第15章~神聖同盟の企みを粉砕せよ~

第322話~冒険者ギルドの緊急依頼 魔物たちのスタンピードを食い止めろ!~

「おらあああ。休み明けだからって呆けているんじゃねえぞ!もっと気合い入れてかかって来いやあ!そんなことでは魔物と戦った時にやられてしまうぞ!魔物は休み明けだからって手加減はしてくれんのだぞ!もっと全力でやれ!」

「はい!!」


 ヴィクトリアのお母さんたちが帰ってから数日後。


 俺たちは再開された大規模訓練場の訓練に参加した。

 それで、休み明けのせいか動きが鈍っている新人どもに対して、今こうやって気合いを入れてやるべく叱咤激励しているところだ。


 元来人間というのは急に環境を変えるのが難しい。

 訓練生たちも昨日まで休みでのんびりしていたせいか今日は動きが鈍い。


 一般人ならそれでもいいのだが、俺たちは冒険者だ。

 のんびりとしているところに不測の事態が舞い込んで来るなんて日常茶飯事だ。


 そして、冒険者にとって不測の事態とは死に直結するような危険な事態である場合がほとんどだ。

 だから冒険者にとってオン・オフの切り替えというのは重要な技能なのだが、訓練生はまだまだそれができていない。


 だからきつくしごいて、体がその状況に慣れるように訓練してやろうと考えてこうしているのである。

 その甲斐があってか、訓練開始から1時間ほどで。


「おお、お前ら大分動きがよくなってきたな。その調子だぞ」

「ありがとうございます」


 ようやく訓練生たちの動きが通常時のそれに戻って来た。

 これならより強度の強い訓練を施しても大丈夫かなと思い、俺も気合を入れ直して臨もうかなと思った矢先。


「はあ、はあ。ホルスト殿はいるかな?」


 息を切らせながらギルドマスターのダンパさんが訓練場へ駈け込んで来たのだった。


 ダンパさんが息を切らせて駆け込んで来るなんて珍しいな。

 何かあったのか?


 そう思った俺は思わず身構えるのだった。


★★★


「緊急の依頼ですか?」


 訓練場の一室に通された俺たちを待ち受けていたのは緊急依頼だった。


「うん、そうなんだ」


 まだ息が落ち着いていないダンパさんが俺の質問を肯定する。

 そんなに慌てるほどの重大依頼なのか。


「一体どんな依頼なのですか?」

「実はね。ノースフォートレスの町と西の国境の町との間のダンジョンから突然大量の魔物が出現してね。そいつらが暴れまわっているんだ」

「ああ、魔物の暴走。いわゆるスタンピードってやつですね」


 スタンピード。

 魔物や野生動物の群れが暴走する現象だ。暴走した群れは新路上の町や村を襲い破壊していく。

 特に時折ダンジョンから大量に発生する魔物の群れの暴走は厄介で、それによって故郷を失い流民になる人も多かった。

 多分、今教えている訓練生の中にもそういう目に遭った子が何人かいたと記憶している。


「そうなんだよ。ホルスト殿。ここはホルスト殿の力で何とかしてくれないかな。このままだとまた何人もの人が家を失ってしまう」

「もちろん、任せてください。そういう事情なら全力を尽くしますよ」

「そうか。ホルスト殿が引き受けてくれるというのなら、これで一安心だ」

「それで、その魔物の群れはどのくらいの数ですか?数百ですか?数千ですか?」


 俺がその数を言ったのはスタンピードで魔物の群れが出現した場合、そのくらいの数が出現すると聞いたことがあるからだ。

 だが、ダンパさンから帰ってきた返答は俺の想像の遥か上を行くものだった。


「数万と言ったところかな」

「数万?」


 とんでもない数だった。

 それだけの数がいるとなれば、冒険者ではなく軍が行動すべきである。

 なのになんで俺たちに依頼が来たんだろう。


 その点をダンパさんに聞いてみると。


「軍はここ数年来魔物との戦闘で大損害を受けただろう?だから再編中で今は大規模行動ができないらしい」


 確かに俺の知る限りでもノースフォートレス周辺の軍は大損害を受けている。

 数年前には十万の魔物軍に襲来され北部砦が壊滅しかけたし、この前はドラゴンの大軍に襲われてやはり壊滅寸前になっている。

 数年で2回も壊滅しかけたとなれば、力を取り戻すには1年や2年では足りないと思う。


「だから俺たちにお鉢が回って来たと?ただ、さすがに数万の魔物となるとうちのパーティーだけでは手が回りませんよ」

「わかっている。だから、手の空いている冒険者も防衛戦に回すし、他の地域の軍にも応援を頼んでいる。ホルスト殿にはそれらの戦力を使って魔物の軍団を制圧してほしい」

「わかりました。ギルドが支援してくれるということですね。そういうことなら何とかなるでしょう。やりましょう」


 俺はそう言いながらダンパさんと握手を交わす。

 これで契約成立だ。


 その後はダンパさんと細かい打ち合わせをして、討伐の準備を進めるのだった。


★★★


 ダンパさんから依頼を受けてから2、3日はてんやわんやの日々だった。


「急げ!急げ!」


 俺は数百人の冒険者たちを引き連れて西へと急行した。

 魔物の群れがノースフォートレスの町へ到着する前に街道上に拠点を築き、防衛態勢を整えるためだ。

 前にドラゴンの集団と戦った時のような防壁を築き、魔物の軍団と戦えるようにするのが目的だ。


 そして、その途上での情報収集。これも重要な任務だ。

 西へ向かう途中では多くの避難民に出会った。

 そういった人から話を聞いて、現状を探るのも仕事の内なのだ。


「もうすでに十箇所ほどの村や町がやられたそうだ」

「最初はバタバラだった魔物の群れだけど、最近では妙に統制が取れているという話だ」


 そういう情報を仕入れながら進んで行く。


 もちろん、避難民たちへの援助も忘れない。

 彼らは着の身着のままの状態で避難している者が多い。

 このまま逃げても大きな町へたどり着けるかもわからない状態なのだ。


 袖触り合うも他生の縁。


 出会った以上見捨てるのも忍びないし、彼らが死んでしまっては魔物を退治した後の復興作業にも影響が出る。

 幸いなことにうちのヴィクトリアの収納リングにはギルドから預かった大量の物資を入れているので、それを使って助けることにする。


 とは言っても物資は有限なので、大きな町へたどり着ける分を支給する。

 というのも、今現在各地から支援物資が届きつつある状況なので、支援物資が優先的に届く大きな町下辿り着ければ一安心だからだ。


「ありがとうございます。この恩は一生忘れません」


 避難民たちは物資を受け取ると、口々にそうお礼を言いながら大きな町へと向かって行くのだった。


 こんな感じで西へ進むこと百キロ。


「ようやく着いたな」


 目的地に到着した。

 ここはノースフォートレスから西へ向かう街道の中でも道が細く難所として知られている場所だ。

 逆に言えばここに拠点を築けば、魔物進行を防ぐうえで有利になれるはずであった。


「さて、いっちょやるか!」


 ということで俺たちは気合を入れて作業を開始するのだった。

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