第319話~ダンジョン演習講座 キメラ戦決着!ダンジョン演習終了~

「ヴィクトリア!『人造合成生命体キメラ』ってなんだ?」


 戦闘に入る前に一応ヴィクトリアに目の前の怪物について聞いてみる。


「キメラは神が造った生物ではなく、人間が生命に手を加えて自分の都合にいいように造った人造生命体です。神の領域に踏み込もうとする人間の浅はかな考えの産物です。ただ、目の前のキメラも生物の良い所だけを集めて作られた存在で手強いと思います。ということで思い切りやってください」


 と、以上がヴィクトリアの回答だった。

 人間が造った生命?良い所を集めた?

 よくわからないが、強そうなことだけはわかった。


 ということで、今回は自分の能力を確認する暇はなさそうなので、一気に決着をつけることにする。


「『世界の知識』」


 いつものように『世界の知識』で情報を得ようとする、が。


 『人造合成生命体キメラ』

 人の手によって作られた人造生命体。

 目の前のキメラは×××によって作成された。

 弱点は不明。

 生命力も高く打たれ強い。

 しかし、細胞が消滅するレベルで破壊すれば問題ない。

 生命エネルギー感知で反応がなくなるまで徹底的に攻撃しよう。


 ということらしいんだが、伏字や不明な点が結構ある。

 内容も薄いし。

 これはテキスト作成者にもよくわからんということなのだろうと思う。


 まあ、いい。こうなったらがむしゃらに攻撃するとしよう。


★★★


「『神獣召喚 ヤマタノオロチ 『聖域の守護者』発動』」


 本格的な戦闘に入る前に『神獣召喚』で能力の底上げをしておく。

 魔法を使用すると、一瞬ヤマタノオロチのシルエットが空中に浮かび上がり魔法が発動する。


 ヤマタノオロチの召喚効果は特定範囲での戦闘能力の向上。

 ダンジョンのような狭い場所での防衛戦闘に有利な能力だ。

 能力の効果はヴィクトリアたちにも及んでいるので、これで後顧の憂いはなくなったと言ってもよい。


「さて、行くぞ!」


 俺はキメラに向かって突進していく。


★★★


「我の行く手を遮るものは、死ね!」


 俺が近づいて行くと、キメラはそう言いながら攻撃してきた。

 予想通り凶暴で容赦のないやつだった。

 太い腕を振り回して、俺に攻撃してくる。


「ふん!」


 俺は剣を構えてその攻撃を防ぐ。


 うん、重い攻撃だな。

 相手の攻撃は案外強力だった。


 何というかアースドラゴンのようなレア種のドラゴンの攻撃を受けている感じだ。

 確かに土の精霊を倒すとなればこの位の攻撃をできなければお話にならないから、予想内と言えば予想内だ。


 ただ今までの厳しい修行や実戦で培ってきた俺の戦闘能力を超えるものではない。


「おりゃああ」


 攻撃してきたことで一瞬隙ができたキメラのお腹に思い切り蹴りを入れてやる。


「くたばれ!」


 そして完全に隙だらけになったキメラに大上段から思い切り斬撃を食らわしてやる。

 それに対してキメラは両腕を上で組んで防御してくる。

 ザシュ。

 俺の剣とキメラの腕がぶつかり合い、キメラの腕が一本切り落とされその辺に弾き飛ぶ。


 というか今の一撃で両腕を切り落とせなかったのか。

 しかも切り落としたはずの腕からもまだ生命力のようなものを感じるし、そういう点では確かにタフだと思う。


「『天火』」


 俺は切り落とした腕に向かって魔法を放つ。

 やるのなら細胞ごと破壊しろというアドバイスだったのでそれに従ったのと、魔法で塵にできるかの実験を兼ねた攻撃だ。


 ゴオオオオ!


 すると、斬り飛ばされた腕は高温の炎に包まれあっという間に燃え尽きてしまい生命反応も消える。

 どうやら俺の魔法で消滅させることは可能なようだ。


 ということで、戦闘再開だ。


「おのれ、よくも!」


 俺に腕を切り飛ばされたキメラがうめいているが気にせず攻撃する。

 だが、ここでキメラが思わぬ反撃をしてくる。


「うがああああ」


 そう叫ぶと、キメラの肩の形状が変化し、そこにもう一つ口ができる。


「グオオオオオ」


 そして、そこから強力な炎ブレスを放ってきたのだった。


「うほ」


 俺はとっさに盾を構えて防ぐことができたが、危ない所だった。

 こいつ体の形状を変化させたりもできるのか。

 中々すごいことができるんだなと思った。


 ただそれでも俺に敵うわけがない。

 俺も技を使って対応する。


「消えろ!『十字斬』!」

「うがああ!」


 俺の放った十字の剣撃はキメラの体を十字に切り裂き、キメラの体をバラバラに引き裂く。


「おのれ!」


 ただ体を引き裂かれて首だけになってもまだ生きていて、悔しそうにそう呟いている。

 ここまでしぶといと、気色悪いと思えてきた。


 ということでさっさと焼却処分することにする。


「『極大化 天火』」


 さっきより強力な魔法を使い、バラバラになったキメラの体を一斉に攻撃する。


 1分後。


「終わったな」


 ようやくキメラの生命反応が感じられなくなったので、俺は剣を収めた。

 俺に敵う亜相手ではなかったがかなりの強敵だった。

 それに妹たちを守りながらの戦いだったので、彼女たちに被害が及ばないように力をセーブしながらの戦闘だったのでその点も手間がかかった。


 まあ、終わった今となってはどうでもいいけどね。


「さて、それじゃあ、お前ら帰るぞ」


 さて、これでダンジョン演習は終了だ。

 ということで、俺は皆を引き連れてダンジョンから出るのだった。


★★★


「え?そんな化け物が出たのかい?」


 ダンジョンから出た俺はダンパさんにキメラのことを報告した。


「はい。ドラゴン並みに力が強くて炎ブレスとかも吐いていました。それと体も頑丈で中々とどめを刺すのに苦労しました。並の冒険者なら殺されるだけでしょうね」

「それで、その怪物は立派な角を持った山羊のような頭とドラゴンの鱗のような固い皮膚を持っていたと?ホルスト殿のことを疑うわけではないが、そんな怪物が本当にいるのだろうか」

「ええ、キメラっていうらしいですよ。何でも人の手によって造られた魔物だとか」

「造ったって、誰が?」

「不明ですね」

「それに、その怪物はどこから来たんだ?ここのダンジョンは第三層までしかない小さなダンジョンだぞ」

「わからないですね。外から迷い込んだのかもしれないですし、何とも言えません。それよりもギルドマスターとしてはやるべきことがあるでしょう」

「そうだな。安全調査が終わるまでこのダンジョンは進入禁止だな」


 ということで、俺とダンパさんの相談の結果、このダンジョンは当面の間進入禁止ということになった。

 正体不明の化け物が二度と出ないという保証がない以上仕方がない措置だった。


 何はともあれこれでダンジョン演習講座は終了だ。

 この後は数日休みになり、それが終わったら最後に仕上げの訓練をして今回の訓練は終了ということになる。


 ちょっとトラブルはあったが、訓練も一つの山を越えたことで俺はホッとするのだった。


★★★


「お母様、聞きましたか」

「何をですか、ソルセルリ」


 ダンジョン演習講座があった日、ソルセルリとルーナが秘かにこんな会話を交わしていた。


「何でもヴィクトリアが今日行ったダンジョンでキメラを見たそうですよ」

「まあ、キメラを?」

「しかもそのダンジョン第三層までしかない小さなダンジョンなんですって」

「そんな小さなダンジョンにキメラ?これは匂うわね」

「ええ、悪事の香りがプンプンと」


 そう言いながら二人はうんうんと頷き合うのだった。


「それで、どうします?」

「ホルスト君たちに任せておけばいいわ。ホルスト君たちも大分強くなったし。これはホルスト君たちが乗り超えねばならない試練だしね」

「そうですね。私もその意見に賛成です。それに私たちがここにいる間に大分仕事もたまったようで、秘書からは矢のように催促が来ていますしね」

「それじゃあ、ホルスト君たちに任せるということで」


 二人の会話はこれで終わりだった。

 その後は二人してホルストたちがお土産に買ってきたケーキを食べ、二人はのんびりとするのであった。

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