せいぜい棍棒や素人が造ったようにしか見えない木の槍程度だ。


 おまけに避難民の方は半分以上がか弱い女子供だ。

 それを守りながら戦っているのだから形勢は圧倒的に不利である。


「行くぞ!」

「おう!」


 俺はリネットと10名ほどの冒険者たちを引き連れて魔物の群れに突撃する。

 魔物の群れはゴブリンが20にオークが30という構成だった。


「『天風』」


 風の魔法でまず弱い方のゴブリンから始末する。


「キキイイイ?」


 俺の魔法を受け、20体のゴブリンが一瞬で全身バラバラになり、肉塊と化す。


「オークの方はあんまりバラバラにするな!これから先まだまだ避難民も応援の冒険者たちも増える。オークはそういう人たちの食料になる。急所を一突きにして倒せ!」


 そう言いつつ、俺は避難民と戦闘中のオークに突っ込み、その心臓を一突きにする。


「ブホッ」


 オークが一瞬で絶命する。


「おりゃあ」


 その横ではリネットが斧を振るって一瞬でオークの首を跳ね飛ばしている。


「はあああああ」


 俺たちがそうやっているのを見て、冒険者たちも次々にオークを倒していく。

 一緒に突撃させたのはCランクの冒険者なので複数人でかかればオークなど簡単に倒せてしまう。

 もちろん俺とリネットも一撃必殺の攻撃を繰り出してオークをどんどん始末して行く。


「ヒイイイイ」


 状況が不利になったのを見てオークたちが逃げ出そうとするが。


「冒険者の皆さん。敵を一匹も逃がしてはなりませんよ!弓隊、魔法使い隊攻撃してください」


 後方に控えていたエリカが、冒険者たちに指示を飛ばし、逃げ出そうとしたオークたちを仕留めていく。

 こうして5分も経たないうちに俺たちは魔物の群れを全滅させたのだった。


★★★


 魔物の群れを退けた後は避難民たちの救助作業だ。


「『範囲中級治癒』、『範囲体力回復』」


 ヴィクトリアが魔法をかけ、傷を癒し、体力を回復させる。

 そして後方に待機させていた空の馬車を呼ぶ。


「さあ、そんなに早く動けない子供や病気の人はこれに乗って、後方の防衛施設まで下がってください。その他の人は悪いけど歩いてください。食料も渡しますのが、落ち着いて食べている暇はないと思うので、歩きながら食べてください」


 そして子供や弱っている人間を馬車に乗せると冒険者を幾名か護衛に付け、後方送りにした。

 本当なら全員を馬車に乗せてあげたいところだが、まだ先は長い。

 他にも困っている避難民はたくさんいると思うので馬車はなるべく温存し、歩ける人には歩いてもらうつもりだ。


「後、これを持って帰ってくれ」

「わかりました」


 そう言って護衛の冒険者に渡したのは先ほどのオークが入ったマジックバックだ。

 持って帰ってすぐさま加工してもらって、食料にするつもりなのだ。


 さて、避難民の避難の手配も終わったしまだまだ行くぞ!


★★★


 結局、三日間の救助活動で七千人ほどの避難民を救出することに成功した。

 魔物に追いかけられている避難民もいれば、森の中に隠れてただ震えているだけの人もいた。


 それらの人々を俺やリネットの生命力感知やエリカをはじめとする魔法使いたちの魔法、ヴィクトリアの精霊たちを使って丹念に探した結果これだけの数を救出することができた。


 もちろん、これで魔物に襲われた人を全員助けられたわけではない。

 それでも七千人分の命、七千人分の人生を救うことができた。

 それだけでも十分に誇らしいことだと思う。


「さあ、壁まで帰って今度は魔物どもを始末するぞ!」


 ということで、次は魔物どもを始末してこの辺りに真の平和を取り戻すのみである。

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