今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、なぜかおまけで女神を押し付けられる~
第312話~神獣たちとの契約 その1 銀、手作りの稲荷寿司を白狐にプレゼントする~
第312話~神獣たちとの契約 その1 銀、手作りの稲荷寿司を白狐にプレゼントする~
「ねえホルスト君。そろそろ神獣との契約をしていかない」
明日から数日大規模訓練所が休みになるという前日。
ヴィクトリアのおばあさんがそんなことを言い始めた。
「神獣との契約ですか?」
「そうよ。あなた、まだ『ケリュネイアの鹿』ちゃんとしか契約していないでしょ?今のような時間がある時に他の神獣とも契約しておいた方がいいと思うの」
神獣契約か。
確かに俺の神属性魔法のリストの中に『神獣召喚』という魔法がある。
神獣と契約することによって神獣の持つ特殊能力を使えるようになる魔法だ。
この前のヨルムンガンド戦でも活躍してくれた有用な魔法だ。
ただこれを使うのには神獣たちと直接会って契約する必要がある。
その契約をしに行こうとおばあさんは言っているわけだ。
俺もずっと神獣との契約のことは気になっていたのでその話に乗ることにした。
「いいですね。是非行きましょう」
「本当!それなら早速準備しなきゃね、何着て行こうかしら。ソルセルリ」
「はい!お母様!」
俺が承諾するとおばあさんはお母さんと一緒に嬉しそうに出かける準備をするのだった。
それを見て俺は思う。
あれ?もしかしておばあさんたち、単に遊びに行きたかっただけじゃあ。
……まあ、いいか。
神獣契約のついでに遊びに行くくらいに思えばいいし。
ちょっと釈然としない思いを抱えつつも、俺はそう自分に言い聞かせることにするのだった。
★★★
「それじゃあ、出かけるぞ」
翌日、俺は家族を連れて神獣契約のために家を出た。
「パトリック、今日も頼むぞ!」
「ブルルル」
全員が馬車に乗り込んだのを確認すると、出発する。
とりあえず町の外へ出て街道を少し歩く。
しばらく歩いた後周囲に人がいないのを確認した後で。
「『空間操作』」
一気に目的地へと転移する。
向かった先は。
「ナニワの町へ来るのも久しぶりですね」
ヴィクトリアが目の前に広がる町の光景を見てそんなことを呟く。
そう最初に来たのはうちで預かっている銀の母親神獣白狐のいるナニワの町だった。
★★★
ナニワの町へ入ると、俺たちはそのまま白狐が棲む神社に向かった。
「お母様、久しぶりです」
「おや、銀久しぶりね。元気にしてた」
「はい、元気にしていましたよ」
久しぶりに母親に会えてうれしいのだろう。
銀が母親に飛びついて、ギューッと母のことを抱きしめる。
俺たちの前ではしっかりしたところを見せてはいても銀はまだ子供。
母親に甘えたいと思う年頃なのだろう。
かわいらしい尻尾と耳をフリフリさせながら母親から抱き着いて離れようとしなかった。
もちろん俺たちも無理に引き離したりせず、銀の好きなようにさせてやるのだった。
大体30分くらいくっついていたら気が晴れたのか、銀が母親から離れる。
「ヴィクトリア」
「ラジャーです」
このころ合いで俺はヴィクトリアに言ってある物を出させる。
「ほら、銀。お母さんに渡してあげな」
「はい」
そしてそれを銀に渡すと、さらに銀が母親に渡す。
「銀、これは?」
「お母様の大好きな稲荷寿司だよ。銀が皆様に協力してもらって作ったの」
「まあ、この子ったら」
娘が自分のために料理を作ってくれたのがとてもうれしかったのか、白狐は銀を抱きしめると頭を一生懸命なでなでするのだった。
とても美しい親子愛だった。
「「「銀ちゃん、良かったですね」」」
嫁たちなどその光景を見て感動しているくらいだ。
と、こんな感じでのんびりと時間が過ぎていくのだった。
最近あくせくとしていたので、たまにはこういうのもいいと思った。
★★★
さて、感動の親子対面が終わった後は、食事をする。
神社の鎮守の森の中に敷物を敷き、そこに料理を広げて皆で食べる。
「さあ、護衛の狐さんたちもどうぞ」
そう言いながらヴィクトリアが俺たちの護衛をしてくれている狐たちにも稲荷寿司を渡している。
こういう可能性を考慮して、ちゃんと彼らの分も用意してきていたのだ。
「コーン」
護衛の狐たちはそうお礼を言いながら稲荷寿司を受け取ると、自分の持ち場へ帰って稲荷寿司を必死に食べている。
本当に狐って稲荷寿司が好きなんだと改めて思う。
それはそれとして、俺たちもご飯を食べる。
「お母様、銀が稲荷寿司を取ってあげます」
「あら、銀は優しいのね」
銀がお母さんに稲荷寿司をよそってあげたりして、ほほえましい感じで食事は進んで行く。
それは別に構わないのだが、このままでは本来の来訪目的である神獣契約の話題を切り出せないな。
そう思っていると。
「そういえば、ホルスト様たちは何の用でこちらまで来られたのでしょうか」
何と白狐の方から用件を聞いてくれたのだった。
渡りに船。そう思った俺は用件を話そうと口を開こうとしたが、俺より先に用件を言った者がいた。
「「実はね。今日ここへ来たのはあなたにホルスト君との神獣契約をしてもらうためよ」」
そうやって用件を伝えたのはヴィクトリアのお母さんとおばあさんだった。
「えーと、失礼ですが、あなた方は?……はっ」
二人に誰かと聞こうとした白狐がハッとした顔になる。
そして、恐る恐るといった感じで改めて聞き直す。
「もしや、あなた方、いやあなた様たちは女神様では」
「そうよ。私は月の女神ルーナよ。それでこっちが」
「魔法を司る女神ソルセルリよ」
「まさか、ルーナ様とソルセルリ様がいらっしゃるとは!」
ヴィクトリアのお母さんとおばあさんの存在を知った白狐は慌てて平伏するのだった。
それを見て、白狐がここまでするってやはりヴィクトリアのお母さんとおばあさんは神として偉大なんだなと思った。
★★★
「わかりました。ホルスト様と契約を結ばせていただきます」
二人の説明を聞いた白狐は俺との契約を承諾してくれたので早速契約することにする。
「汝、ホルストよ。我の力を正しいことにのみ使うと誓えますか」
「はい、誓います」
「それでは、手の平を上に向けて、目の前に差し出してください」
白狐の指示通りに俺が手のひらを差し出すと、白狐がその上に手をポンと置く。
「お?」
すると俺の体が輝き出す。
その輝きは一分ほど続き、それが経つと元に戻る。
「これで契約は終了です」
どうやらこれで契約終了のようだ。
「ありがとう。これで大分助かりそうだよ。それで、白狐の能力って何なんだい?」
「私がホルスト様に与えられる能力は、『幻惑の戦士』。ホルスト様の力の7割ほどの力を持った分身体を作って戦わせることができます」
俺の7割の力を持った分身体を作って戦わせることができる?
それはすごい能力じゃないか。
「それは心強い能力だな。色々と役に立ちそうだ」
「ただし、分身体を出しているとホルスト様の魔力を消費しますので、その点はご注意ください」
ふーん。魔力を使うのか。でも魔法でも使うし、そこまでのペナルティーでもないか。
「それと」
「他にも何かあるの?」
「はい。分身体は何体でも作り出すことが可能なのですが、その場合、数が多いほど一体一体の力は落ちます」
「なるほど」
まあこれも妥当なペナルティーだろう。
強すぎる力には制限をかけないと危険だからな。
この辺りが妥当だと思う。
「わかった。説明ありがとう」
「いえ、いえ。どういたしまして」
最後はそんなお礼の挨拶で契約の儀式は終わったのだった。
★★★
「『空間操作』」
白狐との神獣契約が完了した後は次の契約のために場所を移動した。
「ホルスト様、よろしくお願いします」
「おお、任せとけ」
その際に白狐も同行することになった。
久しぶりに友達に会いたいということらしい。
ということで、行き先は……。
「この『火の山』に来るのも久しぶりだな」
フソウ皇国の聖地『火の山』だった。
ここにある洞窟にいるヤマタノオロチと契約するつもりなのだ。
「それでは呼んできますね」
そう言いながら白狐が洞窟にヤマタノオロチを呼びに入って行った。
しばらくして。
「皆様、お久しぶりでございます。それとルーナ様にソルセルリ様、初めまして」
ドンドンと地響きを立てながら慌てた様子で出てきたヤマタノオロチが、出てくるなり挨拶もそこそこにヴィクトリアのお母さんとおばあさんに平伏する。
白狐の時もそうだったが、神の威光とは本当にすごいと思う。
あの巨大なヤマタノオロチでさえこうして頭を下げるのだから。
とはいえ、この分だとうまく契約できそうだ。
俺は事態の推移を見守ることにする。
★★★
「これで、契約は完了です」
俺の目論見通り、ヤマタノオロチは俺との契約をあっさりと了承し、今こうして契約が完了したのであった。
「それで、ヤマタノオロチの能力って何なの?」
「我の能力は『聖域の守護者』ですね」
「聖域の守護者?それはどういった能力なんだ」
「特定のエリアを設定してその中での戦闘力を高める能力ですね。特定の場所や人物を死守しなければならない時などには特に役立つ能力ですね。その上、この能力は使用者以外にも複数の人物を対象にすることもできますので、集団戦にも向いていますよ」
「まあ確かにそういった場面はよくあるから使えそうだな。ペナルティーとかはあるのか」
「使用している間はエリア外だと対象者の能力が落ちますね」
「なるほど。確かにエリア以外だとそういうことになるのかもな。他には?」
「無いですね。以上です」
これでヤマタノオロチの説明は終わりだった。
その後はヤマタノオロチに大好きだという酒をふるまって、少し雑談してから帰還するのだった。
★★★
その日の晩はナニワの町に泊まった。
「お母様、今日は一緒に寝ましょう」
そうやって銀が母親と一緒に寝たがったので泊って行くことにしたのだった。
親子仲が良くていいことだが、それにうちの嫁たちが触発されてしまった。
「旦那様、私は今日はホルスターと寝ますので」
エリカはそう言ってホルスターと一緒に寝てしまったし。
「ホルストさん、ワタクシも一緒に寝るような子供が欲しいです」
「アタシも」
ヴィクトリアとリネットはそう言いながら甘えてくるのだった。
ということで、その日は夫婦生活無しで二人と一緒に寝ることにした。
一緒に寝ると二人のいい匂いと暖かい体温を感じることができたので、俺は満足しながら眠ることができた。
本当良い一日だった。
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