第318話~ダンジョン演習講座 正体不明の怪物 それと、妹よ!こっちが恥ずかしいからあまり頭が悪いことを言わないでくれ!~

 妹たちとのダンジョン探索は順調に進んだ。


「へえ、これがダンジョンか。噂には聞いていたけど、凄い所だね」

「ここって魔物がどこからともなくわいてくるんでしょう?鉱物とかも採掘してもしばらくしたらまたとれるようになるって言うし。一体どうなっているんだろうね」

「それは考えても仕方がないって先生も言っていたでしょ。学者も解明できていないって。偉い人にもわからないんだから私たちにわかるわけがないでしょ」

「しかし、ほとんど金目のものが残っていないね。先に入った子たちが取っちゃったのかな?……って、あれは銅鉱石?ラッキー!もらった!」


 と、妹のパーティーの子たちがぺちゃくちゃと余裕をもって話せるくらいには順調だった。


 ただ、指導役としてはそれを見過ごしてはいけない。

 俺は4人にやんわりと注意する。


「おい!あんまり油断して喋ってばかりではダメだぞ。確かにここのダンジョンはそんなに難易度は高くないが、油断してたらあっという間にやられるようなダンジョンもあるんだ。だから喋っている暇があったら、座学で習ったようにちゃんと警戒してマッピングしながら進まないといけないぞ。わかったか?」

「「「「はい、気を付けます」」」」


 俺に注意された4人は、それでおしゃべりを止め、真面目に作業をするようになった。


 人の忠告をちゃんと聞きいれる。

 中々にできないことだが、これができるうちはこの4人もそれなりにやれるだろうと思った。


★★★


 さて、妹たちとのダンジョン探索も順調に進み、後一か所チェックポイントを通過すれば帰還できるという段階に入って、異変が起こった。


「ホルストさん、第二層から何かが上がってくる足音が聞こえます。この足音は……人間のものではないようです」


 土の精霊を出して警戒していたヴィクトリアがそんな報告を上げてきた。

 俺は、そんなバカな!と思った。


 というのも、ダンジョンという場所は魔物たちの住み分けがきっちりしていて、ある階に生息する魔物が他の階に移動するなど、およそ考えられないことだからだ。


「ヴィクトリア、もう少し詳しく調べられないか?」

「ラジャーです。もうちょっと土の精霊を近づけてみます」


 そう言うと、ヴィクトリアは土の精霊を対象に近づける。

 とは言っても土の精霊は俺たちから離れたところに居るので、ヴィクトリアからの報告以外で様子を確認する術はないんだけどね。


 そんなわけで、ヴィクトリアの報告を待っていると。


「あー。土の精霊がやられちゃいました」


 どうやら偵察に出していた土の精霊がその正体不明の存在によって倒されたらしかった。

 精霊が倒されたといっても精霊は不滅の存在なので、しばらくすれば復活してまた呼び出せるようにはなる。


 が、問題はそこではない。


 今のヴィクトリアが呼び出す精霊はかなり強力な存在だ。

 それをあっさりと倒すということは相手はかなりの強敵ということになる。


「それで、ヴィクトリア、精霊を接触させたことで何か情報を得られたか?」

「はい。対象の存在がぶつぶつと喋っているがが聞こえました。曰く、『外に出るんだ』。そんなことを言っていました」

「それはまずいな」


 本当にまずかった。

 そんなに強くて、しかも土の精霊が接触してきただけでいきなり攻撃してくる奴が外に出たがっている。

 とても放っておけなかった。


 まだ外には訓練生の子たちがいるのだ。

 このままそいつを外に出してしまっては訓練生たちが危ない。


「このまま放置していて外に出られたら訓練生たちが危ない。ここで倒してしまおう」


 ということで、俺はその得体のしれないやつをここで倒してしまおうと考えた。


 ただ、それでも問題がある。

 俺とヴィクトリアだけならどうにでもなるのだが、俺たちの側には妹たちのパーティーがいる。

 彼女たちをなるべく危険な目には遭わせたくない。


 しかし、彼女たちだけで逃がすというのもそれはそれで危険だ。

 ダンジョン内には他にも魔物がいるのだ。

 ここの魔物は弱いのでそう後れを取るとも思えないが、万が一のことがあっては一大事である。

 ここは慎重に行くべきだろう。


 そんなわけでヴィクトリアを手招きで呼び、例のやつをやることにする。


「ヴィクトリア、いつものやつを頼む」

「わかりました」


 そう言うとヴィクトリアは俺に抱き着いて来て、俺の唇にキスをする。

 ここまではいつもの『神意召喚』の儀式だったが、それを見て妹たちが驚いている。


「ちょっと、お兄ちゃん!こんなところで何やっているのよ!」

「キャー、キャー、レイラのお兄ちゃん、大胆だあ」

「こんなの初めて見た」

「あわあわわ」


 ちょっとうるさいぐらい大騒ぎになっている。

 儀式も終えたことだし、俺は鎮火を試みることにする。


「そんなに騒ぐな!これは儀式なんだ。ヴィクトリアはある特殊な強化魔法が使えてな。それを使うためには俺にキスしなくちゃならんのだ。だから、騒ぐな!」


 まあ、本当は魔法ではないけどそう言い訳してみる。

 実際、この後すぐに『シンショウカンプログラムヲキドウシマス』といつもの声が俺の脳裏に響き、さらに俺の体が光りに包まれ目に見える形でパワーアップしている様が分かったので、妹以外の3人は、なーんだ、という感じで黙り込んだ。


 ただ、妹のやつだけはなぜか食い下がってくる。


「そんなキスで発動する魔法なんて聞いたことがない!お兄ちゃんはただの破廉恥野郎だ!お父様に言いつけてやる!」


 こいつはバカなのか?

 俺が人前でいきなりキスしたのに文句を言うだけならまだしも、オヤジに言いつけてどうする気だ?

 オヤジに今更俺をどうこうできる力はないぞ。


 まあ、いい。

 頭の弱い妹は置いといて事態の対処にあたるとする。


「お前が聞いたことあろうがなかろうが、実在するんだからしょうがないだろうが!大体勉強不足のお前が、こういう魔法がない何て断言できないだろうが!お前は魔法のすべてを知っているとでもいうのか?」

「うぐっ。……それはそうなんだけど」


 そう正論をぶつけて妹を黙らせると、俺はヴィクトリアに指示を出す。


「ヴィクトリア、今俺の生命力感知にもそいつが引っ掛かった。もう間もなくそいつはここへ来るだろう。俺がそいつに対応するから、お前は魔法でそいつらを守ってやれ」

「ラジャーです。『防御結界』。『精霊召喚 火の精霊』」


 俺の指示を受け、ヴィクトリアは防御魔法を展開し、精霊を一体召喚し、防御の準備を整える。

 これで準備は万端だ。


「行くぞ!」


 俺は剣を抜き、正体不明の存在に対して備えるのだった。


★★★


「あれは何だ?」


 目の前に現れた正体不明の存在を見て、俺の頭の中が?マークで埋まる。

 相手はそれくらい奇妙な存在だった。


 一応二足歩行で歩いていて人間っぽいが、皮膚は人間のそれではなくドラゴンのように光沢のある鱗で覆われている。

 頭も山羊?のような立派な角の生えた奇怪な頭で、およそ人間のものとは思えない。

 ただ人語を話すらしく、何やらぶつぶつと呟いているのは聞こえてくる。

 後、背中にコウモリのような翼があったり、尻尾があったりとよくわからない魔物だった。


 ただ、ヴィクトリアには心当たりがあるようでこんなことを言っている。


「あれは、まさか『人造合成生命体キメラ』?」


 とか言っている。

 よくわからんが、目の前に現れた以上は戦うのみである。


「『神強化』」


 俺は自分に魔法をかけ、戦いに備えるのだった。

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