第317話~ダンジョン演習講座 よりにもよって、最後は妹のやつと一緒の訓練だ何て…… そして、順調の陰に潜む危険な予兆~

「ゴブリンとコボルトか」


 俺たちの前に現れたのはゴブリンとコボルトの群れだった。

 全部で5匹いる。

 ちょうどこちらの訓練生たちと同じ数だ。


 ということで、ここは訓練生たちに任せてみることにする。


「敵はゴブリンとコボルトの群れで、ゴブリンが3匹コボルトが2匹いる。いざとなったら助けてやるから、お前らだけでやってみろ!」

「「「「「はい」」」」」

「正直言うと大したことない相手だが、油断はするなよ。油断して足元をすくわれたら最悪死ぬこともあるからな。それだけ理解したら、行け!」

「「「「「了解です」」」」」


 ということで、俺に指示された訓練生たちが一斉に散って戦闘配置につく。

 配置としては3人が剣と盾を構えて前に立ち、残りの二人が弓で支援するという具合だ。

 講習で教えたとおりの基本的な配置だが、ゴブリン相手に奇手など用いる必要もないのでこの堅実な布陣で十分である。


「キシャアアア」


 俺たちを見つけたゴブリンたちが突撃してくる。

 何の工夫もなくまっすぐに迎えて来るだけの突撃だ。

 いつもながら単純バカな攻撃だと思う。


 対してうちの訓練生たちは盾を持ちどっしりと構えている。


「シャアアア」


 ゴブリンたちが牙やナイフで襲い掛かって来ても。


「ふん」


 盾できっちりガードして攻撃を防いでしまう。逆にこっちらの防御力にゴブリンたちがひるんだ隙に。


「えい!」


 と逆撃を加えたりしている。さらに。


「当たれええええ!」


 弓役の子たちが放った矢がゴブリンとコボルトに一本ずつ命中し計2体ほど仕留める。


「ヒイイイイ」


 それに焦ったゴブリンたちが逃げようとすると。


「今だ!突撃!」


 とすかさず追撃し、ゴブリンたちをせん滅してしまった。


「お前ら、いいぞ!練習の成果がよく出ているぞ!」


 訓練生たちの活躍を見た俺は彼嵐ことを褒めてやるのだった。


「「「「「ありがとうございます」」」」」


 褒められた訓練生たちも初めて魔物を退治できたことと、練習中は常に厳しく指導していた俺に褒められたことがうれしいのか、満面の笑みで喜ぶのだった。

 こんな感じでダンジョン演習講座は順調に進んで行った。


★★★


「お前ら、中々良かったぞ。この調子で頑張れば、卒業後冒険者としてやっていけると思うぞ」


 ダンジョンから帰ってきた俺は5人組をそうやって褒めてやった。


「「「「「ありがとうございます」」」」」


 それで最後に握手を求められたのでしてやって、彼らとの訓練は終了だ。


 もちろん、まだまだ順番を待っている訓練生たちがいるので次に備えて少し休憩だ。

 冒険者ギルドが用意してくれている補給所へ行く。

 ここには参加者のためにギルドがサンドイッチや唐揚げといった食べ物や甘いジュースなどの飲み物を用意してくれている場所だ。


「どうだった?」


 休憩所へ行くと先に訓練を終えてきたリネットたちがいた。

 なので合流して一緒に食事をとることにする。


「うわああ。おいしそうな食事がたくさん並んでいますね」


 テーブルに置かれた無数の食事を目にした途端、ヴィクトリアの目が輝き始める。

 ここでは野外にテーブルを置いて料理を並べ、そこから好きに食べて良いことになっている。


 え?野外にテーブルを置いてたら風とかが吹いたらホコリまみれになるんじゃないかって?

 その点も大丈夫だ。

 補給所の周りにはまん幕を張り巡らせているから、ちょっと風が吹いたくらいでは食べ物に被害が出ないようにしている。


 それはともかく、食べ物を目にしたヴィクトリアは自分の皿に次々と料理を取っていき、気がついたころには彼女のお皿は食べ物であふれそうになっていた。


 まだ訓練が残っているのにそんなに食べてこの後大丈夫なのか。

 一瞬そんなことを考えてしまうほどの量だった。

 さすがにここまで露骨にやるとなると普段なら、「ヴィクトリアさん、いい加減にしなさい!はしたないですよ」とエリカ辺りが怒る所だが、今日はエリカも何も言わない。


 というのも。


「今日は腹いっぱい食べるぜ!」

「よし!数日分食いだめするぞ!」


 と、激しい訓練でいつも腹を空かせている訓練生たちが、ヴィクトリア同様、皿に盛りに盛って食っていたからだ。


 まあ、彼らは金も無い事だし食える時には食っておけというつもりで食っているのだと思う。

 ギルドもその点を考慮して、多めに食料を用意していた。

 何せ大規模訓練場の食堂のおばちゃんたちまで動員して、すでに大量の食糧が並んでいるにもかかわらず、まだまだ作り続けているくらいだからな。


 だからヴィクトリアが多少食ったくらいでは目立たないので、基本放置しておくことにする。

 ただ一応釘をさしておく。


「ヴィクトリア、食うのはいいが食い過ぎて仕事に支障が出ないようにしろよ」

「は~い。大丈夫です」


 そうヴィクトリアからは元気な返事が返って来たのだが、あまり真剣な感じではなかったので、大丈夫かなと思った。

 まあ、結論を言えば大丈夫だったのだが、本当人をハラハラさせるやつである。


★★★


 その後も訓練は順調に進んで行った。


「「「「「ホルストさん、ありがとうございました」」」」」

「おう、お前らも頑張れよ」


 今も今日5組目の訓練生たちの訓練を済ませてきたところだ。

 昼間飯を食ってから俺とヴィクトリアは4組ほどの訓練生たちの指導を行って来た。

 1組目の訓練生の時みたいに魔物と遭遇したこともあったが、大したことにならずに終わっていた。

 まあ小さなダンジョンで大した敵もいないから、こんなものだと思う。


「さて、次の組で俺たちの指導も最後か」


 午前、午後とやって来てすでにほとんどの訓練生たちの訓練が終了していた。

 俺とヴィクトリアの指導も次で最後だ。


 それで、最後に俺たちが指導するのは。


「何だ、妹よ。お前の所が最後の相手か」


 妹のパーティーだった。


「何よ!問題があるの?」

「いや、無いけど」

「だったら、ちゃんと仕事してよ!」

「当たり前だろうが!俺は仕事に手を抜かない主義だからな」


 俺と妹でそんな不毛な言い争いが続く中。


「それにしても、皆さん似合っていますよ」


 一方のヴィクトリアは妹のパーティーの子たちの新装備を褒めていた。

 俺も彼女たちの装備姿をちらっと見たのだが、実直な感想を言うと、とても良く似合っていると思う。

 それを見ていると買ってあげてよかったなと思えてくる。


「「「へへへ、ありがとうございます」」」


 褒められた酸には照れくさいのか、恥ずかしそうに笑っている。

 この辺も感じが良くて好感が持てる。

 男はこういうタイプの子が好きなのが多いから、この子たちは将来家庭をもって幸せになれると俺は思う。


 本当どこかのバカ妹と大違いだ。


 まあ、いい。

 それよりもさっさと嫌な仕事を終わらせてしまおう。


「おい、それはそうとして、そろそろ出発するぞ。お前らが講習を終えれば今日は終わるんだ。皆に迷惑かけないようにさっさと終わらすぞ」

「ちょっと!お兄ちゃん!まだ話は途中……って、待って!置いて行かないで!」


★★★


 一方その頃。

 ギルドが講習に使っているダンジョンの下層。


 そこでは一つの生命体が動いていた。


 その生命体が考えることはただ一つ。


 ようやく窮屈なガラスの中から解放された。

 もう二度とあそこへは戻りたくない。

 だから外へ出るんだ。

 何としても!

 邪魔する者をすべて排除して!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る