第313話~神獣たちとの契約 その2 神獣契約は順調に進む~

「お母様、お元気で」

「ええ、銀も頑張るのですよ」


 白狐とヤマタノオロチとの神獣契約を行った翌日。

 白狐と銀が別れの挨拶をかわすのを見守った俺たちは次の目的地へと出発した。


「『空間操作』」


 ナニワの町を出ると、すぐに空間転移して目的地の町のすぐ目の前へ向かう。


「お?たくさん人が並んでいるな」


 目的地の町の入り口の城門の前には町の中へ入る人たちが長蛇の列を作っていた。

 本来ならばこの人たちの後ろに並んで順番を待たなければならないが、今回はそんなに時間が無い事だし、特権を使わせてもらうことにする。


「ちょっと行ってくる」


 俺は馬車を降りて門番の所へ行くとある物を見せる。

 それを見せられた門番の兵士が驚愕した顔になる。


「これはクラフトマン宰相家様の……」

「そうだ。クラフトマン宰相家が認めた者に渡している印のペンダントだ。つまり、俺たちの身分はクラフトマン宰相家が保証してくれているということだ。ということで、ここを通ってもいいよな?」

「もちろんです。お通りください」


 俺たちがクラフトマン宰相家の関係者だというのを理解した門番は、長蛇の列に並ぶ人たちに優先して俺たちを通してくれるのだった。


 クラフトマン宰相家。リネットのお父さんの実家である。

 そうここはドワーフ王国の王都ネオ・アンダーグラウンドの町だった。


★★★


「おお、よく来たな」

「はい、おじい様も久しぶりです」

「リネットちゃん、よく来たわね。お兄様は元気にしている?」

「ええ、この前もお酒飲み過ぎて居間で大の字になって寝て、お母さんに怒られるくらいには元気ですよ」

「リネットお姉さまお久しぶりです」

「ああ、久しぶりだね。スーザンも元気そうで何よりだね」


 リネットのおじいさんの屋敷へ行くとそうやって家族全員で歓迎してくれた。


「グローブよ。すぐに歓迎の食事を用意するのだ」

「旦那様、畏まりました」


 おじいさんはそう執事のグローブさんに命令すると、すぐに俺たちを食事で饗応してくれるのだった。


「おいしいです~」


 リネットのおじいさんが真心を込めて用意してくれた食事はとてもおいしく、ヴィクトリアも大喜びだった。


「それで、リネット。今日は泊って行くのかい?」

「はい、今日は泊って行くつもりです」

「そうか。それでは準備するからゆっくりしていきなさい」

「はい。おじい様」


 食事中にリネットのおじいさんからそう誘われたので、当然泊って行くことにする。

 というか、確実に誘われると思っていたのでこう言われたらあらかじめ泊って行くと決めていたので予定通りだった。


「リネットお姉さま、遊びましょう」

「ああ、いいよ」


 食事が終わるとリネットのイトコのスーザンがそうおねだりしてきたので、リネットと銀とホルスター、エリカの四人を一緒に遊ばせることにする。


「いいですね。ワタクシも遊びたいです」


 ヴィクトリアが何か五人が遊んでいるのを羨ましそうに見ているが、


「打ち合わせでお前は用事をこなしに行くことになっているだろうが!遊んでいいのはその後だ!」

子供のように駄々をこねるヴィクトリアの首根っこを掴んでヴィクトリアのお母さんとおばあさんと一緒に用事をこなしに行くのだった。


★★★


「『空間操作』」


 リネットのおじいさんの屋敷を離れた俺たちは用事をこなすべく目的地に向かった。

 それで行った先は……。


「おお、ここの地底湖も久しぶりだな」


 ドワーフの国にある地底湖だった。

 そして、ここにいる神獣といえば。


「あの二匹、普段は地底湖近くの森に隠れ住んでいるって言っていたな。お~い。ネズ吉にカリュドーンの猪、達者でいるか~」


 白ネズミのネズ吉とカリュドーンの猪である。

 前に来た時、あの二匹は普段は地底湖周辺の森の中に隠れ住んでいると言っていたので、地底湖近くの森に行き、声をかけてみた。


 すると。


「これはお久しぶりです」

「お久しぶりです」

「ああ、久しぶりだな。お前たちも元気にしていたか?」

「「はい。おかげさまで我々は元気でやっております」」

「そうか。それは何よりだ」


 俺の声に応えて、すぐにネズ吉とカリュドーンの猪が森の中から出てきたのだった。

 二人ともとても顔色がよく、元気そうだった。


 なおカリュドーンの猪は、本来は山よりも大きい体を持った神獣なのだが、今は普通の猪くらいの大きさで俺たちの前に現れている。

 というのも、森の中で暮らすにはあの巨体のままだと不便なので特に何もない時は小さい体でいるようだった。


「ところで、ホルスト様方は今日はどのような用件でお越しでしょうか?」

「実はな……」


 挨拶もそこそこにネズ吉が俺に用件を聞いてきたので、それに答えようとすると。


「今日はね、あなたたちにホルスト君と神獣契約を結んでほしくてやって来たのよ」


 ヴィクトリアのお母さんが割って入って来た。

 ヴィクトリアのお母さんとおばあさんたち、今回は妙に積極的に行動してくれている。

 俺的にはしゃべる手間が省けてうれしいのだが、反面、後で何かありそうで怖い気もした。


「おや、あなたは?初めて会いますね。……え?この感じはまさか!」


 一方ヴィクトリアのお母さんに話しかけられたネズ吉の方は、最初こそ胡散臭そうな人物でも見るかのような顔をしていたものの、すぐにその正体に気が付いたらしく、カリュドーンの猪にも促して二人で並んで平身低頭した。


「まさか、あなた様方は女神様では?」

「ええ、そうよ。私は魔法を司る女神ソルセルリよ。それでこっちが私の母の……」

「月の女神ルーナよ」

「「まさか、二人も女神様がいらっしゃっているとは!!」」


 ヴィクトリアのお母さんたちの正体を知った二匹は驚き、今度は頭を地にこすりつけんばかりに頭を下げるのだった。

 こうした光景を見ると、本当神獣にとって神様とは逆らえない存在なのだと思うのだった。


 というか、ヴィクトリアも女神のはずなのに女神認定されていないなんて!


 ……まあ、いいや。ヴィクトリアが俺にとって女神なのは間違いないからな。

 今はそれでいいと思う。


★★★


「「それでは、これで契約終了です」」


 二匹との契約は10分ほどで完了した。

 いつも通り契約の儀式を行い、俺の体がポワッと光ったらそれでお終いである。


「それで、お前たちの能力ってどんななんだ?」


 その俺の問いかけに最初に答えたのはネズ吉だった。


「私の能力は以前にも使ったことがある『窮鼠猫を噛む』ですね」

「ああ、あれか。あれは役に立ってくれたからな。必要な場面でまた力を借りることにするよ。それで、カリュドーンの猪の能力は?」

「私の能力は『猪突猛進』ですね」

「『猪突猛進』?ああグランドタートル戦の時に使っていたやつか。あれが使えるのか」

「はい。存分にお使いになって世界に平和をもたらしてください」

「任せろ!」


 これで2匹からの説明は終わりだった。


「これ、お土産に食べ物を持ってきたから食べてくれ」


 そう言いながらカリュドーンの猪には好物だと聞いた果物を、ネズ吉にはチーズをあげておいた。


「それじゃあな」

「「お気をつけて」」


 こうして2匹との契約を終えた俺たちは次の目的地へと行くのだった。


★★★


「ミーちゃん、元気?」

「こ、これはルーナ様」


 地底湖を離れた俺たちは次に猫の神獣であるミーと契約するために月の遺跡に向かった。

 着くなりヴィクトリアのばあちゃんがミーに声をかけると、昼寝をしていたらしいミーが慌てて起きて、ばあちゃんに挨拶をする。


「はい、元気です。ルーナ様こそお変わりはないですか」

「私は元気よ。ミーちゃんも元気そうで何よりだわ」

「ありがとうございます。ところで、今日は何の用件でいらっしゃったのでしょうか」

「実はね。今日はうちのホルスト君と神獣契約を結んでほしくてやって来たの」

「神獣契約ですか」


 神獣契約と聞き、ふーんという顔をしながら俺のことを見てくる。

 その目つきはなんだか俺を値踏みしているように見えて、ちょっとだけそんな目で人を見るなとは思ったが、ミーの出した結果は今までの神獣たちと変わらなかった。


「まあ、いいですよ。ルーナ様のご紹介ですし。それにその人間邪悪なわけではないですし。契約しましょうか」


 そうやってすぐさまオーケーの返事をくれたのだった。

 ということで早速契約の儀式を行うことにする。


★★★


「これで終わりですよ」


 ミーとの契約も今までとの神獣と同様にすぐに終了した。

 これで6体の神獣たちとの契約が完了したことになる。


 これは大いなる成果だ。


 この先まだ神聖同盟たちとの戦いが残っている。

 ここで新たな力を得ておけばその戦いに大いに寄与することと思う。


「ところで、ミーの能力って何なんだ?」

「私の能力は『猫を被る』ですね」

「猫を被る?」

「まあ、擬態能力ですよ。大抵のものに変身することができます。戦闘には役に立ちませんが探索には役立ちますね」

「ほほう、なんにでも変身できるのか。それはすごいでな」

「ええ、すごいのですよ。まあこれを活用して世界平和に貢献してください」


 ミーの説明はこれで終わりだった。


「ヴィクトリア、お土産を出せ」

「ラジャーです」


 ということで、ヴィクトリアにお土産の魚を出させる。


「これはありがとうございます」


 魚が好きだというミーはお土産の魚を見るとよだれを垂らして喜ぶのだった。


「それじゃあ、またな」

「お気をつけて」


 こうして今日予定していた神獣たちとの契約が終わったのでリネットのおじいさんの屋敷に帰ることにする。


★★★


「ご飯できているよ」


 リネットのおじいさんの屋敷の門のところではリネットが俺たちを待ってくれていた、


 俺たちはリネットに案内されてそのまま食事に行く。

 リネットのおじいさんの屋敷に帰るとすでに食事の用意ができていた。

 俺たちが来たのでおじいさんも気合を入れたのだろう。食卓には昼の時よりも豪華な料理が並んでいた。


「うわー、お腹が空いていたので大感激です」


 昼間仕事をしてきたので腹空いてたまらなかったのだろう。

 ヴィクトリアが小躍りして喜んでいる。

 本当こいつ飯に執着するなあと思いつつも俺もテーブルに着く。

 そして、皆で食事を楽しむのだった。


 神獣契約も結構成立したし、最後においしいご飯も食べることができて良い一日だった。

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