第314話~神獣たちとの契約 その3 セイレーン様、なぜあなたがここに?……百歩譲って来るのは良いのですが、羽目を外し過ぎないでください!~

 リネットのおじいさんの屋敷では結局二泊した。

 本当なら一泊の予定だったのだが、


「もう一泊して行ってはどうかね」


と、リネットのおじいさんがしつこく誘ってきたので結局二泊したのだった。

 まあ、おじいさんも久しぶりに孫と会えたので、色々話したかったのだと思う。


「それではまた来ます」

「ああ、元気でやるんだよ」


 最後はおじいさんたちに見送られて屋敷を出た。

 その一時間後。


「青い空、青い海。最高のロケーションね」


 俺たちの持ち船エリュシオン号の船上で、椅子に座ったヴィクトリアのお母さんが空を見上げながらそんなことを呟いていた。


 そうここが船上ということはここは海の上。

 どこの海かというと、俺たちが以前行った港町ガイアスとフソウ皇国のナニワの町との間の海の上である。


 もちろん、ここへ来たのはここに棲んでいる海の主との神獣契約との為である。


 海の主は強力な力を持った海竜の神獣だ。

 一度俺たちも戦ったことがあるがすごい力の持ち主だった。

 そんな海の主と契約を結ぶことができたらどんな力を得ることができるのだろう。

 そう思うだけでワクワクした。

 それでこうやって海の主を求めて船で海上を航行しているというわけだ。


 と、ここまでは良かったのだが。


「何でセイレーンおば……お姉ちゃんがここにいるんですか!」


 俺たちと一緒にエリュシオンに乗船したとある人物にヴィクトリアが文句を言っている。

 その人物とは……って、ヴィクトリアがすでに名前を言っているから誰だかわかるよね。


 その名は海神セイレーン。

 ヴィクトリアのお父さんの妹にあたる海を司る女神だ。

 セイレーンは他のヴィクトリアの一族同様に高い能力を持った女神様なのだが、いい年になった姪っ子に「お姉ちゃん」呼びを強要するちょっと困った人物である。


 まあ、それ自体はヴィクトリアの家庭の問題なので俺やエリカたちも何も言わないようにしている。

 だって何か不用意なこと言ったら怒られそうで怖いからな。

 ここは沈黙の一手が最適解だと思う。


 それはともかく。


「それは、ね。お母さんが呼んだからよ」


 ヴィクトリアの問いかけに答えたのはヴィクトリアのお母さんだった。


「何でお母様はおば……お姉ちゃんを呼んだんですか!」

「だって、海の事ならセイレーンに聞くのが早いし、海の主の居場所だって知っているし。それにセイレーンもたまには遊びに行きたいって愚痴ってたし。呼ばない理由がないじゃない」

「うぐっ」


 お母さんの発言は、遊びうんぬんの部分以外は完全に正論だったので、ヴィクトリアは何も言い返せず黙り込んでしまった。

 それを見て、セイレーンが勝ち誇ったように言う。


「そんなわけで、今日一日よろしくね」


 ということで、今日はセイレーンとともに海の主と会うために海を渡ることになったのであった。


★★★


 そんな風にしてしばらく進んだ先にある小島近くの海の上。


「この辺りに海の主が棲んでいるはずだから、今から呼ぶね。ピーちゃん、おいで」


 セイレーンが海の主に呼びかける。

 というか、海の主ってピーちゃんって名前だったのか。

 あの巨体の割にはかわいらしい名前が付いているな。


 まあ、いいけど。


 さて、それはともかくセイレーンの話によると海の主が来るまでにはしばらく時間がかかるらしかった。

 ということで。


「エリカさん、海の中冷たくて気持ちいいですね」

「ええ、そうですね」

「リネットちゃん、そこまでどっちが速く泳げるか競争しましょう」

「はい、ルーナ様」

「泳ぐの久々だからちゃんと泳げるかしら」

「ソルセルリ姉ちゃん大丈夫。いざという時は私が何とかするから」

「ホルスターちゃん、海で泳ぐのって楽しいね」

「うん、銀姉ちゃん楽しいね」


 急遽海上で碇を下ろして船を停泊させての、水泳大会が開催されることになったのであった。

 皆とても楽しそうで何よりだと思う。


 え?俺は泳がないのかって?

 今日はいい。

 今は契約に備えて大人しくしておくことにする。


 それに、俺的には嫁たちのまぶしい水着姿を拝めるだけでも満足なのでそれでいいと思っている。


 え?海の上で泳ぐとか、サメとかが心配じゃないのかって?

 その点は問題ない。


「海神である私がいるのに海の生き物が襲ってくるわけがないでしょ」


 セイレーンがそう太鼓判を押していたので何も問題はないはずだ。


 後、子供を海の上で泳がせるのはどうかって?

 その点も大丈夫だ。


「ホルスターに銀、その浮き輪の使い心地はどうだ」

「最高です、ホルスター様」

「気持ちいいよ、パパ」


 何せ二人のためにでかい浮き輪を用意しておいたからな。

 この浮き輪を使っていれば子供でも大丈夫だ。


 後、海の上といっても小島の近くで海流も穏やかな場所だから波とかの心配も無用だった。

 それに本当にいざという時にはセイレーンがどうにかしてくれるということだから備えは万全である。

 セイレーンの力をもってすれば、海流の流れを変えたり、あげく海の中でも呼吸ができたりするのだ。

 自分のテリトリーである海においてはセイレーンの力はそのくらい絶対なのであった。


 さすがはヴィクトリアの家族。

 中身にちょっと問題があっても、能力だけは一流なのであった。


 と、そんな風に俺たちが水泳を楽しんでいると。


「ピー」


 突然水面が波打ち、海の主が現れたかと思うとそうやって鳴いてきた。


「ピーちゃん、よく来たわね」


 海の主を見てセイレーンがそう言うと、海の主もご主人さまに会えてうれしいのか、首を伸ばしてセイレーンにすりすりしている。

 うん、何というかかわいらしい。


 それを見て俺はそんなことを思うのだった。


★★★


「それでは、これで契約完了ね」


 海の主との神獣契約の儀式が終わった。

 海の主は神獣にしては珍しく人との会話が不得手らしいので、セイレーンに仲介してもらって契約した。


「それで、セイレーン様。海の主の能力ってどういうものでしょうか」

「海の主の能力はね。『海竜の加護』ね」

「『海竜の加護』ですか」

「ええ、海でならありとあらゆる恩恵を受けられる能力ね。海での戦闘限定で強力なバフ効果を得られたり、水中で呼吸できたりもするようになるわね。まさに海なら無敵になれるわ」

「それはすごいですね」


 本当にすごい能力だ。

 海で戦うことはそんなにないと思うが、この能力さえ使えば海での戦いで負けることはないような気がした。


「海の主、ありがとな」

「ピー、ピー」


 俺がお礼を言うと、海の主はそう言い返して、俺のお礼に応えてくれたのだった。


 これで、合計7体の神獣との契約が完了した。

 今回の件で俺の力も大分アップしたことだし、俺は大満足だった。


★★★


 さて、神獣契約も完了したことだしもう帰るのかと思いきや。


「さあ、ジャンジャン飲むわよ!」


 セイレーンが音頭を取って飲めや歌えの大バーベキュー大会が始まった。


「「「さあ、どんどん焼きますから遠慮なく食べてください」」」


 俺の嫁たちがバーベキュー台で盛大に肉や野菜を焼き、それをみんながワイワイ言いながら食べるという格好だ。


「それではおばあちゃんが一曲歌ってあげるわ。ラ~ラララ~」


 ヴィクトリアのおばあさんが楽しそうに歌を歌ったり。


「うーん。やっぱり海の上で海風に吹かれて食べるバーベキューは最高ね」


 宴の合間にヴィクトリアのお母さんが海風にあたって涼んだり。


「そうだよね。ソルセルリ姉ちゃん。いいよね。ピーちゃんもお肉食べな」

「ピー。ピー」


 セイレーンなど海の主にバーベキューの肉をやったりと、みんなそれぞれに楽しんでいる。


 それでセイレーンが肉をやっている様子を銀とホルスターが羨ましげに見てたりする。

 それに気が付いたセイレーンは二人にこう言ってやる。


「あんたたちもピーちゃんにお肉あげてみる?」

「「うん」」


 セイレーンに許可をもらった二人は。


「「ピーちゃん、どうぞ」」


 と、嬉しそうに肉をやるのだった。

 とても微笑ましい光景だが、俺はこうも思うのだ。


 あの巨体にあれくらいの肉で足りるのか?と。


 俺はエリカに囁くように言う。


「おい、もっと肉を焼け」

「はい、旦那様」


 と、こんな感じでバーベキューは楽しく執り行われ、そのまま船上で一泊し、翌日ノースフォートレスへ帰ったのであった。

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